日本のモノづくりはこれからどうなる? ――大企業と中小企業、それぞれの思い:サムライたちの集い「第3回 サムライモノフェスティバル」(1)(2/2 ページ)
クラウドソーシングで製品デザインを募集する大手メーカー、自社製品や研究開発に取り組む町工場――大企業と中小企業、それぞれから見た日本のモノづくりのこれからとは。2月15日開催の第3回 サムライモノフェスティバル」よりお届けする。
町工場から見た、今後の日本のモノづくり
大企業が枠を破ろうとする中、日本の製造業を支え、いまアイデアをカタチにする上で重要な役割を担う町工場は、日本のモノづくりをどう見ているのだろうか。今や待っているだけでは立ち行かない時代。そのような現状を踏まえ、町工場の課題や、取り組みのヒントについて語られたのがこのセッションだ。
モデレータの産業革新研究所 代表取締役 熊坂治氏は、モノづくりの革新的な技法や各種情報のポータルサイト「モノづくり革新ナビ」を運営。山梨学院大学で非常勤講師を務める他、自身も東工大の博士課程に在籍している。
海内美和氏は、海内工業 取締役 兼 業務部長。海内工業は1958年設立、精密板金の老舗だ。海内氏自身は、資産運用会社勤務からリーマンショックを機に実家でもある同社に入社。“モノづくりについて全く知らない”状態から出発し、「仕事を待つ町工場から、考えて動く町工場」というコンセプトを社内に発信しながら、立て直しに奮闘してきた。
大坪正人氏は、由紀精密の代表取締役社長。2013年11月に3代目の同社社長に就任した。自身は大学で3Dプリンタの研究をし、インクス(現 SOLIZE)で3Dプリンタのビジネスに携わってきた。2006年に由紀精密に戻ってからは、電機業界中心のビジネスから幅を広げ、航空や医療器業界に進出。2010年に航空宇宙品質規格を取得して、旅客機部品や人工衛星も作っている。また2013年はアストロスケールという世界で初めての「宇宙のゴミ」を回収する会社の立ち上げに関わった。
藤澤秀行氏はニットー 代表取締役。同社では長年、プレスの金型の設計・製作をしてきた。現在は、試作段階から金型を作り、量産加工、組み立てまで、一貫生産ができる体制を持つ。2012年から、「町工場から楽しいモノづくりをMade in Japan」というテーマで、自社製品を企画し販売開始。その第1弾は、無駄にかっこいいヌンチャク系iPhoneケース「iPhone Trick Cover」。今は、自社製品第2弾である、iPhoneを使った“3D・360°フォトスタイル”「くるみる」の製品化に向けて、クラウドファンディングで資金を調達している。
町工場の課題として、藤澤氏は「下請け体質からどう脱却するか」、大坪氏は「海外のコストに勝てず、仕事がないこと」、海内氏は「リーダーシップ」を挙げた。その解決のために、藤澤、大坪両氏は「発信」という言葉を使った。「自社の強みを認識して発信すると情報が集まってくる。その結果、強みを生かしたモノづくりにつながる」(藤澤氏)。
大坪氏の由紀精密の宇宙ビジネスには、JAXAや東大をはじめとするいろいろな大学も協力している。「お金をかけなくても高い動機を持った夢を見ることはできる。それを発信して共感してくれる人が集まると、面白いことができる」(大坪氏)。
海内氏は「難しいことではあるが、未来のビジョンを描いて、それを覚悟を持ってやっていくことで道が開けるのではないか」と、リーダーシップの必要性を語る。今、海内工業では、自社の職人がロボットに興味を示している。「職人から声が上がったことがうれしい」と海内氏。モノづくりの基本を外さずに、楽しいことをしようと社内で議論しているという。
一方、「昔からやり続けたことが今日本のアドバンテージになっている。その延長線上のいいものを追求し続ける」と大坪氏。宇宙ビジネスにもチャレンジしている会社の発言としては意外に聞こえるが、「由紀精密には長く続いている分野と、新たにチャレンジしている分野と両方がある。チャレンジも100年後につながるいいものの追求」(大坪氏)なのだ。
それに対して「柔軟にいろんなことをスピードを持ってやっていきたい」というのは藤澤氏。デザイナーやIT系エンジニアをはじめ、さまざまな分野とのコラボはもちろん、クラウドソーシング、クラウドファンディングも活用する。「募集している活動自体がプロモーションにもなる上、アイデアを実現するための試行錯誤は、製品開発のトレーニングにもなり、お客さまへの提案力も上がる」(藤澤氏)と本業の底上げにも効果があるようだ。
三者三様のビジョンと取り組み。道を切り開くための答えは、各社にあるということではないだろうか。
では町工場とモノづくりベンチャーはどういった協力ができるのだろうか。三氏の考えはこうだ。
「自社の資源だけでは限られる。それぞれの強みを持っている人たちが1つの目標に向かって組むことで、いろいろなことができると思う」(藤澤氏)。
「町工場を製品だけでなく製造技術まで見ると、新しいアイデアがわいてくる可能性がある。熱い思いを持った人に工場を見学したいといわれたら、工場もうれしいはず。また町工場側も知ってもらえるように発信することで、新しいものができると思う」(大坪氏)。
「中小零細はベンチャーと何が違うのか。あえていうなら、小さくても既に人がいて組織があること。そのなかで、当社はありたい姿に向けてあらためて『老舗ベンチャー』を目指したいし、当社の加工技術、資本や人を提供できる。そのかわりにアイデアや発想をいただくという形で共同開発ができるのではないかと思う」(海内氏)。
町工場だろうと、ベンチャーだろうと、それぞれの強みを持ち寄ることで、新たな展開に発展する。それには強みを認識して発信すること、またビジョンを明確に持つことは基本といえそうだ。(次回に続く)
筆者紹介
杉本恭子(すぎもと きょうこ)
東京都大田区出身。
短大で幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。
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