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「モノづくりで命を救う」――新たな市場を開拓した京都の試作メーカーの哲学「心臓シミュレーター」の開発秘話も(2/2 ページ)

Vero Softwareジャパングループは東京都内で「Veroグループフォーラムジャパン2014」を開催。その基調講演で、京都に本拠を置く試作メーカーであるクロスエフェクト社長の竹田正俊氏が登壇した。クロスエフェクトは、同社が開発した「心臓シミュレーター」が「第5回 ものづくり日本大賞」において内閣総理大臣賞を受賞するなど、近年注目を集めている。

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新たな顧客を創造せよ

 竹田氏は講演の中で、企業の経営について「今ある顧客との関係がずっと続くとは限らない。何かに依存するのではなく、貢献するという姿勢で新たな顧客を創造していくことが必要」と語った。その思いの背景にあるのは、三洋電機の下請け工場を経営していた竹田氏の父親が言った「寄らば大樹の陰」という言葉だ。クロスエフェクトを創業したばかりの竹田氏に、「お前のやっていることはだめだ。大樹、つまりは大企業に寄りかかっていれば安心なのだ」と話す父親の会社が衰退していく姿を目の当たりにした竹田氏は、「本当に怖かった」と語る。

 また同氏は、ドラッカーの言葉を引用し、ベンチャー企業が成功するための要因は「思いもしなかった市場で、思いもしなかった顧客が、思いもしなかった目的のために買ってくれる時である」と主張する。その最たる例が心臓シミュレーターの開発だったという。

「心臓シミュレーター」開発秘話

 竹田氏は2009年から「心臓シミュレーター」の開発に取り組んでいる。その製作過程は、患者の心臓のCTスキャンデータを基に、光造形方式の3Dプリンタで心臓の樹脂モデルを製作。次にそれを利用して複雑な内腔形状の表現が可能な特殊型を製作し、そこに樹脂を流し込むというものだ。

 クロスエフェクトが以前行っていた金型加工の技術や、3次元設計のノウハウを生かすことで、心臓の内部を精密に再現しており、かつ軟質な素材で作られているため、医師が心臓手術を行う前に本物のメスを用いたシミュレーションを行うことができる。術前に、実際の心臓に近いモデルでシミュレーションが行えるということは、手術の成功率を高める上で非常に効果的だという。この心臓シミュレーターは、実際に医療の現場で利用されており、その成果が認められ「第5回 ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞を受賞するなど、近年注目されている製品だ。

クロスエフェクトが開発した「心臓シミュレーター」(左)とその製作工程図(右)(クリックで拡大)

 この心臓シミュレーターは、国立循環器病研究センターの医師から「赤ちゃんの100人に1人は先天性の心疾患を抱え、すぐに手術が必要な状態で生まれてくる。しかし、赤ちゃんの心臓は小さく、手術は非常に難しい。なんとか事前に手術のシミュレーションに使うための心臓のモデルを作ることができないだろうか?」と依頼されたことが開発のきっかけとなった。しかし、それまで自動車や家電の部品を製作していた竹田氏は当初「これは自分たちの仕事ではない」と断ろうとしたという。だが、ドラッカーの「変な客がきたら、それが本命の客だ」という教えによってその考えを変え、チャレンジしたことが今までになかった新たな顧客の創造につながった。


「心臓シミュレーター」の実用化に向けての取り組み(クリックで拡大)

 竹田氏は、この心臓シミュレーターの開発の経験から「こうした医学と工学の連携には、医療用語の難しさ、製品に対して実際の医療現場で使うものとして要求されるレベルの高さ、ビジネスと研究の違いなど、非常に難しい面も多い」と話す。現在クロスエフェクトは、国立循環器病研究センターと共同でこの心臓シミュレーターを用いた臨床実験を行っており、今後は画像診断だけでなく、こうした臓器のモデルも診療で利用されるように普及を進めていきたいとしている。

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