騒いで終わりじゃもったいない。3Dプリンタブームの今後:3次元って、面白っ! 〜操さんの3次元CAD考〜(23)(2/2 ページ)
2012年秋ごろから、世の中は「3Dプリンタ狂騒曲」的な盛り上がりを見せたが、そろそろ落ち着いてきたころ。しかし革命って、本当に起こるの? それは3Dプリンタが起こすことではなく、人が起こすことかもしれない。つまり、大事なことは……。
一過性のブームで終わらないためには
ということで、3Dプリンタブーム(あるいはMakersブーム?)を一過性のお祭りで終わらせないためにはどうしたらよいのでしょうか?
一番の問題は、「3次元データが少ないこと」です。世の中には、3次元データにリテラシーがあり、自分で作れる人が少ないのです。MONOistをご覧の皆さんの3次元モデラー率は平均よりかなり高いのではないかと思いますが、世間一般は、そうではありません。
「自分で作ることができなくても、ダウンロードしたものをプリントしたらよい」という意見も聞きます。ただし、「自分が欲しいモノ」「自分オリジナルのモノ」を「すぐに自分の家で作れる」という夢が、Makersムーブメントの発想の原点だと思います。やはり、自分である程度モデリングが出来なければ3Dプリンタの魅力がだいぶ減じてしまうのではないでしょうか。
逆に3次元データを作ることさえできれば、その先の出力のオプションは実にさまざまです。自分の持っている3Dプリンタだけではなく出力サービスを使うこともできますし、場合によっては切削とか射出成形などを考えていくことさえできるでしょう。
そこで必要なことは実は教育なのではないかと考えています。当然、大人の3次元データのリテラシーを上げるということもそうです。もっと言えば、子どもに対する教育が必要ではないかと私は考えています。
次世代の人たちにとって、3次元データが当たり前な存在になるべきだと思うのです。学校では3次元モデリングを習って、社会に出てからスキルを使わなかったとしても、そのリテラシーは備えている。そうした人材が世の中に増えることで、3次元データを活用できる人のプールがどんどん大きくなっていくのではないでしょうか。
「試しに」ということで、私自身も2012年は「Autodesk 123D」(β版)を使用した伊予鉄を作るセミナーを開催しました。2013年以降は、3D-GAN理事のIさんが、3次元CAD「Moi」で作る直した鉄道模型を作る体験セミナーを随時開催しています。
また、最近では3D-GANの外でも3次元CADのセミナーの開催を試みています。東京都日野市のコワーキングスペース「ZEN Coworking」をお借りして、2回ほどオリジナルiPhoneカバーを製作するというセミナーを開催しました。どちらも小人数ではありましたが、最終的には自分で使える実物を出力してお渡しもしました。お一人、奥さまがジュエリーモデラーだという方がいらして、「ようやく妻がどんな苦労をしているのか、少し分かった気がする」とおっしゃっていました。そのようにして、3次元データのリテラシーが拡がっていくのも悪くないと思いました。
また3月のはじめには、やはりZEN Coworkingで、「オリジナルタケコプターを考えてみよう」という親子向けセミナーを開催しました。こちらはモデリングというよりも、「そもそも、タケコプターって何で空を飛ぶの?」「空を飛ぶための羽根ってどんな風に形を作ったらよいの?」という、どちらかというと理科教室のようなセミナーでした。
普段の公教育では、「先生から言われたことから逸脱して、いろいろな発想を述べること自体が歓迎されていない」ということを、子どもを持つ方から言われたことがありました。だからこのセミナーでは、子どもの「こんなことがしたい」という思いを拾い、そこから、「じゃあ、それを実現するにはどんなことをしたらよいのだろう」という流れにしたのです。で、最終結果はこちらです。
えー……、「タケコプター」というよりは、「巨大なロシアのヘリコプター」が思い浮かぶ重厚な形状になりました。今回のモデルは、丸紅情報システムズさんが快く出力を引き受けてくださいました。出来上がった実物は、結構格好よく回っていたと思います。
3D-GANでは、さらにその活動を広げてみることにしました。この夏には水道橋にあるコワーキングスペース「ネコワーキング」さんのご協力のもと、親子のモデリングセミナーを開催する予定です(現在、題材とプログラムを鋭意開発中です)。
さらに、同様なプログラムをZEN Coworkingさんの協力の下、多摩地区で展開します。今後は、このような横展開をしていこうと考えています。
一般の方が3Dを体験できる活動は、さらに続けていただきたいのですが、「それを体験するために、どこか特定の場所にいかなくてはできない」というのはあまりよくないのではないかと思います。
全国各地に、仕事で3次元CADを使う人、あるいは3次元CGを使う人たちはたくさんいます。パーソナル3Dプリンタなら、場所を選ばずに置くことができます。今や、その気になれば、一般の人や子どもたちが、どこでも3次元CADや3次元CGソフト、3Dプリンタに触れる機会を容易に作れます。
活動が点から面になることが重要ではないかなと思うのです。
ある目新しいテクノロジーに対して、今までなじみがなければ、ちょっとした印象に対して、過剰な夢を抱いても不思議ではありません。そこに、いくら「現実は、こうだ」といってみても、あまり響かないでしょう。
3Dプリンタにかぎらず、今の時代、もの珍しいことを語る人は多いのですが、それを実際にやってみる人が少ないというのも、1つの傾向のように見受けられます。
今日の3Dプリンタについての報道では、どうやら目新しい情報は一段落してきました。だからこそ、もっと落ち着いて3次元モデリングができる人口を増やす。自分で作ったデータを3Dプリンタを使って自分で出力してもらう機会も増やす。そうすることで、多くの人が「自分で作ったモノが手にできる」面白さも味わえるようになり、出力したモノに過剰な期待をすることもなくなるのでしょう。
ひょっとしたらその中から、何か面白いモノを作ってくれる人が出てくるかもしれない。そういう方が前向きに将来を語れそうな気がするのです。
普段は仕事で3次元CADや3次元CGで仕事をしている皆さんも、休みの日にでもお近くで、子どもや趣味の人向けのワークショップをやってみてはいかがでしょうか?
筆者からお知らせ
2012年末に「Kindle Direct Publishing」を利用した3次元プリンタの入門本を出版しました。それほどボリュームのある本ではありませんが、3次元プリンタの基本的な情報を網羅したつもりです。既に業界通の方も、そうでない方も、ちょっとしたリファレンスにはなるかと思いますので、よろしければぜひどうぞ。
「初心者Makersのための3Dプリンタ&周辺ツール活用ガイド」(Kindle版)
Kindleをお持ちでない方は、iPhoneやiPad、Androidをお持ちであれば、フリーのKindleアプリを使って閲覧できます。
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