検索
特集

サーモスのケータイマグ開発での「3Dプリンタの使い方」3Dプリンタと家庭用品開発(2/2 ページ)

おしゃれなケータイマグでおなじみのサーモスは、7年前から3Dプリンタを活用してきた。試作を外注から内製に変えたことでコストや時間は大幅削減。そんな活用の利点だけではなく、実際に使う際のポイントや課題も明かした。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

FDM方式とPolyjet方式を試作の用途によって使い分ける

 このように、3Dプリンタのメリットを存分に享受しているといえるサーモスだが、丸山氏によれば、やはりその使いこなしにはさまざまなノウハウを要するという。ここで、同社における3Dプリンタを使った試作作業の流れを簡単に見ていくことにしよう。

 まずは、Pro/ENGINEER上で作成した3次元の設計図を基に、試作用の図面を起こす。「ここでは、3Dプリンタで試作品を造形する際に使われる素材の特性や、装置ごとの造形技術の違いなどをきちんと理解しておくことが重要だ」と丸山氏は述べる。

 「例えば、PP(ポリプロピレン)製の留め金の試作品をABS樹脂で造形すると、素材の硬さの違いからうまくはまらないことがある。その場合は、わざと強度が弱くなるように設計に手を加える必要がある。また寸法も、熱変形などにより若干ずれることがあるので、その辺りもあらかじめ考慮した上で3Dプリンタ用の設計データを作成する」(丸山氏)。


右はObjet260 Connexで、左はDimension Eliteで試作したもの。表面の仕上げに違いが出ている

 こうして作成した試作用設計データは、STL形式に変換した上で3Dプリンタに送られる。ちなみに、同社が保有する3台の3Dプリンタの内、Dimension SST 768とDimension Eliteは造形方式としてABS樹脂素材のFDM(熱溶解積層法)を、そしてObjet260 Connexはアクリル系光硬樹脂素材を使ったPolyJet(インクジェット紫外線硬化法)を用いる。サーモスではこの両方式を、試作の目的によって使い分けているという。

 「アクリルは、剛性はあるものの脆い面がある。一方、ABS樹脂は極めて強度に優れるので、機能や強度の検討を行う場合には、Dimensionを使って試作することが多い。逆に、アクリル素材のインクジェット方式は造形の仕上がりがきれいなので、デザインを検討する際にはObjetを使うことがほとんど」(丸山氏)

 また、試作するものによっては、装置によって造形にかかる時間に大きな差が出ることもあるという。

 「インクジェット方式は面で素材を重ねていくので、背の高いモノを造形する際には多くの面を重ねる必要があり、どうしても時間がかかるし素材の無駄も多くなってしまう。そのような造形物や、細かい造形が必要な場合には、FDMの方が時間や素材コストの面で有利になることがある」(丸山氏)

 ただし運用の工夫しだいでは、そうした制限も克服できることが多いとも丸山氏は話す。「例えば、背の高いモノを横向きに造形すれば、逆にインクジェット方式の方が速く効率的に造形できることもある。こうした小さな工夫1つで利用効率やコストが大きく違ってくるので、使いこなす側の創意工夫が大事だと思う。3次元CADもそうだが、ツールがいくら進歩したとしても、それを使う側の人間の進歩がないと、単にツールに遊ばれて終わってしまう」

サポート材の除去作業に手間と時間がかかることも

 さて、こうして3Dプリンタの造形が完了しても、作業はここで終わりではない。造形物の間に詰まったサポート材を取り除く作業が残っている。Objetの場合には、これをブラシやたわしでこすって落としたり、あるいは高水圧のウォータージェットで取り除いたりする。一方Dimensionの方は、場合によっては水酸化ナトリウム溶液で熱して溶かす必要も出てくるという。

 このサポート材の除去作業に掛かる手間と時間が、ときとして大きな負担になると丸山氏は指摘する。

 「場合によっては、サポート材を溶かすのに6時間ほどかかったり、あるいは細かいところに付着してなかなか取り除きにくかったりと、苦労することもある。恐らく、3Dプリンタを運用している企業はどこも苦労していると思うが、このサポート材の除去をもっと早く簡単に行えるようになれば、3Dプリンタはさらに使いやすくなるだろう」(丸山氏)。

 また加えて丸山氏は機器メンテナンス作業の手間の大きさも問題点だと指摘する。

 「プリント作業を行うたびにノズルを拭いてやったり、あるいは週1回の定期メンテナンス作業をしたりする必要があるが、これがもっと楽になればいいなと思うことはある。確かに、3Dプリンタの導入によって商品開発力は大幅に向上したが、現在メンテナンス作業に充てている時間を設計や検討に回すことができれば、さらに商品開発力アップにつながるのではないか」(丸山氏)。

本文執筆

吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る