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サラリーマンしながら、起業家マインドを身に付けようマイクロモノづくり概論【人づくり編】(3)(1/2 ページ)

現在の大手企業におけるイノベーションの不足は深刻である。その解消手段は、社内にはない!? 企業勤めのサラリーマンも、クリエイターやベンチャーの集うコワーキングスペースや、起業勉強会に参加することで、社内にイノベーションの種を持ち返ることが可能だ。

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 マイクロモノづくりに取り組む際、これまで出会えなかった人と出会えば、自分一人では解決できない課題が解決できる。要するに、今はやりの言葉で言えば、「イノベーション」を起こすために、人と出会うということになる。

 中小企業やメイカーズのような個人事業主については、SNSやさまざまのイベントを通じて、新たな人材に出会い、イノベーションの萌芽を自社の組織内に持ち込み、これまでになかった新規性の高い製品や、サービスを生み出した事例はたくさん見受けられるようになった。今後もイノベーションは起こり続けるだろう。

 一方、現在の大手企業におけるイノベーションの不足は深刻である。

 筆者は約20年前、大学院で日本の経営学におけるイノベーション研究の草分けである教授に師事し、博士課程の“不良学生”として研究に従事していた。当時は、「イノベーション」という言葉を一般の方に言っても全く理解されず、「はあ、それは、新たな経営手法か何かですか?」というような時代であった。当時の日本におけるイノベーション研究も、「大手企業におけるイノベーションをどのようにしたら創出できるか」という命題であった。

 現在、果たして「日本の多くの企業が連続したイノベーションを起こせるような企業組織となっているか?」と問われても、一部の業界を除いて、残念ながらそれは「ノー」であると言わざるを得ない。現在、「イノベーション」という言葉自体は、日本のビジネス界において広く認知されている。

 「イノベーション」という概念は、経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターによって、初めて定義された。シュンペーターは、イノベーションを「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で『新結合』すること」としている。

イノベーション(innovation)とは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明と誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。

ウィキペディア「イノベーション」より

 さて現在の日本の大手メーカーは、イノベーションによって生み出された新製品や新サービスによって、世界の競争で勝ち残っているといえるだろうか? 昨今の電機業界における大規模なリストラクチャリングの動きを見ても、企業規模に見合うほど十分なイノベーションは起こせていないといえるのではないだろうか。

 中小企業やメイカーズを中心に「マイクロモノづくり」という概念を広めている当社ではあるが、昨年くらいから大手メーカーの経営陣に、これからの新しいモノづくりの潮流に関して意見を求められる機会が増えている。

 大手メーカーの経営陣は、将来を見込んだプロダクト・イノベーションの重要性は十分理解している。しかし、既存の体制では、将来の事業の核になるような新規事業の種がなかなか出てこない状況だという。

 特に相談が多いのが、数万人クラスの伝統的な大手メーカーだ。本業は堅調であるが、ここ数年で採用した若手エンジニアの非活性が大きな課題となっているという。どの企業も、異口同音に「若手エンジニアに元気がない」と口をそろえて言う。

 そのため「若手エンジニアに活力を与え、イノベーションを生み出せる環境をどうしたら作れるのか?」と聞かれるのだ(ただし、われわれはあくまで専門は「中小企業の自社製品開発のコンサルティング」である)。

 どうも、大手メーカーから見ると、中小企業の自社製品開発は、自社の若手エンジニアが自ら作りたいものを生み出す動きと同じように見えるらしい。

 経営陣と面談していくと、「そもそも、貴社は若手エンジニアにイノベーションを“本当に”期待しているのか」という疑問が出てくる。もちろん、そのような単刀直入なもの言いはしないが、やんわりとそのことを伝えている。

大手老舗メーカーに“より高い山”は必要ない

 登山家は、心の赴くままにより高い山に登りたい衝動がある故に「登山家」と呼ばれる。エンジニアも同様で、よりハードルの高いエンジニアリングを成し遂げたいという情熱があるものだ。

 これまでとは全く異なるコンセプトの製品を、これまで使ったことがない技術を用いて新規開発するところで、エンジニアのモチベーションがアップするのだろう。しかし残念ながら、全てのエンジニアにそのような挑戦的な仕事が与えられるわけではない。「利益の最大化を図ろう」という企業論理に基づき、売れ筋製品開発(マーケティング用語でいえば「キャッシュ・カウ」)のプロセスに人的資源が投入されるからである。

 多くの大手老舗メーカーでは売れ筋の商品は既に決まっている。エンジニアの多くが携わるのは、売れ筋製品の細かなバージョンアップなど「持続的イノベーション」のエンジニアリングとなり、全くゼロからの開発というものは少ない。

 売れ筋商品の事業でも固定費を捻出するためには、数カ月ごとに新製品を出して売り上げを立てなければならない。しかし、その中であえてハードルの高いエンジニアリングに挑戦し、それに失敗して、時間を無駄にしている暇がない。よって、現行機種の細かいバージョンアップで、競合の新製品のラインアップに後れをとらないように対応するというのが、日本の大手メーカーにおける製品開発のスタンダードとなってしまっている。

 つまり大手老舗メーカーにおける開発の多くは、“より高い山”は必要ないのである。先輩エンジニアの既に踏破したルートがあり、そのルートを地道に歩んでいけば、難なく山頂にたどり着けるからだ。

 新人エンジニアなら設計開発自体が初体験であり、そういった仕事でも面白く感じるかもしれない。しかし30代も過ぎ、エンジニアとして油が乗ってきても、“地味な”エンジニアリングばかりでは、さすがに飽きが来るだろうし、エンジニアとしての自分の技術がこのまま停滞してしまうのではないかという焦燥感に駆られるだろう。

 とある精密機器の大手に勤める現役エンジニア(30代半ば)が、現在の内部状況についてこう話していた。

「新製品の発売を急ぐあまり、イノベーションを起こそうにも、イノベーションを起こす時間的な余裕がない。常にギリギリまで製品設計を追い込んでいるので、既存製品のバージョンアップとなると、新機能を追加する余裕がない。ちょっとしたバージョンアップなのに、実質は、ゼロから全部設計し直しになる。そのため膨大な業務が発生する。1人が担当する機種数が多かったり、残業規制に伴ったコストカットを求められたりで、時間に余裕が全くない。設計部隊は、詳細が詰まっていない“ざっくり仕様”を(主に海外の)アウトソースに丸投げする状態だ。現在、ゼロからの新規開発の経験値があるエンジニアはどんどん減っていっている」

 切迫する現場は、イノベーションとは程遠い状況のように見える。

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