製造の未来を切り開くロボットセルの価値と課題:ロボットセル(1/4 ページ)
ロボットが多能熟練工になる!? ――。装置型産業における生産の自動化が進む一方、人手による作業が多かった組み立て生産領域の自動化が急速に進もうとしている。そのキーワードとなっているのが「ロボットセル」だ。ロボットがセル生産を行う「ロボットセル」はどのような価値をもたらし、どのような課題を残しているのか。日本ロボット学会会長の小平紀生氏が解説する。
なぜロボットによる生産が注目を浴びるのでしょうか。それには日本経済と製造現場の発展の歴史と現在置かれている立場が関係しています。
もはや半世紀近く昔のことになりましたが東京オリンピックから4年後の1968年、日本はドイツを抜きアメリカに次いでGDP(Gross Domestic Product、国民総生産)世界第2位になりました。まさに高度経済成長の最中のことです。製造業がGDPの35%を稼ぎ出し、生活が目に見えて日々豊かになっていく勢いのあった時代でした(図1)。機械・電気・鉄鋼や素材など工業の目覚ましい進歩、加えて物流機構や資金調達など社会構造の充実がこの時代の大きな成長の背景でした。
製造現場でこの勢いを支えたのは標準化された製品の大量生産です。人手作業から機械化に進んだ大量生産により生産性向上と品質安定が実現され、これが日本の経済成長の原動力となりました。
それから42年後の2010年、日本は中国に抜かれてGDP世界第3位に後退しました。GDPの製造業比率は20%に低下しました。製造業の存在感が薄らいだこととGDPの停滞は無縁ではありません。GDPの製造業分(製造業の付加価値)は、バブル経済崩壊後から今に至るまで右肩下がりが続いているからです。これは憂慮すべき状況です。
ただし製造現場も手をこまねいていたわけではありません。製造業の従業員1人当たりの付加価値生産性は、1970年代のオイルショック、1990年初頭のバブル経済崩壊を乗り越えて、2004年頃まで右肩上がりを続けて来ました(図2)。日本の製造業も底力があったといえるでしょう。
設備投資も人員投入も強化して生産規模を拡大してきた高度経済成長期は、第一次オイルショックの1973年に突如として終わりを迎えます。製造業の現場は投資抑制・効率優先に方向転換をしました。大量生産から多品種少量生産への移行です。
このオイルショック後の製造業を支えたのが自動化です。自動化の流れの中、その象徴として利用が広がったのが、プログラマブル(プログラミング可能)なCNC(Computerized Numerical Control)工作機械や、1980年を普及元年とする産業用ロボットになります(関連記事:いまさら聞けない産業用ロボット入門〔前編〕)。CNCや産業用ロボットが登場した技術的背景にはマイクロプロセッサの実用化があります。あらゆる生産機械はマイクロプロセッサを搭載してプログラムによって制御することが可能になりました。「専用の生産機械を作らずにプログラマブルな生産機械を使う」という選択が、機械化から自動化への変化になります。これにより多品種少量生産が可能になり、生産効率の向上が果たされ日本経済に安定成長をもたらすことにつながりました(図3)。
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