ハードウェアベンチャーをやるには、何が大事か?:自動給餌器「PETLY」の生みの親、語る(1/3 ページ)
ハードウェアベンチャー RINNの手掛けた小型犬・猫向けの自動給餌器「PETLY」。「自分が欲しかった家電」を作ってしまったRINNのCEO 梁原正寛氏に、クラウドソーシングなどを駆使したモノづくりについて聞いた。
自動給餌器があれば、外出時間の長い仕事や旅行時、寝ている間など、飼い主がいない時や世話ができない時でも定期的にエサ(ドライフード)を与えられる。2014年夏に発売を開始した小型犬・猫向けの自動給餌器「PETLY」は、従来製品にはないデザイン性の高さと、説明書がなくても使えるほどの簡単な操作性が特徴だ。実際に使いやすいという声や店頭販売で予想を上回る売れ行きとなるなど、反応は上々だという。
このPETLYの企画から販売までを手掛けるRINNのCEOである梁原正寛氏に、製品を生み出すことになったきっかけや、製品を生み出すプロセス全体の話、家電を作るときに大切なことについて話を聞いた。
知人のデザイナーを巻き込んだ製品づくりへ
――PETLYを作った経緯について教えてください。
この製品を作ろうと思い立ったのは、私自身が猫を飼い自動給餌器を次々と試したものの、不満ばかりだったからです。自宅には猫が1匹いるんですが、私はWebディレクター、妻はファッションデザイナーで、夫婦で仕事が忙しく、夜遅くに帰宅することもよくありました。遅くに家に帰ると猫が「早くご飯がほしい」と鳴くんです……。そこで、使いやすい自動給餌器はないかとオンラインストアなどで探し回りました。
ですがデザインがやたら幼かったり、色が派手だったり、逆に武骨すぎたりと、北欧のデザイン家電のようなシンプルなデザインが好きな自分にとっては不満がありました。何より「すぐ壊れる」「操作ボタンが多くて手間取る」「説明書を見ようとしても英語のみ」など機能面も不満でした。ある日、趣味のヨガをしている最中にふと思い立って、妻に「自動給餌器を自分で作る」と言ってみたら、あっさり「うん、作ってみたら?」と賛成してくれました。早速マーケティングを開始しました。
――プロダクトデザインはどうしましたか?
「自動給餌器を作る」と宣言したのが2013年8月。1カ月間マーケティング調査を実施し、同年9月には事業計画書を書き上げました。同時に、かつて仕事で関わった信頼するグラフィックデザインデュオのミラクルデラックスに相談してプロダクトデザイナーを紹介してもらったんですが、その人がなんと無印良品の「第1回 MUJI AWARD」で金賞を受賞している小宮山洋さんでした。デザインのイメージについてはぼんやりと形はあるものの、言葉で伝えるのは難しい。そこで利用したのが iPhone、iPod touch、iPad用アプリの「Sumally(サマリー)」(※)でした。これに自分がよいと思うデザインの製品などを見つけたら登録しておきます。それを見せてイメージを伝えました。
――製品の機能についてはどのようにして決めましたか。
自動給餌器の機能については、従来製品の不満を徹底的に調査しました。レビューサイトは全て目を通してデータベース化しました。そうして出来上がったコンセプトが「インテリアに馴染む美しい自動給餌器」でした。2013年11月には会社を設立し、法人登記が可能で賃料も手ごろな渋谷のシェアオフィス「PoRTAL Shibuya」への入居を決めました。資本金は当時たったの200万円でした。
続いて設計、製造の委託先探しに入りましたがとても苦労しました。10社以上にコンタクトしましたが、ほとんど断られました。最後に行ったのが長野県の老舗電子機器メーカー、三映電子工業です。製品について説明したところエンジニアたちが非常に興味を持ってくださって、その場でいろいろなアイデアを議論し始めて……。すんなりと同社に決まりました(笑)。
三映電子工業には、寸法と外形のデータを渡し、基板設計からアセンブリ、量産まで全て依頼しました。ユーザーインタフェースについては、ボタンはなるべく少なく3個以内にしたいとお願いしました。その他では、エサのニオイが漏れにくいこと、また洗いやすく持ち運びしやすいこと、電源コードをなくすこと、など。
コンセントから電源を取る場合、旅行中の震災などによる停電が心配です。コードがあるとかみつき防止のため補強が必要になりデザイン性も悪くなります。
また世界中で使えるよう乾電池を希望しました。これは結局、単一電池4本になり、これが重りになることで底にゴムを貼って小型犬ではびくともしない重さを確保できました。
ふたを開けてエサを勝手に食べてしまわないように、持ち手を兼ねたストッパーも付いています。内部は拡張性を考えて、ある程度空間を確保しています。
――機能が盛りだくさんですね。
このような理想ばかりを伝えたところ、大変な見積もり額になってしまいました。予想はしていたものの、見積もりをもらった時はどうしようという状態でした。
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