生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?:いまさら聞けない「工場立地」入門(1)(2/3 ページ)
海外工場立ち上げに失敗するケースは約3分の1にもおよび、その多くの理由が「立地」によるものだという。しかし、製品開発やサプライチェーンマネジメントについての議論は数多くあるが、なぜか「工場立地論」はほとんど聞くことがない。そこで本稿では、長年生産管理を追求してきた筆者が海外展開における「工場立地」の基準について解説する。
海外工場立地を成功させる20の基準
これまで、なぜか経済メディアでは、アジアへの工場展開の動きを「人件費の安さ」にばかり関連付けて紹介するケースが多かった。当然ながらそれは重要な1因子であろう。しかし、個人が家を買う場合でさえ、多面的な視点から比較評価するはずである。例えば「交通の便はどうか」「自然環境は?」「買い物の利便性は?」また「教育環境は?」などなど……。「価格の安さ」という1つの要素だけで家を選ぶ人はいないだろう。
同じように、工場を選ぶ際にもさまざまな評価尺度から総合的に考える必要がある。経営資源としての「ヒト・モノ・カネ」などの観点でそれらを大別すると、以下の5つの評価軸に分類できる。
- A 人間の能力と資質
- B 組織力とビジネス文化
- C 原料資材の調達性
- D コスト
- E その他外部環境
さらに細かく見ると、20個の評価尺度を挙げることができる(図2)。
A 人間の能力と資質
「A 人間の能力と資質」は、最も大事な項目である。「モノづくりは人づくり」ともいわれる。仕事は、人間がするものである。どの国どの場所で、どんな人材が得られるのか、質・量の両方の観点からしっかり検討すべきだ。職種については、以下の3つを考える必要がある。
- (A1) マネジャー
- (A2) エンジニア
- (A3) 労働者
人件費で注目するのは「労働者」(A3)だが、工場はきちんとした「マネジャー」(A1)層(中間管理職)がいなければ回らない。製品の現地仕様化や製造設備の維持には、それなりのエンジニアが必要である。最初の立ち上げ期には、マネジャーやエンジニアを日本から派遣する場合が多いが、いつまでも貴重な人材を現地に貼り付けておくわけにはいかない。また、そうすると現地はいつまでも独り立ちできないだろう。
B 組織力とビジネス文化
「B 組織力とビジネス文化」も重要である。人の頭数だけいても、規律と主体性を持って組織化できなければ、単なる烏合の衆である。特に、組織力の観点で考えるべきは、以下の3つだ。
- (B1) 社内教育の必要性
- (B2) 新しい物事への受入能力
- (B3) 転職(ジョブ・ホッピングの程度)
「社内教育の必要性」(B1)については、その地域における一般的な高等教育や職業教育のレベルと、自社が求める知識・スキルの差で決まる。求める仕事が単純作業なのか、やや複雑な作業なのかにもよるだろう。「新しい物事への受入能力」(B2)は、進出する企業が、その地域にない新しい技術や業務形態を持ち込む場合や、現地でのカイゼンを期待する場合に、重要となる。「転職(ジョブ・ホッピングの程度)」(B3)については解説は不要だろう。
C 原料資材の調達性
「C 原料資材の調達性」は、現地進出においてこの面をどれだけ期待するかによる。安価な原料の産地の近くに立地する場合、その量と質の両面が評価対象である。
- (C1) 現地の資材供給能力
- (C2) 現地調達資材の質
無論、コア部分は日本から供給し、周辺部分だけ現地調達するようなケースでは、あまり重要ではない。
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