「どんな会社に入るか」 ではなく、変化に応じて自分が変われるかが重要――中央大学 竹内健教授:著名人キャリアインタビュー(3/3 ページ)
東芝を代表する製品のひとつフラッシュメモリ。同社の技術者として多値化などの基盤技術の研究開発に携わり、フラッシュメモリ事業を世界トップクラスの主力事業にまで成長させたのが現在は中央大学で教授を務める竹内健氏だ。学生時代は大学に残って研究者になろうと考えていたが、ひょんなことから東芝に入社。物理から半導体設計へと研究対象を変え、その後もMBA(経営学修士)を取得するなど、柔軟に専門領域を広げてきた竹内氏が、理系学生に伝えておきたいキャリアに関するメッセージとは。
若いうちにすべきは技術の深掘り。人気の職場でなくニッチな領域を選べ
そのようなキャリアを歩んできた竹内氏が、理系学生に助言してくれたのは「若いときに、若いうちにしかできないことをしておくこと」だ。
「まずは技術を深掘りしてみるべきでしょう。経営やマーケティングは技術を深掘りしてから学べますが、逆は難しいです。どんな技術でも研究が進んでいますから、ちょっとかじったくらいで自分なりの価値を生むことは絶対にできません。技術だけに限った話ではありません。営業やマーケティング、どんな仕事にも言えることだと思います。
1つでも深掘りした経験があれば、ほかの技術分野だって簡単に深掘りすることができます。どの技術分野も似たようなものなんですよ。『なぜ現状ではここまでしかできていないのか。課題を解決するにはどんな調査をして手法を考えればいいのか』というのは、深掘りした経験があれば、他の分野であっても類推できるのです」
ただ国内メーカーの中には、設計などの深掘りする業務まで、全て海外に任せてしまい、商社のようになっている企業が現れ始めているという。
「そういう企業で働いていても、身に付くモノは少ないでしょうから、やはり本業です。メーカーとして、技術を深掘りできる企業を選ばなくてはいけません。
しかも、何百人も技術者がいるような人気の事業部ではなく、多少のリスクはありそうだけれども、可能性を感じられるニッチな領域を探すべきです。少人数で、何でも自分でやらなければいけない環境です。そんな職場がある企業が狙い目だと私は考えています」
「どんな企業に入るか」ではなく、変化に応じて自分が変われるかが大切
竹内氏がもう1つ挙げてくれた「若いうちにしかできないこと」は、失敗しても構わないから、限界まで挑戦してみることだ。
「逆境に置かれたときに強いのは、失敗した経験があって『こうなるとマズイ』という勘所が分かっている人です。
今の日本には反面教師がたくさんいるのではないでしょうか。深く考えずに『この会社なら大丈夫だろう』と会社を決めてしまい、困難に立ち向かった経験を持っていないと、危機意識が働かなくなります。
そうなってしまうと、『この会社の先行きは暗い』と言われても、取り返しのつくタイミングで行動に移すことができません。会社が倒産する瞬間まで、気付かないまま残っているかもしれませんね」
限界まで挑戦するためには、好きなことを仕事にするべきだと竹内氏は語る。学校のテストは決められた時間内で点数を競うが、社会に出ると時間無制限の一本勝負。寝ている時間を除き、どれだけの時間、仕事に没頭することができるのか。それが大きな差になっていくのだ。
「『どんな企業に入るか』よりも、社会に出てから周囲の変化に敏感になって、必要に応じて自分が変わっていくことの方がよほど大切です。
自分が変わる際、これまでの専門とは違う分野を勉強しなくてはならないことも出てくるでしょう。そう考えると、好きなことを仕事にしていないと勉強には身が入りません。嫌いなことを仕事にしてしまうと、24時間そればかりを考えることなんてできません。
ですから、嫌いなことを仕事にした瞬間に負けが決まると思うんですよね。好きなことを仕事にしてください」
プロフィール
中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授
竹内 健
1993年、東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 修士課程を修了。東芝に入社後はNANDフラッシュメモリの研究開発に取り組み、64M/256M/512M/1G/2G/16GビットのNANDフラッシュメモリで次々に世界初の商品化を成し遂げていく。
2003年にはスタンフォード大学ビジネススクールで経営学の修士課程を修了。2006年に、東京大学大学院 工学系研究科 電子工学専攻の博士号を取得したことが縁になり、2007年から同大学の准教授として大学に戻る。
2012年から現職。著書に『世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走。記』(幻冬舎新書)がある
写真撮影:門脇 勇二
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