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「半沢直樹」のような組織では無理! 魅力的な製品作りとクラウドファンディングマイクロモノづくり概論(3)(2/2 ページ)

筆者が関わったマイクロモノづくりの3事例から見えたクラウドファンディングで成功する秘訣は、製作者の等身大の姿が思い浮かぶ製品づくりだった。「倍返し」することばかり考えなければならない組織では、多くの共感を得る製品作りは実現不可能だ。

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オーナー企業でなければ、「ワクワク」する製品が生めない?

 冒頭で、マイクロモノづくり製品は、製作者そのものを反映する「鏡」であると述べたが、実際には製作者自身と、そのモノが作られた環境、組織を反映するのである。

 テレビドラマの「半沢直樹」(TBS)をご覧になった方は多いだろう。東京中央銀行の一銀行員である半沢直樹が、銀行内外に次々と現れる“敵”や逆境と戦う姿を描いた話だ。そこでは銀行内の激しい派閥抗争が描かれている。

 大きな組織には派閥ができて、派閥間には多少の争いが起こるものだ。これは、銀行だろうが、メーカーだろうが関係なく、人の集まるところには必ずと言ってよいほど、派閥は生まれてしまう。

 筆者もかつては大企業に在籍していたが、一定以上の人数の組織になれば、「組織の壁を超えて協力体制を構築」などという理想論は全く通用しない。多かれ少なかれ、派閥や社内政治がない企業はまず存在しないだろう。それがいわば、大組織の宿命である。

 まるで東京中央銀行のような、“見えない力関係”が渦巻く大きな組織では、企画当初は、非常に良いコンセプトの製品であっても、部門間の対立を繰り返すことで、結局は、当初とは全くコンセプトの異なる機能をパンパンに入れ込んだ“全部入り”の、まるでフランケンシュタインのような製品になってしまうのだ(表2)。「倍返し」のことばかり考えなくてはいけない組織では、到底、魅力的な製品は作れないのだ。


表2 製品における製作者の性格反映の度合い

 プロジェクトを前に進めるために、「この商品コンセプトでは営業部門が売れないと言っているので、何とかこの機能を入れてくれ」とか、「前の製品ではこちらの部署が技術的に妥協したから、今回の製品は、こちらの仕様提案を採用しろ」とか、「事業部長がお気に入りの技術を(無理やり)採用しろ」とか、さまざまな意見と戦う必要があるからだ。

 まさに、ことわざの「船頭多くして船山に登る」という製品になってしまう。モノづくりについて指図する人が多過ぎるのだ。さらに、設計者はタイトな納期とコストに負われながら強烈なプレッシャーを受けながら製品を開発することになる。その結果が今の日本メーカーの連戦連敗の元凶であると言ってもよいだろう。

 これと真逆なのが、米Apple社の創業者であるスティーブ・ジョブズ氏と同社が生みだす製品と関係だ。もちろんApple社は中小企業ではないし、音楽プレーヤーからサーバまでを扱う世界に冠たるIT企業である。そして、これまで生み出されたMacintoshからiPhoneまでの数々のイノベーティブな製品は、ジョブズ氏そのものを反映したものだといえるだろう。

 禅のような雰囲気も漂わせるほどに簡素な美を追い求めるジョブズ氏の性格が、彼が手掛けてきた全ての製品そのものに集約され、美しい輝きを放っていた。日本の大手メーカーとジョブズ氏がいた頃のApple社の違いは、1つだ。

 創業者が自らCEOとなり、スペックからデザインまで、モノづくりに深く関わっていたことである。メーカーのオーナー自身が製品作りを一貫して仕切っていたため、企画から製品が世に送り出されるまで、製品コンセプトが大きく揺るがせられることがなかったのだ。

「マイクロモノづくり」は「日本刀」と同じ?

 これまで話をしてきた、製作者の性格がダイレクトに表現されるモノづくりとはなんだろうと考えた時に、筆者の心に浮かんだのは、日本の誇る「日本刀」だった。日本刀は、鍛冶の地域・流派によって、刀の大きさ、姿、地肌、波紋の形状が全く異なる。

 作られた当時は武器であったが、現代ではこの刀の種類を鑑定する、「日本刀鑑定」というカテゴリーの趣味もあるぐらいのれっきとした美術品である。

 刀の性質は、たとえ同じ流派であっても、刀鍛冶個人の性格そのものが出るものとしても有名だ。特に波紋の形状に関しては、激しい性格や、静かな性格、やさしい、激しい、生真面目、素直といった刀鍛冶の性格が出るものとして有名である。(関連:外部サイト「主な刃紋の種類」

 マイクロモノづくりで生みだすモノは、基本的に工業製品であるが、1万個以下、メインはロット2000〜3000個の少量生産品であると定義している。この少量生産品の中に、後年になり、製作者の魂がこもったファイン・プロダクトとして、日本刀のような芸術的な高みを極めた製品も出てくる可能性は十分にあるのではないかと筆者は考えている。

編集部注:美術品として価値のある日本刀については、都道府県の教育委員会に申請することで登録証が交付された場合においては、所持、持ち運び、譲渡、売買について警察への届け出は不要とされている。(「銃砲刀剣類所持等取締法」第3章 第14条による)


 モノづくりは本来、後世に自分の遺伝子のような分身を残す神聖な仕事であったはずだ。かつて高度成長期に大活躍し、キラキラした目でモノづくりに励んでいた技術者たちの中には、この不況下で「リストラだ」「早期退職だ」とすっかり元気を失ってしまったという方も多いと思う。

 そんな時こそ、このマイクロモノづくりで、もう一度、技術者としての誇りを取り戻し、自分のやりたかったモノづくりをして、それをビジネスにするワクワク感覚を味わっていただきたいと思う。

(次回へ続く)

Profile

三木 康司(みき こうじ)

1968年生まれ。enmono 代表取締役。「マイクロモノづくり」の提唱者、啓蒙家。大学卒業後、富士通に入社、その後インターネットを活用した経営を学ぶため、慶應義塾大学に進学(藤沢キャンパス)。博士課程の研究途中で、中小企業支援会社のNCネットワークと知り合い、日本における中小製造業支援の必要性を強烈に感じ同社へ入社。同社にて技術担当役員を務めた後、2010年11月、「マイクロモノづくり」のコンセプトを広めるためenmonoを創業。

「マイクロモノづくり」の啓蒙活動を通じ、最終製品に日本の町工場の持つ強みをどのように落とし込むのかということに注力し、日々活動中。インターネット創生期からWebを使った製造業を支援する活動も行ってきたWeb PRの専門家である。「大日本モノづくり党」(Facebook グループ)党首。

Twitterアカウント:@mikikouj

マイクロモノづくりが本になりました

『マイクロモノづくりはじめよう〜「やりたい! 」をビジネスにする産業論〜』(テン・ブックス)

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