「社名がマイクロンになってもエルピーダの火は消えない」、坂本社長が退任の弁:ビジネスニュース 事業買収(2/2 ページ)
米国の半導体メモリ大手マイクロンは、国内唯一のDRAMメーカーだったエルピーダメモリの買収を完了したと発表した。2013年末までに、エルピーダの社名はマイクロン・メモリー・ジャパンに変更される。社長を退任する坂本幸雄氏は、「社名は変わるが、エルピーダの火が消えるわけではない」と述べた。
「マイクロンにお嫁に行くための持参金を用意できた」
エルピーダの社長兼CEOを退任する坂本氏は、マイクロンとのスポンサー契約のクロージングに向けて進めてきた取り組み内容を説明した。
両社は、エルピーダのクロージングの方向性として、雇用の維持、オペレーションのさらなる健全化、クリアな経理システムの実現、顧客関係の維持、サプライヤなどの取引条件の改善といった共通認識を持っていた。そこで、「マイクロンとエルピーダの統合によって世界一のメモリーソリューション企業になる」ことを目標に、クロージングまでの目標を立てた。
クロージングまでの目標としては、健全な利益形態、十分な現金、借入金の返済、広島工場のコスト削減、25nmプロセスによる量産、20nmプロセスを使ったチップの試作、世界の主要なモバイル機器企業との取引関係の確立などが挙がった。坂本氏は、「これらの目標はおおむね達成できた」と語る。特に、広島工場のコスト削減は、従業員の努力の甲斐もあって、台湾のRexchipの300mmウエハーライン以下になったという。
坂本氏は、「会社更生法を申請したことで、債権者と従業員に大変な迷惑をかけた。しかし、クロージングに向けたこの1年間の努力により、人員削減を行わずにここまで持ってくることができた。買収が決まった時点で、エルピーダはマイクロンに嫁ぎに行く立場になったわけだが、何とか持参金を用意して結婚できる状態になった」と述べた。
報道陣が坂本氏に投げかけた、「エルピーダ単独で再生を果たせなかった原因をどう考えているのか」という質問に対しては、「マイクロンと一緒に作業を進める上で、財務に対する考え方が全く異なることに気付かされた。エルピーダでは、私を含めて財務担当者がきちんと仕事をしていなかった。あと、メインバンクを作らなかったことも会社更生法申請の一因になったと思う」と回答。
「これで日本からDRAMメーカーが消えるわけだが、そのことについてどう思うか」という質問には、「会社の名前は変わるかもしれないが、エルピーダの火が消えるわけではない。その技術や人材は残っており、マイクロンと新たなものを生み出せるはずだ。日米エンジニアによって新たなケミストリーが生まれることに期待したい」(坂本氏)と語った。
また坂本氏は、現在のエルピーダの業績回復の要因について、「携帯電話機向けDRAMの販売増、工場のコスト削減、円安による為替の効果」の3つを挙げた。
新社長の木下氏「顧客にとって有用な価値を生み出す」
坂本氏の後任としてエルピーダの管財人兼社長に就任する木下氏は55歳。日立製作所の出身で、2000年4月にエルピーダに出向し、その後サーバ&PC部門を経て、モバイル&デジタルコンシューマ部門を担当し、2011年6月から取締役COO DRAMビジネスユニット長を務めてきた。
木下氏は、「DRAMが発明されて約40年が経過し、ムーアの法則も終わりを迎えつつある。これまでのメモリビジネスは、規模の経済を働かせる大規模投資が最も有効な事業戦略だったが、今後はいかにして顧客にとって有用な価値を生み出すのかというビジネスモデルに変わっていくだろう。マイクロンとエルピーダの統合により、サムスンと同じ規模の投資を行っていくための企業規模が得られたので、次の5年に向けて価値を生み出すための布石を打っていきたい」と述べている。
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