「やりたいこと」「やるべきこと」「やっていること」が一致する仕事に就け――SIM-Drive 清水浩名誉教授:著名人キャリアインタビュー(2/3 ページ)
32歳の時に研究テーマを変えながらも、今や世界的に有名な研究者となった教授がいる。専門性にとらわれず「何でもあり」の発想で次々に画期的な技術を生み出してきた清水教授が没頭しているのは、電気自動車の研究。電気自動車を普及させることで、地球環境やエネルギーの問題を解決したいと真剣に考える清水教授に、理系のキャリアについて語っていただいた。
EVへの転身は大きな変化に見えるが、大学での勉強は無駄になっていない
清水教授は簡単に言うが、30歳を過ぎてから研究分野を変えるのは、非常に困難なことだったのではないだろうか。清水教授にそんな疑問をぶつけると、次のような答えが返ってきた。
「一見、大きな変化のように見えるかもしれませんが、自然科学を分類すると物理・化学・生物の3つに分かれます。そのうちの物理は、力学・電磁気学・量子力学で成り立っています。カメラもレーザーもEVも、結局はすべて物理のアプリケーション。EV開発には力学・電磁気学・量子力学に加えて、力学から派生してきた材料力学や流体力学を全部使います。大学・大学院で過去に学んだことは、まったく無駄にならなかったんですよ」
いつか本当にやりたくて、社会的にも意義ある仕事に出会えた時に備え、基礎勉強をしっかりやっていたことが幸いしたのだと清水教授は言う。
何も目標がない状態で「がんばれ」と言われても人間は努力できないもの。しかし将来の夢を実現するために、学校での勉強は「将来必ず役に立つ」と思って、日々の努力を積み重ねておくことが肝心なのだと。
そうして学生のうちに身に付けておくべき基礎力を具体的に挙げていくと、まずはものを「覚える力」。そして覚えたものを使って新しいものを「生み出す力」。最後の3つ目は「生み出したものを人に伝える力」だと清水教授は話している。
「今のアジアの教育システムは『とにかく覚えろ』という仕組み。批判もあるでしょうが、まずはものを覚える力を身に付けたらいいじゃないですか。そして蓄えた知識を基盤にして、大学に入ってから新しいものを作り出す練習をする。最後に、どう表現したらいいかを練習する。今の日本の教育システムを有効に活用するのであれば、そうするべきではないでしょうか」
「何をやりたいか」分からなくても、理学系か工学系かは見極めよう
これから社会に出ていく学生の中には「何をやりたいか」が分からない人もいるかもしれないが、「それが当たり前。私の経験からも、そんな簡単に決められるわけではない」と断じている。
ただ少なくとも、早い段階で自分が理学系の人間なのか、工学系の人間なのかは見極めておいた方がいいというのが清水教授からのアドバイスだ。
「『文系』『理系』という分け方がある一方で、『理学系』『工学系』という分け方もあり得ます。理学系と工学系とでは、物事の考え方がまったく違います。文系も同じように『文学系』と『政治・経済系』とに分けられるでしょう。どこが違うかと言うと、硬い石があった時に『なぜ硬いのだろう』と興味を持つのが理学系。工学系は『硬い石をどうやって使ってやろうか』と考えます。新しいものを考えることが好きで、新しい発見をしたい人が理学系で、新しいものを作りたいという人が工学系なのです」
言い換えると、それは科学と技術の違い。ニュートンの運動方程式が発見され、電気と磁気の関係が判明し、分子・原子の構造が分かるようになったのが科学なら、科学で明らかにされたことを使って実際の形にするのが技術である。
「科学と技術は似ている言葉ですが、まったく違う言葉。両方の言葉を理解した上で、自分はどちらが好きなのかと考えてみましょう。その見極めは、早いうちに済ませておくべきです。私の場合は、確実に工学系。真理の探究にはまったく興味がなく、どうやって社会を変えられるのか、頭で考えたことをどう実現するかということにしか興味が向きませんでした。進路に迷っているのなら、まず『自分は理学系なのか工学系なのか』と考えてみることが大事だと思うのです」
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