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いまさら聞けない産業用ロボット入門〔後編〕産業用機器 基礎解説(2/4 ページ)

日本が「ロボット大国」とも呼ばれる中、中心を担う産業用ロボットの概要と将来像について紹介する本企画。〔後編〕では、産業用ロボットと最新技術と将来像について、紹介したいと思います。

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システムインテグレーション能力が必要な理由

 システムインテグレーションは臨機応変な柔軟さも要求されるため、数十人規模の中小規模のエンジニアリング企業が主なプレーヤーです。エンドユーザー自らがシステムインテグレーション能力を持っていれば、これは最も強力な体制となります。独自のノウハウを蓄積可能で、自らが望む形でロボットを使いこなすことができるからです。その代表例となっているのが自動車産業です。自動車産業のシステムインテグレーション能力(エンジニアリング能力)は、同産業がロボット市場のけん引役であり続けている大きな理由の1つとなっています。

 市場のグローバル化において、工場が配置されている現地のシステムインテグレーション能力は必要条件となります。また、完成されたシステムを丸ごと購入した場合でも、現地でそれを維持するためのエンジニアリング能力が必要となります。新興工業国におけるロボットによる自動化の普及が、まず自動車産業によって先行する理由がここにあります。自前のシステムインテグレーション能力を持つ自動車産業から、徐々に他の業種に展開していくというプロセスを経て、自動化が進んでいきます。

 最近のアジアの急速な自動化ニーズでは、現地のエンジニアリング能力の確保が火急の課題となっています。自動車産業進出の早かった中国やタイでは現地エンジニアリング能力も上がってきていますが、インドやその他の東南アジア諸国は期待地域とされているものの、まだまだこれからの状況です。

 日本の製造業にとって最も望ましいのは、海外の自動化市場に日本の熟達したシステムインテグレーターの技術力が生かされることです。しかし、単に個々のシステムインテグレーターの海外進出という流出型が良いわけではないように考えています。製造業全体にもいえることですが、拡大する海外需要をいかに日本の内需振興に結び付けられるかというのは、今後の重要課題だといえます。

日本の製造業の国際競争力とロボット

 日本のロボット産業の現状を見ると、「ロボット産業の国際競争力」と「製造業の国際競争力」の2つに関わる課題があるように思います。まずは日本の製造業全体の国際競争力から解説していきます。

 海外生産の状況を図11で見てみましょう。日本の製造業はざっと見て、国内での出荷額が300兆円、海外での生産額が100兆円です。海外生産は2007年まで上昇し続けましたが、現在は90兆円規模で止まっています。製造業の海外展開には2つの理由があります。1つ目は消費国で生産し物流コストなどを下げ柔軟な生産体制を求めるというものです。2つ目は、安価な人件費によるコスト競争力を求めるものです。

図11
図11:国内製造業と海外日本法人の生産規模比較(クリックで拡大)

 2011年の海外生産の業種別構成比を図12で見ると、海外生産の半数近くを自動車産業が占めています。自動車産業の海外展開は、消費国でその国の労働力を生かすということで、第1、第2の理由の両方を同時に求める典型例です。一方、電気・情報通信機器や機械産業では組み立て作業など人手による作業への依存度の高い生産を、人件費の高い日本から安価な海外に移す傾向があります。ただ最近、海外生産拡大が止まっている背景の1つには、中国の人件費高騰があります。中国の安い人件費の魅力がほんの10年余りで失われたことから見て取れるように、安い労働コストを求めた海外生産には限界があると考えられます。

図12
図12:日本法人の2011年海外生産業種別規模比(クリックで拡大)

 今後の日本経済にとって、単なるコスト競争に陥ることなく、本来の日本のモノづくり力を生かした新たな国内生産の姿を求めることは非常に大きな意味を持っています。新たな国内生産の姿を実現するには、他国では望めないような高度な自動化により生産性を高めるという基本に立ち返ることが必要になります。

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