ドングルPC活用の留意点と究極の姿:【短期集中連載】ドングルPCが実現するスマート社会(4)(1/3 ページ)
スティックタイプの小型コンピュータ(ドングルPC)の効果的な使い方や課題などを紹介する連載「ドングルPCが実現するスマート社会」。これまで、ドングルPCの最新動向を中心に“良い面”をお届けしてきた。最終回となる今回は、活用の際に留意すべき点と“究極的なドングルPC”の方向性について解説する。
これまで、スティックタイプの小型コンピュータ(ドングルPC)の“良い面”を中心に紹介してきました。しかし、悠々と泳ぐアヒルが実は水面下で必死に脚を動かしているように、ドングルPCの有効活用にも“それなりの努力”が必要不可欠です。
今回はいよいよ最終回となります。集大成として、ドングルPCの課題、用途ごとの注意点などに触れ、“究極的なドングルPC”の方向性を示します。
ドングルPCの基本要件
ドングルPCは、さまざまな用途に適用できます。しかし、出来合いのソフトウェアをインストールして「はい、おしまい!」といった具合にはいきません。また、ドングルPCに対する要件は、利用目的によって大きく異なります。まずは、幾つかの基本的な観点から、ドングルPCに求められる要件について考察します。
Google Playの扱い
「ドングルPCがあれば、どんなAndroidアプリケーションでも動かせるということですか?」――これは商談の序盤でよく尋ねられる質問です。ドングルPCを一見して、“汎用Androidデバイス”と捉える方が多いことを示しています。ちなみに、「Google Maps」や「Google Play」の利用には“Googleとの契約”が必要なのですが、この事実すら知らない人がいまだに多いのが現状です。実際の商談においても、まずライセンスの説明からというケースがよくあります。
筆者としては、汎用Androidデバイスとしての利用は、ドングルPCの“特別なケース”と捉えています。Appleの「iOS」との比較においてよく引き合いに出されますが、そもそもAndroidはCPUやバッテリーなどのリソース消費が激しいシステムです。Samsung Electronics(サムスン)やソニーモバイルコミュニケーションズのスマートフォンのような“モンスターマシン”で動作しているアプリケーションを同じように動作させるためには、同等のハードウェアが求められます(図1)。
また、タブレット端末は例外ですが、スマートフォン向けのアプリケーションはほとんどが縦長の画面を前提にレイアウトされています。一方、TVはまず間違いなく横長です。縦長の画面を横長にスケーリングするのは非現実的ですから、アプリケーションのレイアウトの再考が必須となります。また、当然のことながら、TVはタッチスクリーンではありません。これらは、ドングルPCそのものの要件ではありませんが、ドングルPCを汎用Androidデバイスとして利用する際には、このような大きな課題を解決しなければなりません。
Androidのリファレンス実装
大抵のドングルPCの場合、チップセットベンダーがAndroidのリファレンス実装を搭載しています。このAndroidはリファレンスなので、別にGoogleの認証が通っているわけでもなく、品質保証はおろか動作保証すらありません。商品化の際に、誰がそのような保証を行うかが決定されるのです(図2)。実際のところ、用途が限定されている場合、そのようなリファレンスの多くが実行すらされません。そのため、実行される可能性のある部分についてのみ責任分担を行い、担当会社がそれを担保するという形になります。
図2 source.android.comで示されている直近のAndroid System Architectureの図。Androidのリファレンスは、チップセットベンダーにより自社チップセットで動作するよう修正が施されたものが公開されている。商品化の際、一般にはチップセットベンダーではなく製造業者がそのような部分の責任を負う。ライセンス上、バイナリ供給される部分もある。そのような部分で問題が起こった場合は数社を巻き込んだ解析作業が必要となる
Wi-Fi
Wi-Fiほど便利かつ不便な仕組みも珍しいというくらいに、Wi-Fiの扱いは難しいものです。ドングルPCは、ポータブルであることが1つの大きな特長ですから、データ通信は無線、それも汎用性や普及率という点からWi-Fiが選ばれるのはごく自然なことです。実際、Wi-Fiを搭載していないドングルPCはおそらく存在しません。
しかし、ご存じの通り、Wi-Fiは非常に問題が多いことでも知られています。家庭用のデバイスがWi-Fiをサポートし始めてからというもの、「何だか知らないがつながらない」「何だか知らないが調子が悪い」という問い合わせに、多くのメーカーやサービス事業者が頭を抱えています。
技術的な改善は見られるものの、同じ周波数帯の無線が混んできたり、越えにくい壁が立ちはだかることで通信状態が悪くなったりという症状は根本的に解決できません。ドングルPCの接続先であるTVはまさに“越えにくい壁”ですから、Wi-Fiの問題はドングルPCにとって特に重要です。
ただ、Wi-Fiの問題について「どうしようもない」「手の施しようがない」というわけでもありません。アンテナの強化は、現実問題として無線の状態を大きく改善します。簡単な接続方法も日々開発されています。さらに、解析のために必要なログを記録しておいたり、それをサーバに送信して速やかなサポートに備えたりするなどの努力がなされています。そういった多角的な取り組みにより、全体の品質を良くすることができます。
電源
「電力をどこからどのくらい得るか」――。これは、ドングルPCの利用形態に大きく関係します。ドングルPCは、TVのHDMIポートに挿して使うデバイスですから、同じTVのUSBボートから電力を取れれば非常にスマートです。しかし、USBポート1つでは500mAしか供給されません。一方、CPUを一生懸命回したり、Full HDの動画再生などを行ったりすると、500mAを超える電力が必要となり、正常動作を続けられなくなります。
ポータブルHDDのように“USBポートを2つ使う”という作戦もあります。しかし、PCユーザーならいざしらず、一般家庭において、二股に分かれているUSBケーブルが受け入れられるのか……、よく考えなければなりません。
また逆の発想として、500mAで賄えるサービスに限定するという方法もあります。これを保証するのはなかなか大変ですが、実現できれば大きな価値となります。ちなみに、ソフトウェアがムダに頑張っていて過剰に電力消費をしているケースが少なくありません。単純に品質の問題ということもありますが、もともとサーバ向けに設計されたソフトウェアなどが、組み込み機器にそぐわない大きなリソースを消費するということもあります。
USBではなく、AC電源を利用するという選択肢も考えられます。これは電流の問題だけではなく、継続的な電力供給という点でUSBと決定的に異なる方法です。大抵のTVのUSBポートは、TVの電源をOFFにすると電源供給も止まってしまいます。従って、ドングルPCを常時起動して何かを行わせたい場合には、必然的にAC電源が必要となります。
ちなみに、USBポートの電力供給が止まるタイミングはTVの種類によって若干異なります。中には、ある一定時間、供給を持続させるものもあります。ですから、一度TVをOFFにして、すぐにまたONにしたような場合、ドングルPCは電力を止められることもあれば、止められないこともあり得ます。当然、ユーザーはそんな“状態の違い”をいちいちケアしませんから、例えばTVを買い換えたり、別の部屋のTVでドングルPCを使用したりして、いつもと挙動が違ったら「おや?」と不思議に思うことでしょう。そのため、このような目に見えない違いは、サービスとして表に出さないようにしなければなりません。
ハードウェアデザインなど
前述の電源の話題とも関係しますが、ドングルPCはサイズが小さく、ファンも付いていないデバイスですので、排熱には特に配慮しなければなりません。スリットを目立たないように入れながら、格好の良い筐体デザインに仕立てる技術が求められます。
また、デバイス内でのチップの干渉を防ぐために、レイアウトで回避したり、シールドを施したりといった、“狭いスペースでの工夫”が求められます。
仕向け先に依存しますが、例えば、日本であればTELECなどの規格に準拠している必要があります。このような作業は意外とコストと時間を費やします。つまり、対象となる仕向け先での商用実績のある既存デバイスがあれば、“それを流用できないか検討すべき“ということです。
他には、一般的な話題になりますが、「ハードウェアの製造過程で、どこまでソフトウェアやキーなどを入れ込んでおくか?」「DRMやMiracastといったAndroidのリファレンスに存在しない仕組みをどうするか?」「動画コーデックのライセンス料はどうするか?」など、サービスごとにケアすべき事柄は変わってきます。ですから、まずは、どんなことをしたいのかをはっきりさせた上で、「その実現のために何が必要か?」「ドングルPCにはどんなことが求められるのか?」といった整理が必要です。
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