新型「Sクラス」は半自動運転も可能、路面に合わせてサスペンションも制御:ジャンボジェット機工場でワールドプレミア(1/3 ページ)
エアバスのジャンボジェット機工場でワールドプレミアを行った新型「Mercedes Benz S-Class(Sクラス)」。時速60km以下での部分的自動運転を実現する「インテリジェント・ドライブ」や、路面の凸凹をステレオカメラで検知してサスペンションを制御する「マジック・ボディ・コントロール」などダイムラーの最新技術が数多く搭載されている。
8年ぶりのフルモデルチェンジを果たし、6代目となった新型「Mercedes Benz S-Class(以下、Sクラス)」。この車両の最大の特徴にして最大の課題は、“自らを乗り越えること”だ。いつの時代においても、サルーンの最高峰として他の高級車メーカーからベンチマークされる立場にあり、またその地位を揺るぎないものとし続けるためにも、先代を乗り越える革新を継続しなければならない。
発表の場に選ばれたのは、ドイツ第2の都市ハンブルク。同国の金融の中心であり、メディアが集まる街でもある。まさか、Sクラスのワールドプレミアをドイツ以外で発表するわけにもいかないが、2013年9月に予定されている「フランクフルトモーターショー」で発表したのでは新車の山に埋もれてしまって衝撃が薄まる心配もある。もちろん、米国や中国といった巨大市場にもアピールしなければならない。その点、今回Daimler(ダイムラー)が選んだAirbus(エアバス)のジャンボジェット機「A380」の最終組み立て工場という舞台設定は、これ以上のものがないと思わせる完璧さだった。
ハンブルグの中心部から自動車で30分ほど走ったところにあるエアバスの工場は、A380の他にも「A320」などの最終組み立てを行っており、8年先までの連続操業が決まっているほどのバックオーダーを抱えている。ガラス張りの美しい工場が立ち並ぶ一角にある建物の前で下車して、A380の巨大な垂直尾翼を眺めながらデリバリーセンターへと入っていくと、各国から招かれた750人を越えるゲストが続々と集まって来ているのが見てとれる。周囲を見回すと、ダイムラー会長のディーター・チェッツェ氏、乗用車の研究開発部門を率いる役員のトーマス・ウェーバー氏、セールス&マーケティング担当上級副社長のヨアヒム・シュミット氏といった面々がいた。「今日のジンデルフィンゲン研究所は空っぽ」と関係者が冗談を言うほど、Sクラスに関わったエンジニアのほとんどもこの場に駆け付けていた。
大きなスクリーンを前に並べられた座席で待っていると、まるで映画館にいるようだ。役員たちのプレゼンテーションがひとしきり終わった後、スクリーンの画面が中継に切り替わり、今回のワールドプレミアに使われる新型Sクラスが、専用機でシュトゥットガルトからハンブルクまで運ばれてきた際の到着シーンが映し出された。このSクラスをどのように会場に運びこむのかと思った瞬間、スクリーンの背後の扉が開いた。そこには、写真のようなおおよそ現実とは思えないような光景が広がっていた。
A380を背景に、F1のセーフティカーを務める「SLS AMG」が現れてドリフトをキメる。次の瞬間に、両側からメルセデス・ベンツブランドの全ての市販車両が飛び出してきて、左右に整列する。そして、その中央にできた花道を新型Sクラスが堂々と駆け抜けて来る。
あまりのスケールの大きさに現実なのか映像なのか判断がつかなかったが、次の瞬間に舞台中央のターンテーブルで雨にぬれた新型Sクラスが停車し(会場外では雨が降っていた)、背後の扉が閉まった。一瞬の間が空いて大きな喝采が沸く。新型車の発表というより、まるでサッカーのワールドカップでゴールが決まったときのような騒ぎだ。
「メルセデス・ベンツにとってのSクラスとは、ハンブルクにおける港、レオナルド・ダ・ヴィンチにおけるモナリザ、ローリング・ストーンズにおけるサティスファクションのような『象徴』となるものです。常に“クレーム・デラ・クレーム(フランス語で「最高」の意)”であることを求められます。8年の歳月を費やし、考え得る最高の技術を投じて、全ての面で妥協のない1台を作り上げました」と、ダイムラー会長のツェッチェ氏。
開発に当たって重視したのは、従来の同社の企業哲学である「最善か無か」を全方位で行うことだ。安全性かデザイン性か、パワーか効率か、快適さか運動性能か、といった二者択一ではなく、両立を目指したのだ。「Maybach(マイバッハ)」ブランドが廃止されたこともあり、名実ともにダイムラーの最上位車種となったSクラスは何にも遠慮する必要がなくなった。その結果、すがすがしいまでに「最高級セダンとは何か?」という問いに対する答えを体現している。
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