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デジタル技術は日本の製造業に何をもたらしたか?ものづくり白書2014を読み解く(後編)(2/5 ページ)

日本の製造業が置かれた状況について、経済産業省「ものづくり白書」の最新版(2014年版)を基に論じる本稿。今回は、その後編として、日本の製造業が国際競争力を維持・強化するための施策について、ものづくり白書を基に考えていく。ポイントは、デジタルテクノロジーの革新が、日本の製造業に利するかどうかだ。

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モジュール化でも競争力維持は可能か

 これらの主には効率化と多様化を実現可能というメリットから、当初は電機機械で先行して進んだモジュール化は、今では産業用機械に加えて自動車でも取り組みが進んでいるという(図1)。

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図1:モジュール化の最終製品別対処方針(出典:経済産業省調べ)(クリックで拡大)

 業績好調の日系自動車メーカーも、内需の冷え込みと併せて、次世代自動車の開発競争やシェア争い、多様なニーズへの対応、成長する新興国市場(図2)での現地メーカー/新興勢力の追い上げ、さらには、価格競争の激化など、厳しい現実と向き合っている。

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図2:自動車販売における新興市場の伸び(出典:自動車工業会資料よりみずほコーポレート銀行産業調査部が作成)(クリックで拡大)

 その中で、「コスト削減」と「車種の多様化への対応」を両立させる必要に迫られ、それが自動車におけるモジュール化への積極性につながっていると、ものづくり白書は指摘する。また、電子制御化、安全運転システムの装備、ネットワーク化といった自動車の高度化が進み、自動車構成部品における電子部品(電子部品はモジュール化がしやすいとされる)の比率が高まったことも、モジュール化に拍車を掛けているようだ。

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図3:自動車における電子部品比率の高まり(出典:McKinsey “Managing innovations on the road”)(クリックで拡大)

 モジュール型のモノづくりは、日本のメーカーが得意としてきた「擦り合わせ型」と対極をなすものといわれている。擦り合わせ型のモノづくりでは、製品の要素を密接に関連させながら、性能や効率性、小型化などを極限まで突き詰めていく。その製品を構成する要素それぞれを最適な形で組み合わせるため、高いパフォーマンスを発揮することが可能である一方、1つの変更が他に与える影響が大きくなり、設計・生産のコストが高くなり、開発に時間がかかるというデメリットがある。ただ日本企業の多くは、この擦り合わせ型で他を凌駕(りょうが)する品質・性能の製品を作り、競争優位を保ってきた。

 その意味で、モジュール化の流れは、日本のメーカーの強みを奪う可能性がある。実際、電機製品におけるモジュール化の流れは、日本のメーカーの強みを弱め、サムスン電子などの新興勢力を利する結果につながってきた。だとすれば、他の領域でもモジュール化が進めば、競争力が減退することにならないのだろうか。

 しかし、当事者たちはモジュール化は既に当然の流れであり、日本企業の不利に働くことはないと考えているようだ。経済産業省が、「モジュール化の進展による影響」に関して、調査したところ「(モジュール化で)擦り合わせを得意とする日本のメーカーが不利になる」とした自動車関連企業の回答者は「そうはならない」とした回答者の比率より「35.5%」も少なかったという(図4)。また、「製品の付加価値が低下する」と答えた回答者の比率も「そうはならない」とした回答者より23.2%少なかった。この傾向は産業用機械、電気機械ともに共通で、モジュール化はもはや必須の機能もしくは必然の流れであり、そこで有利不利は生じないと考えていることが伺える。

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図4:モジュール化の進展による影響(出典:経済産業省調べ)(クリックで拡大)

 とはいえ、上の調査でも、モジュール化で「(製品の)付加価値が高まる/プレーヤーが変化する」とした回答者の比率は、「そうはならない」とした回答者の比率より2.8〜5.7%多いだけだった。要するに、モジュール化は、日本メーカーの不利にはならないまでも、国際競争力の強化にもつながらないといえる。そうなれば、アドバンテージの維持・確保が重要なポイントとなる。ものづくり白書でも、モジュール化を進めるには以下の2点が重要だとの見解を述べている。

  1. 製品の技術革新分野をいかに日本が有利なようにコントロールしていくか
  2. モジュール化させない領域をどう戦略的にコントロールしていくか

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