「いいから黙ってやれ!」じゃダメ! ――ちゃんと議論して、コンセンサスを取ろう:甚さんの「コミュニケプレゼン」大特訓(8)(1/3 ページ)
手っ取り早く結論や答えを求めるのではなく、議論でお互いの理解を深める! 日本人技術者が苦手なコンセンサスを押さえよう。
当連載の登場人物
根川 甚八(ねがわ じんぱち)
根川製作所 代表取締役社長。団塊世代の大田区系オヤジ技術屋。通称、甚さん
国木田良太(くにきだ りょうた)
ADO製作所 PC事業部 設計2課 勤務。甚さんいわく「イマドキな若者」。機構設計者。通称、良君
沢田恵梨香(さわだ えりか)
ADO製作所 PC事業部 設計2課に勤務する派遣社員。良君のい〜加減な設計を製図でしっかりフォローする優秀な設計アシスタント。製図専門学校卒。通称、エリカちゃん
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
甚さん! やっと暖かくなってきましたね。今年は何だか忙しくて、花見もたったの1回ですよ。ここら辺で手羽先にホッピーといきませんか?
不景気のときは、ホッピーが良かったけどよぉ、アベノミクス効果がちょいと出てきたからには、やっぱビールだろがぁ。「男は黙ってサッポロビール!」ってところかなぁ。
そのせりふ、私の祖父がよく言っていましたね……。
おぉ、そうよ。「男は黙ってサッポロビール!」とか、「黙って俺について来い!」とかなぁ。昔の男はたくましかったぜぃ。それに比べ、“あれ”じゃなぁ。“あれ”でも「院卒」ときたもんだぁ。
なっ、何ですか? どうして僕のことを見るんですか?
そういえば、そういうせりふをよく言う人がうちの会社にいるんですよ。ねぇ国木田さん。あの部長……。
あー、いつも高そうなブレザーはおってキザなかっこうしている部長でしょ? うちの会社、3期連続で赤字なのに、ノーテンキなかっこうだよね。
良君とエリカちゃんが勤務する某企業は、3期連続赤字です。所属するPC事業部は、海外の低価格、ハイパフォーマンス機の攻勢でじり貧です。そのような状況にもかかわらず、この部長は派手なカジュアルスタイルです。
周辺が暗くならないよう、服装だけでも明るくしたいという意思ならば理解できますが、そういうわけでもないようです。来賓がきても、株主総会でもあの格好です。
2人の部長への不満が、以下です。
- いつもの口癖が、「黙って俺についてこい!」
- しかし明確な指示や方針を示さない
- 2人の直属の課長を通さず、直接、業務依頼がくる
- ちょっと不機嫌な様子を示すと「いいから黙ってやれ!」「文句を言うな!」
部長の隣席にいる課長も「見ざる・言わざる・聞かざる」状態。最悪な職場です。
理解していただけましたか? 私がいつも「会社を辞めたい」と言っている理由。
おぉ、大いに理解したぜぃ。その部長はもう手遅れかもしれねぇけど、若い2人に役立つコミュニケプレゼンスキルを伝授しようじゃねぇかい! 今回は、これだぁ!
あっ! コンセンサスですね。僕がいた大学の研究室で、教授がよくこの言葉を使っていましたよ。
国木田さん、それは、どういうふうに使うんですか? 専門学校では、教わっていないけど……。
えっと、研究や実験で行き詰まったとき、指導教官(専攻学科の教授)に相談すると、最初から答えを言ってくれないんだよ。まず議論に持ち込まれるんだ。もちろん先生は答えを知っているんだけど、すぐに答えを教えちゃうと学生は成長しないでしょう?
そうですね。
で、先生からいろいろと誘導的に質問されて、僕がそれに答えているうちに、解決策がまとまってくる。議論の締めに先生が「こういうことだよね?」って、コンセンサス(合意・同意)を取ってくるんだ。
あっ、分かりました。うちは寿司(すし)屋でしょ。「コンセンサス」という単語は使わなかったけど、うちの父が見習いさんに、そういう感じで教えていました。……部長は全くできていませんね……。
いい先生とお父さんがいてよかったじゃねぇかい! あん? 昔はよぉ、「いいからやれ!」しか言わない指導者や親方が多かったんだ。しっかしよぉ、時代が変わって、指導方法も変わったんだ。
「いいからやれ!」「文句を言わずにやれ!」という、昔ながらの指導方法は、一言の会話もなく先に答えを教える方法です。実は、この指導方法だと、若手の技術者や見習いなどの弟子が一人前になるまでに時間がかってしまうのです。現在では、議論に時間を割く指導方法が主流となっています。あえて、ミスや間違った方向に行かせる場合もあります。
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