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未来は予測できないから、何でも作れるようにする! FabLab流の教育とビジネス観Fab9実行委員長 田中浩也氏インタビュー(2/4 ページ)

未来は完全に予測できない。「流行に乗る」「先を見越して無駄なく行動する」のではなく、不確かな未来に備え、モノを作る力を磨くこと。それがFabLabの考えだ。

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田中 僕自身も新しい取り組みをいくつか行いました。1つは「gitFAB」という、モノのデータを共有するサービスで、Mozilla Japanの赤塚大典くん(Mozilla Japan 研究員)と一緒に立ち上げました。プログラムのソースコードを共有するサービス「Git」の上にラッパー(ある機能やデータを別の形で提供するもののこと)をかぶせたものです。世界の人と一緒にモノづくりのプロジェクトをやるとき、制作日誌や写真、図面などが共有でき、そこにコメントも付けられます。モノづくりのプロセスを記録、共有して、途中から分岐や派生ができることを目指しているプロジェクトなんです。

 ハードウェアは、ソフトウェアのように「ソース」に決まった形がないので、同じモノを再現するために必要な書類が共有しづらいんです。例えば外装の3次元データを共有できても、それだけでは全然足りないんです。「オープンソースハードウェア」と言っても、図面、素材、作り方、3次元データ、その他10種類ぐらいの書類を共有して、さらにそこにドキュメント同士の関係を説明する書類もないと「同じモノ」を再現できません。しかも、それらの書類は、例えばロボットと自動車ではそれぞれ違います。gitFABは自分で適切なフォーマットを選んでモノづくりの情報を共有できるサービスです。


gitfab

田中 FabLabの活動自身をソーシャルメディアでアピールするだけではなくて、そこで作られる「モノ自身」と「作る過程」をアピールしたくて、立ち上げました。FabLabにも、「Fab Charter(ファブラボ憲章)」だけではなく、何かモノづくりの技術的なデータの共有サービスも必要なんじゃないかと思っていたんです。

 組織の面での新しい取り組みとしては、会期中に自分の悲願だった「FabLab Asiaネットワーク」を立ち上げたことです。ヨーロッパにもラテンアメリカにもFabLabネットワークがあるのに、アジアにはないのは不自然だったので、実現してよかったです。アジア圏でネットワークを作りたかった理由としては、日本から時差がなくて交流しやすいことや、アジア人という文化的な連帯感もあることなどです。ご飯もおいしいし(笑)。最近、アジアのどの国にも勢いがありますが、国ごとの課題は極端に違っています。この次はフィリピンで、アジアの人たちが集まる会議の計画が進行していますが、実現できるといいですね。

世界のFabLabマスターが見た日本

高須 今回、初めて日本での開催となりましたが、各国の参加者からの反応はいかがでしたか?

田中 参加者の皆さんにイベントを楽しんでもらうことができたと思っています。世界各国のFabLabマスターからも「日本がとても好き」という思いを感じました。Fab9参加者のFacebookグループで、開催前からメンバーの様子を見ていました。日本に来るときは意気揚々と「行くぜ!」というメッセージを残し、ブラジルとかアフリカとか、日本から遠い国の人から順番に出発していましたね。世界各地から集結してくる様子は、まるで少年漫画のクライマックスみたいでしたよ。参加者は、終わった後も秋葉原、仙台、大分、といった興味ある日本の各地を訪れて、楽しんでいたようです。

 また会期中には、FabLab関内オープンも実現できました。

 Fab9の企画中は、大前研一さんの「クオリティ国家という戦略」(同書では、国際競争力の高いシンガポールやスイスなどの例を挙げ、日本の現状や進むべき道を説いている)を読みながら、「日本は、海外から人々を集める国際会議をしやすい場所なのか?」ということを常に考えていました。

 足元のリソースをあらためて良く見渡してみると、日本は非常に恵まれているのです。安全で、食べ物がおいしくて、雰囲気がよい。特に横浜は、創造都市や創造界隈といった取り組みが以前からあったので、FabLab代表者会議にとてもうまくなじんだと思います。Fab9は1週間もある会議なので、会場や周囲の街の雰囲気も非常に大事です。

 Fab9のオープニングレセプションでは、宇田道信氏の自作電子楽器「ウダー」の紹介が行われた後に、以下のような招待講演で、日本でモノづくりに携わる人たちを数多く紹介しました。

  • 「サイエンス」では、折り紙の構造をコンピュータシミュレーションで行っている東京大学大学院 総合文化研究科 助教授の舘知宏氏の研究を紹介。
  • 「テクノロジー」では、ローランド ディー.ジー. 取締役の伊藤純さんに登壇してもらい、日本の工作機械の精度をアピール。
  • 「ビジネス」では、革新的な車イスを作っているハードウェアベンチャー WHILL代表の杉江理さんの講演。
  • 「アプリケーション」では、漆塗りとレーザーカッターを組み合わせた作品を作っている土岐謙次さんと、革新的な義足を作っている遠藤謙さんの発表。

 特にウダーは、会場に感動の嵐を作ってくれました。他には、日本の食材を使った「食事を作るワークショップ」も多く実施したし、自分の考える日本の魅力は全て出しきった感があります。


最終日、電子楽器「ウダー」の周りに集まり、質問をするFabマスターたち

 「クールジャパン」も「クールジャパン“ズ”」として複数形になりましたよね。同じように、日本のファブの魅力は1つではなくて、「最新技術」「世界で活躍する日本人」というところはもちろんですが、「折り紙、漆塗りのような古い手法をデジタル化」「工作機械の精度」から「食」「ファッション」まで、とても多面的なんです。その魅力を、実際のデモを交えながら伝えられたんじゃないでしょうか。

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