“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”JINS MEMEはなぜ生まれたのか:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(2)(3/4 ページ)
“メガネメーカーが開発したウェアラブル機器”として大きな注目を集めたジェイアイエヌの「JINS MEME」。そのアイデアはどこから生まれ、そしてそれを形にするにはどんな苦労があったのだろうか。革新製品の生まれた舞台裏を小寺信良氏が伝える。
まずは研究の礎になるという価値
MEMEは「自分を見るアイウエア」という価値を描くが、まず当面の重要な役割として期待されているのが、研究開発分野だ。実は、まだ眼球運動にどういう意味があるのかという研究は世界でほとんど進んでいない。なぜ進まないかといえば、効果的な計測機器がなかったため、広く大量の、あるいは長期間にわたる計測データがないからだ。
今までもヘルメットにカメラが付いているような、“いかにも”な計測器具を付けて、眼球の動きをトラッキングする方法は存在した。だがそれでは、日常生活そのものを計測することは不可能だ。見た目が特殊で大掛かりであるため日常生活を支障なく行えないからだ。しかも器具の数も限られているので、大量のデータを同時に収集することもできない。
また精神的疲労度を計測する方法にしても、これまでは脈波を測るという方法がとられていた。脈波とは血流量の変化を捉えるもので、指先や耳たぶなどにセンサーを付けて計測する。
ところがその計測方法も、一定時間何かの動きをして、その後センサーを取り付け、2分間瞑想しながら脈を取るといった手法なので、対象者の性格や環境による違いが大きくなる問題があった。白衣の先生に囲まれて「さあリラックスしろ」といわれてリラックスできる人と、できない人がいるのは当然である。
一方「MEME」のように、普通のメガネと全く変わらないデザインのセンサーなら、多くの人が日常的に付けてくれる。そういう状況になって初めて「一般の人が日常生活の中で」という条件のデータが取れる可能性が生まれるわけである。
つまり、MEMEが発売されたからといって、そこからすぐに何かが分かるわけではなく、眼球運動にどんな意味があるのかの体系化された研究が、そこからようやくスタートするのである。
JINS MEMEの課題とは
これらの研究を進めるためには、MEMEで計測した大量のデータをどこかに集積する必要がある。それを誰がやるのか、またどういったポリシーでやるのかといった問題が出てくる。
例えばジェイアイエヌがデータを集めて、研究者に提供していくのか。それは有償なのか無償なのか。最初からどこかの医科大に集積していくのか、などさまざまな枠組みが考えられる。
また個人情報とデータをどれぐらいひも付けていくのか、ということも考えなければならない問題となるだろう。MEMEの各データは、継続的にトラッキングするため識別される必要があるので、IDが割り振られることになるだろう。さらに研究のためには、どういう人のデータなのかが分かる必要もある。性別、年齢、職業、地域、移動量といったメタデータも付けることになるだろう。そうなった時、プライバシーの問題とどう向き合うのか、ということも整理していかなければならない。
井上氏は、「こういう新しい技術は怖いと思われた終わり」だという。つまり、社会的脅威になり得るというレッテルが貼られたら、もうそれ以上先へは進めない。そこをどうやってかじ取りしていくか。「最初の一歩の踏み出し方を間違えないよう、これから慎重に詰めていく」と井上氏は語っている。
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