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工場にしなやかさをもたらす、産業用PCの真価とは〔前編〕産業用機器 基礎解説(1/2 ページ)

産業用コンピュータの歴史の中で、産業用PCにスポットを当てて解説していきます。まず〔前編〕で現在に至る歴史とその背景を、〔後編〕で産業用PCの製品特徴と使われる分野、これからの方向性などについて紹介します。

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 産業用コンピュータの歴史の中で、特に産業用PCにスポットを当てて解説していきます。産業用PCは、工場機器の制御や産業機器への組み込みなどで、多くのモノづくり関係者にとって身近な存在であるにもかかわらず、あまり意識されていない製品だと思います。そこで今回は産業用PCの概要と今後の方向性について解説します。〔前編〕で現在に至る歴史とその背景を〔後編〕で産業用PCの製品特徴と使われる分野、これからの方向性などについて紹介していきます。

産業用PCとは

 産業用PCとは、産業業務用途に特化した性能を持つPC製品のことです。特に一般向けPCとは異なる特徴として「信頼性」「耐環境性」「長期供給」の3つのポイントが挙げられます。

信頼性

 「信頼性」とは、不安定な状況においても安定した動作を作り出すことができるようにする「対応」を用意しているということです。不安定な電源環境での動作確保や電源断に対する対応などが必要になります。その他、AC100Vだけでなく工場内に多いDC24Vへの対応や、ECCメモリ対応やRAID対応、故障の原因となりやすい可動部分を持たない点なども、信頼性確保という意味では重要視されます。

耐環境性

 「耐環境性」とは、産業用途での厳しい環境に耐えられるような機能や性能を用意するということです。耐衝撃性、耐振動性を高めた構造であったり、ノイズや静電気への対応、粉じんへの対応、幅広い動作温度範囲の実現などの要素が考えられます。

長期供給

 産業用機器は、一般向け機器とは異なり、1年や2年で買い替えるものではありません。最低でも5年、長い場合は20年以上使う可能性があります。そのため、産業用機器として利用される産業用PCも5〜10年を超える「長期供給」が求められています。

 全ての産業用PCがこれらの機能を実装しているとは限りませんが、これらのニーズが産業用PCには求められていると言えます。

産業用PCの歴史

 日本で産業用PCとしての初めて市民権を得た製品はNEC製の「FC-98シリーズ」だと私は記憶しています。1980年代にPCとしては主流となったNECの「PC-9801シリーズ」ですが、この汎用PCであるPC-9801と互換性を保ちながら、産業用としての信頼性と耐環境性を備えていたのがFC-98シリーズです。

FC9801
NECの「FC9801」(出典:NEC)

 備えていた機能として、交換可能な防塵フィルターやROM/RAMディスクを採用し、RAS(Reliability、Availability、Serviceability)機能をサポートしていた点が挙げられます。RAS機能とは、文字通り信頼性、可用性、保守性を向上するために、保守と診断を容易にする機能などのことを示しています。具体的には、電源断検出、メモリパリティチェック、ウオッチドッグタイマー、温度上昇検知、ファン停止検出、外部アラーム入力、リモートリセット、アラーム表示などを指します。

 現在ではチップセットやBIOS、OSに搭載されている機能もありますが、当時としては汎用PCと一線を画していたことが革新的でした。MS-DOS搭載(後にWindowsを搭載)のこのマシンは高信頼性をうたい文句にし、高額で値引きもしないのにかなりのヒット商品となりました。

産業用コンピュータ全盛の時代

 それ以前の産業用端末の主流はPCではなく、ボードタイプなどで機器や19インチラックに組み込む産業用コンピュータでした。

 当時はまだPCの信頼性は低いとされており、産業用途としての認知はされていませんでした。産業用コンピュータとしては、VMEバス規格やマルチバス規格のラックマウント型のものが主流となっていました。中でもVMEバス規格(以下、VME)は国際規格化されており、数多くの製品がリリースされていました。また設計するための技術的障壁もそれほど高くなかったため、多くの会社が自社でシステム構築を行っていました。

 アーキテクチャとしてもVMEで主流だったモトローラ系CPUは、インテル系CPUより設計自由度が高く、理解しやすい構成だったため、多くの技術者に受け入れられたといいます。高信頼性を訴えるVxWorksやpSOS、OS-9といったリアルタイムOSが提供されるようになると、さらに柔軟性の高いシステム開発ができるようになりました。

 これらOSおよびアプリケーションの開発環境は、信頼性とパフォーマンスが高いとされたUNIXベースのワークステーションが主体となっており、Sun MicrosystemsやHP、Digital Equipment Corporation(DEC)の端末を使いこなすエンジニアは、ステータスも高くて何ともカッコよかった記憶があります。

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