小規模事業者にとって厳しい状況を乗り越える:伊藤昌良の「知覚動考」(3)
起業のハードルは低くなっても、事業の継続は非常に厳しい。しかしそんな状況でも元気な企業はたくさんある。小規模事業者が努力できることは?
2014年も既に半分が経過しようとしています。ウカウカしていると、今年もあっという間に年賀状を書く季節がやってきてしまうので、時間を大切に使いながら過ごしていきたいと思います。
MSPは小規模事業で、私自身が創業者であるオーナーの企業です。多くの小規模事業オーナー企業は今、厳しい状況下に置かれさまざまな課題を抱えています。
残念ながら、MSPも厳しい状況下であることは紛れもない事実であり、売り上げ、人事、資金のどれをとっても、誰かに誇れるレベルではありません。そんな中、必死にこの局面を乗り切ろうとさまざまなことを学び、行動に移している状況です。まさに創業11年目は「知覚動考」を繰り返し、反転攻勢に出るための準備をしているといったところです。
資本金は本気度のバロメーター
中小企業庁「小規模事業者の現状と課題について2013年9月」の「小規模事業者を巡る現状」には、「小規模企業の数は、全体として減少しているが、減少しているのは個人事業者であり、会社形態を取る小規模企業は近年増加」(小規模企業以外は個人事業者および会社の双方が減少)と記載されています。
2006年以降、小規模事業者の中の「会社数」が上昇していますが、2006年5月の会社法改正によって「1円起業」(資本金1円からの起業)が可能になったこともその1つの理由かもしれません。第1回では「開業率を上げなければならない」と述べました。しかし、1円起業で法人化した企業は、果たしてその後、きちんと事業継続できているのでしょうか。
以前、私の事業を法人化する際、先輩経営者から「事業を始めるに当たって、『法人化するということ』は、周囲に対し決意を表明するための手段だ」ということを言われたことがありました。法人化するのには、最低、登記費用である25万円程度の資本金を用意する必要があります。その金額の大きさが“本気度のバロメーターになる”ということなのです。やはり“本気ではない人”には、誰も投資も融資もしてくれないものです。資本金の準備能力は「ビジネスでどれだけ収益を上げられるか」と、ある意味同義といえます。つまり、資本金の額はやはり、企業の信用度につながってしまうのが現実だと思います。
資本金1円の会社と取引する勇気は私にはありません。もちろん業種や起業の形態によってもさまざまでしょう。しかし私は今でも、先輩の言っていたことはもっともだと思っていますし、起業を目指すという方がいれば、法人化することを強く勧めています。「起業時の本気度」は、その後の経営や、事業が継続できるかどうかにも関わってくると思います。
小規模事業者にとって厳しい状況を乗り越える
「企業の8割超が事業承継を経営問題と認識 〜一方で、6割超の企業が事業承継への取り組みなし〜」という、中小企業を対象とした帝国データバンクの調査結果がありました。事業が継承されなければ、長年積み上げてきたさまざまかつ貴重なノウハウも継承されません。
1.事業承継を「最優先の経営問題」と捉えている企業は23.3%。「経営問題のひとつ」(63.0%)と合わせると、企業の86.3%が事業承継を経営問題として捉えている。
2.しかし、事業承継を進めるための計画については、「計画はない」が30.0%、「計画はあるが、まだ進めていない」が32.4%となり、6割超の企業が事業承継への取り組みを行っていない。「進めている」は27.6%にとどまった。
3.「事業承継計画を進めていない/計画がない」理由として、「まだ事業を譲る予定がない」が半数近くに達する。事業の将来性への不安や借入に際しての個人保証も上位に挙がった。
4.事業承継で苦労することは「後継者育成」が約6割で最多。「従業員の理解」が約3割で第2位。
5.すでに事業承継を終えた企業で、良かった点として、「従業員の経営参加や権限委譲」「仕事の効率アップ」「従業員の士気向上」「業績の改善」が上位に。
こういう背景があるからこそ、昨今は小規模事業者の事業承継にM&Aが必要だといわれるようになってきているのですね。金融機関では、後継者難の企業に対しM&Aの仲介サービスなど展開していますが、なかなか進んでいないのが現状のようです。
私の経営者仲間の企業に、実際3社をM&A(事業継承)し、吸収した会社の社員を1人も解雇せずに事業再生を果たしているというケースがあります。これはとても心強いことです。いつの時代も経営が簡単だったことはなかったと思います。とにかく時代のニーズを捉え、消費者に求められるサービスを提供できる体制を整えることが大切ではないでしょうか。前述の仲間も、まさにそういった体制を整えていました。
今は、スピードを求める傾向がますます強くなり、そのニーズを満たせる体制を整えるには少人数では応えきれないことが多くなってきています。そういう意味でも、私たち小規模事業者にとって厳しい状況であることは間違いありません。
とはいえ、小規模事業者であるから行えるサービスは無限にあり、元気な企業はたくさんあります。そんな元気な企業を観察し、社会に求められることを精査し、提供サービスを取捨選択し、小規模事業者にでも対応可能かつ時代に合ったサービスに切り替えていく必要があります。
小規模事業を経営する身としては、“M&Aされる側”ではなく、後継者難の会社を“M&Aする側”になれるように奮闘し、途絶えさせてはいけない技術を未来へ継承していける会社にして行かなければと思う今日この頃です。(次回に続く)
Profile
伊藤 昌良(いとう まさよし)
1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」創設メンバー。「自分に出来る事を、自分の出来るやり方で、自分が出来る限りやる」を基本とし、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。
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