「PS Vita TV」「BRAVIA Smart Stick」――ソニーのスマートホーム戦略を担うドングルPC:【短期集中連載】ドングルPCが実現するスマート社会(3)(1/2 ページ)
Googleの新製品「Chromecast(クロームキャスト)」の登場から程なくして、ソニーグループが2つの新しいデバイスを発表した。2013年11月14日に発売されるソニー・コンピュータエンタテインメントの「PlayStation Vita TV」と、米ソニーが発表し、現在米国で販売されている「BRAVIA Smart Stick(NSZ-GU1)」だ。この2つのデバイスに込められた戦略意図は何か? 今回は“TVとドングルPCの関係”、そして“その周辺動向”について考察する。
NTTドコモの「SmartTV dstick」、Googleの「Chromecast」の登場を大きな契機とし、スティックタイプの小型コンピュータ(ドングルPC)がにわかに注目を集めています。今、これらのデバイスに刺激を受けた数多くのメーカーやサービス事業者が、水面下で活動を始めています。
これまでお伝えしてきた通り、ドングルPCは、さまざまなビジネスを巻き込んだ大きなムーブメントの重要な要素といえます。特に、家庭内においては、表示先であるTVの動向とも密接に関係しており、切っても切り離すことができません。また、世の中の動きを眺めてみると、TVの動向の他にも、結果としてドングルPCの普及を促すような状況が整いつつあります。
というわけで、今回は“TVとドングルPCの関係”、そして“その周辺動向”について考察していきます。
ソニーのスマートホーム戦略
Chromecastの登場から程なくして、ソニーグループが2つの新しいデバイスを発表しました。タイミングも良かったため、それなりに話題になっていますが、これらのデバイスにはそれぞれ“見逃せない意図”が託されていると考えられます。
1つは、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「PlayStation Vita TV(以下、PS Vita TV)」(図1、動画1)です。このデバイスは、携帯型ゲーム機である「PlayStation Vita(以下、PS Vita)」向けのコンテンツや動画サービスをTVで楽しめるようにした製品です。PS Vita TVを冷静に捉えてみると、PS Vitaから液晶ディスプレイを外し、代わりにHDMI出力を付けて、PS Vitaを固定デバイス(据え置き型)としたものにしか見えません。しかし、あまたある携帯デバイスのコンテンツを同等の品質でTV向けに提供するということは、過去に例のない試みです。自社ハードを持ち、このような方向性を追求してきたSCEならではの強みであり、競合他社が簡単にマネできることではないでしょう。
図1 ソニー・コンピュータエンタテインメントの「PlayStation Vita TV」。小型で高性能な携帯型ゲーム機「PlayStation Vita」の技術は、ドングルPCとは似て非なる切り口でスマートライフに寄与することだろう ※出典:ソニー・コンピュータエンタテインメント
販売台数の面でいうと、SCEはライバルの任天堂に大きく水を開けられているといわれています(参考:VGChartz)。この苦境に、PS Vita TVの販売台数が上乗せされ、多少なりとも劣勢挽回に寄与するかもしれませんが……、“本当に求めるべきものは、(販売台数ではなく)その先にある”と筆者は感じています。
携帯型ゲーム機のコンテンツをTVに映し出せるということは、単に既存のコンテンツを大画面で楽しめるようになるだけではありません。そこに、モバイルとホームの連携といった新たなユースケースが生まれます。このような“何かと何かをつなぐ”という観点で考えると、そして、ソニーが所有している豊富な商材を考えると、PS Vita TVは戦略上、重要なデバイスといえるでしょう。
ソニーグループとして、このような製品を推進するということは、家電メーカーという立場から、暮らしのトータルコーディネートへビジネスの軸足をシフトしつつある証といえます。
さらにもう1つ、「BRAVIA Smart Stick」とネーミングされたドングルPCの新製品「NSZ-GU1」を米ソニーが発表・発売しました(図2)。Google Playに接続してアプリケーションを利用することが可能で、簡単に“TVをスマート化できる”デバイスです。このような機能を備えたデバイスを小型のドングルPCとしてメーカーが用意することで、大掛かりなTVの周辺機器ということではなく、“TV本体に機能を増設する拡張機器”という見せ方ができます。
図2 米ソニーが発表した「BRAVIA Smart Stick」。同社のGoogle TVで使用されているものと同じようなリモコンが付属している点が特徴的 ※出典:Sony Blog(http://blog.sony.com/2013/09/sonysmartstick/)
Google Playに接続するためには、GoogleのCTS(Compatibility Test Suite)認証が必要です。また、Google Play上のアプリケーションのほとんどは、組み込み機器としてはズバ抜けた性能を持つスマートフォンでの動作しか想定していません。そのようなソフトウェアをそれなりにきちんと動作させるためには、簡単に言ってしまえばスマートフォン並の性能が求められます。
ご存じの通り、ソニーはGoogle TVの一番の担ぎ手でもあります。このデバイスも、Googleとの密接な関係において形作られたことでしょう。そういった意味でも、BRAVIA Smart Stickは、ハイエンドドングルPCの1つの回答といえるかもしれません。
なお、今回ソニーの製品戦略を取り上げましたが、その他の注目株としては、AppleやGoogleに拮抗できる唯一の企業とも目されるMicrosoftが挙げられます(図3)。家庭用据え置き型ゲーム機「Xbox」を擁し、若干苦労しているものの「Windows 8」で革新的なUIを提供するMicrosoftは、先ごろNokiaの携帯電話事業を買収しました。今後の動向が気になるところです。これ以外、特に日本企業でいうと、任天堂も依然ポテンシャルを秘めている企業と考えられるでしょう。
家庭内におけるTVの存在感とドングルPCの利点
ドングルPCは大きな可能性を持ったデバイスであると繰り返しお伝えしてきましたが、今、その開花を後押しする世界的な変化が起こっています。
まず挙げておきたい変化は、TVの販売台数です。「4K」の効果により、2013年8月の薄型TVの販売売上が実に25カ月ぶりに前年同月比を上回ったのです(BCN調べ)。
HDMI出力が可能であることは、ドングルPCの最大かつ唯一の特徴といってよいでしょう。そして、その接続先として、とりわけ家庭内では、TVをおいて他には考えられません。TVの買い替え需要が刺激されると、ドングルPCを含む周辺機器の販売にも良い影響を及ぼすことは間違いありません。
復調の兆しを見せているTVが、この10年来どのような扱いを受けてきたか、振り返ってみると本当にひどいありようでした。ケータイ世代の若者のTV離れ、景気後退によるスポンサーの減少、いつまでも見出だせない「3D」に続く次世代技術、世界的な販売不振……。かつて家電の王様といわれたTVが、巨額赤字の温床となり、電機メーカーの経営に深刻な打撃を与えるまでに至ったのです。
ちなみに、DVD/Blu-rayレコーダーなどのTVを中心としたAV機器の販売も、TVの比較にならないほど大きく落ち込みました。この事実からすると、“TVにつながることがドングルPCの最大の長所である”と捉えていることは不可解に思われるかもしれません。
これは、ビジネスではなく、“暮らし”という観点で考えると理由は明快です。TV業界の苦境は事実としても、リビングにおいてTVが片隅に追いやられるということはなく、むしろ大型化により存在感を強めています。使用頻度にかかわらず、部屋の王様的な位置に鎮座している、それがTVです。その“TVに接続できること”と、TV自身やBlu-rayレコーダーなどの機器と違って本来の主たる機能を持たない、“純粋に付加的な汎用コンピュータであること”が、ドングルPCの大きな利点なのです。
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