再生医療の道を開く、超音波メス向けの測定/制御装置をわずか1週間で開発:NIDays 2013
腹部を大きく切らずに行う内視鏡下外科手術。同手術を進展させる技術として期待されているのが、超音波を利用して切開する、いわゆる“超音波メス”だ。日本大学工学部は、National Instrumentsのシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」などを使い、超音波メスの開発に向けた測定/制御装置を、わずか1週間で開発した。
内視鏡下外科手術は、腹部を大きく開く(開腹)手術とは異なり、腹部に小さな穴を数カ所開けて、そこから内視鏡や医療器具を挿入して手術を行うというものだ。傷が小さく、痛みが少ないなど、患者の負担を減らす手術法だと言われている。
内視鏡下外科手術に使用される医療器具の1つとして開発が進められているのが、超音波を利用して生体組織を切開/凝固する“超音波メス”だ。日本大学工学部電気電子工学科 准教授の村山嘉延氏は、子宮内の胎児に外科手術を施す胎児外科手術や、幹細胞をピンポイントで細胞に注入する臓器再生医療などを視野に入れ、プローブの直径が3mm以下と非常に細い超音波メス(ニードル型超音波凝固切開装置)の開発に取り組んでいる。
わずか1週間で、計測/制御システムを開発
こうした超音波メスの開発向けに、村山氏は、超音波振動子(圧電素子)の振動速度などを高度に計測できるシステムを、わずか1週間で開発した。その際に利用したのが、National Instruments(NI)のシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」と、ハイエンド向け計測器「PXI」だ。PXIは、シャーシ(筐体)に、CPUやリアルタイムOSを搭載した「コントローラ」と、信号の入出力の部分に当たる「モジュール」を組み合わせて構成する(関連記事:“ソフトで設計できる”モジュール式計測器、数百チャンネルのデータもナノ秒レベルで同期)。
村山氏は、日本ナショナルインスツルメンツが主催した、同社の製品のユーザー向けイベント「NIDays 2013」において、超音波メスの開発に向けた振動子の計測/制御システムの開発について語った。
共通プラットフォームの利用で、開発期間を短縮
医療機器の開発において、避けては通れないのが薬事申請だ。薬事承認が下りない限り、どれほど高性能な機器を開発しても実用化することはできない。超音波メスの開発でも、薬事申請に向け、定められた規格に基づいたデータをそろえる必要があった。一方で、このようなデータを取得するには、従来と同じような測定機器/測定システムを使用する必要があるが、従来の方法では、きめ細かい測定などが行えないケースも出てくるという。そのため、従来の方法と測定結果の互換性を保ちつつ、より柔軟で高度な測定/制御を行えるシステムを開発する必要があった。
左の図にあるように、村山氏は「下位」「中位」「上位」の3種類のシステムを組んだ。下位システムは、薬事申請向けに従来の機器を使って構成したもの。GPIBでPXIに接続しているので、PXIで下位システムを制御している。より高度な測定/制御が行えるようにシステムを改善する場合は、この下位システムと測定結果の互換性が完全に取れるようにすれば、薬事申請に利用できる、規格に沿ったデータが取れていることになる。
下位システムよりも高度な計測/制御が可能な中位システムは、PXIのシャーシに信号発生器のモジュールなどを組み込んで構成した。さらに、上位システムではFPGAのモジュールを組み込み、下位システムから上位システムで開発した制御系を実装した。
このように、下位システムから上位システムまで段階的に開発していったが、PXIという共通のプラットフォームを使ったことで、開発期間はわずか1週間で済んだ。村山氏は、「測定用ハードウェアを変えても、ソフトウェア(LabVIEW)1つで簡単に対応できるのでシステムの移行がしやすかった」と述べる。さらに、下位システムから上位システムまで全て互換性が取れているので、データの品質も保証できるという。
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