「所有する喜び」「使う楽しさ」――プレミアム感を打ち出した製品づくり:本田雅一のエンベデッドコラム(23)(1/2 ページ)
イタリアで開催された「IFA Global Press Conference 2013」に参加した筆者。世界各国の報道陣、市場アナリスト、家電メーカーなどが集まり、大規模な会議が行われる中、プレミアム感を打ち出したモノづくりの在り方や、製品の魅力を押し上げる付加価値とは何かを考えさせられた。
2013年4月中旬、イタリア・カリアリ近くのホテルで「IFA Global Press Conference 2013」が開催された。IFA Global Press Conference(以下、GPC)とは、毎年秋に開催される世界最古かつ世界最大規模の家電展示会「IFA」の主催者(メッセベルリン)が、市場調査会社のGfkと共同で実施しているイベントである。世界約50カ国から300人もの報道陣、市場アナリスト、家電メーカーなどが集まり、大規模な会議を行う。
今回もさまざまな市場データを基に、各種提案が行われていた。その模様は、ITmedia LifeStyleで記事化している(関連記事1、関連記事2)。既にそちらをご覧の方もいるだろうが、今回のコラムでは、そこからもう少し話を掘り下げていきたい。
とはいえ、実のところ、今回のGPCは明るい話題が少なかったと筆者は感じている。これまでならば、デジタル化や薄型化により勢いのあったテレビの需要が減退していても、新興国におけるデジタルカメラ需要の伸びが凄まじかったり、あるいはスマートフォンが引き起こしたイノベーションの波が、あらゆる製品カテゴリの枠組みをぶち壊すかのように広がっていくシナリオがあったりと、全体としては“前向き”の雰囲気で会議を終えていた。
GPCが、われわれのような業界プレスを集めたカンファレンスである以上、前向きな雰囲気になるのは当然といえば当然だ。こうした集まりで、自ら右肩下がりのシナリオを描くような、自虐的かつ消極的なプレゼンなどはあり得ない。世界中から報道陣が集まるのだから、前向きな話題を意識して話は進んでいく。言葉を引用してもらう限り、その意図はそのまま伝えられるからである。
例えば、会議では、4K2Kの実験放送が日本を含めた各所で計画されていたり、4K2K放送の技術仕様の検討が開始されたり、タブレット端末の伸びがPCの売り上げ低迷をカバーしたり……といった、いかにも好調そうな材料や数字が出てくる。しかし、実際に、電機業界に身を置いている人ならば、先行きがそんなに甘いものではないことは、容易に予想がついていることだろう(いや、これは電機業界に限った話ではない)。
ブランド戦略における欧州企業と日本企業の“差”
さて、こうした“意識して前を向いている”面を考慮したとしても、GPCにおけるアナリストや参加企業によるプレゼンテーションには「なるほど、一理あるな」と思えるところもある。例えば、「プレミアム製品への移行」というテーマがその1つだった。
ここ数年、景気後退や欧州経済危機、それに消費者市場にまん延する低コストな普及型製品との競合による疲弊などを背景に、シンプルな設計と低コストな仕上げで大量生産し、信頼感やブランド力、販売力を武器に製品を売っていこうというビジネススタイルは、低廉なアジア系メーカーの参入で脅かされ続けてきた(もちろん製品カテゴリにもよるが)。
これに対して、コスト競争力を徹底的に強化・追求する方向で対応してきた日本メーカーも多いが、それとともに欧州では“プレミアム性"を意識する企業が増えてきた。そこには、ドイツの自動車メーカーが、「プレミアム車種」「プレミアムグレード」「プレミアムサブブランド」などを駆使して、平均売価を上げることに成功しているという背景があるからかもしれない。小型車は低廉、大型車は高級といった、大昔のステレオタイプを持ち出すわけではないが、車格にとらわれないプレミアムカーは昨今特に増えてきている。
こうしたトレンドを取り入れて、一部の富裕層向けだけではなく、「より幅広い層にプレミアム製品を」という流れが生み出されている、というデロンギやGfkアナリストの話は、ITmedia LifeStyleに掲載した記事の方でも取り上げている(薄型テレビは“プレミアム家電”になれるのか?)。
ただ、上記記事でも述べたが、テレビに関してはプレミアム性を引き出すことは難しい。なぜなら、テレビを評価する上での数値的な指標(自動車でいうところのエンジン出力やトルク、サーキットラップタイムなど)でプレミアム性を打ち出すことが、極めて難しいからだ。放送やパッケージソフトの規格で、数字上の解像度が決まってくる。それ故、4K2Kテレビへの取り組みが加速しているわけだ。
このように、テレビのプレミアム化は難しいが、家電分野全体、あるいはもっと広く製造業全体を見渡せばプレミアム化は十分に可能だろう。というよりも、そのようになっていかなければ、いつかどこかで壁に当たる。プレミアム化の流れは、“労働集約的な要素”への依存比率を下げるということでもある。若く活気があり、生活基本コストの安い地域がたくさんあるアジアに対して、日本は労働集約的な部分の比率を下げていかねばならない。
以上、このような話題はGPCでは出てこなかったが、欧州製造業におけるブランド戦略のトレンドと、それをフォローしているように見えて、きちんとやり切れていない日本企業の差は何だろうか? と考えさせられた。
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