廃棄物をエンタメ役者に! 「工場ハック」に潜入してみた:「ナカダイ モノ:ファクトリー」のイベント(3/3 ページ)
産廃処理場に観光バスでツアー? 「ナカダイ モノ:ファクトリー」のイベント「工場ハック」とは。
ナカダイの廃棄物ビジネス
産業廃棄物業者は、受け入れる産業廃棄物の”量”(重さ)で売り上げが決まる。受け入れた廃棄物を低コストで処分するほどもうけが大きくなる。ナカダイが行っているように、丁寧に分解して素材ごとに分けるのは、通常の廃棄物処理ビジネスにとっては、“割に合わない”ことだ。
ナカダイでは、溶かしたり燃やしたりして使う「マテリアル/サーマルリサイクル」と、素材ごとに分けた形で別の使い方を考える「リユース/素材そのものとして使用」とを別に考えている。そして、特にそのまま使う後者の割合をなるべく増やそうとしている。
燃料にするサーマルリサイクルに比べて、マテリアルリサイクルを行っている業者は少ない。細かい仕分けをしなければならないことと、仕分けても充分な量になるほど大量の廃棄物を受け入れなければならないこと、つまり細やかさと規模を両方持たなければならないことで、実現するのが難しい。ナカダイはそこを、「一度捨てられたものに別の用途を与える、クリエイティブな仕事」と捉えることで実現しているのだと僕は思う。
ナカダイは、そんなビジネスを「一度捨てられたモノに別の用途を与える、クリエイティブな仕事」と捉えているのだと僕は思う。
ナカダイは、何かの材料になる可能性を秘めたマテリアルだけを仕分けて「マテリアルライブラリー」で販売しているが、これは「引き取ったモノをそのまま販売する」従来のリサイクルショップとも違う、独自のビジネスといえる。
さらにマテリアルライブラリーで販売することで、「買った人が、新しい使い方を見つけてくれる」ということへもつながる。廃棄物処理業者としてだけ考えるのではなく、マテリアルの新しい使い方を、多くのユーザーたちを巻き込むことで見い出していくという、これも今までになかった取り組みだと思う。「工場ハックのような多くの人が集まるイベントを行うこと」「きちんと廃棄物を分解・分別して新しい価値とすること」が、1つの活動として融合している。
ナカダイには在庫調整の時に不要になった未使用の化粧品ボトル数千個だったり、リース機器の入れ替え時に大量の機材が持ち込まれたりする。持ち込まれるモノの多くは、「出した人にとっては不要だが、何かの価値があるモノ」だ。誰にとっても不要なゴミは少ない。
ナカダイでは、毎日何十トンも持ち込まれるさまざまなモノを細かく見て、「これは、どんな使い方ができるかな?どういう人のところに届けたらいいかな?」と考える、創造性や工夫が必要とされるビジネスを行っている。「毎日大量に持ち込まれる、使い道のあるモノを見たときに、この新しいビジネスの形が見つかった」と、モノ:ファクトリー代表の中台澄之氏は語っている。
見たモノを何でも持って帰れる「ハンティング」
事業所の閉鎖や機器入れ替えなどに伴う中古の電子機器なども、ナカダイに多く持ち込まれる。工場ハックの参加者は、それらを素材ごとに目方で測って持ち帰れる。このイベントでは、それを「ハンティング」と言っている。
何しろ工場の中には、家具・電子機器・道具など、あらゆるモノが存在し、毎日内容が変わる(食品など、腐る有機物は扱っていない)。
僕も「Let's Note」用のACアダプターを2つ(グラム210円とのことで、400円ぐらいだった)見つけて購入。Let’s Noteのユーザーはモバイラーが多く、アキバのジャンク屋ではあまりACアダプターが見あたらないので、これはかなりうれしい。他にUSBのバーコードリーダーも購入した。
他に中古のノートPCを購入している人や、DDR2等ちょっと前の規格のメモリを大量に発見して喜んでいる人、奇妙な形のガラス瓶を買った人など、参加者は広い工場内を散策しては、さまざまなモノを手に取っていた。
素材として再生させる
モノ・ファクトリーの中には、「素材化したモノを使って工作して、再生させる」ワークショップをする工房もある。鉄工所のような本格的な工作機械が備えられ、ファクトリーの棚や治具、フォークリフトのバケットや鉄の仕切りなどは、持ち込まれた産業廃棄物の中から使えそうなモノを切断・溶接して作り上げたモノだ。
「機械以外は、大体作ります」(中台氏)とのこと。
工場ハックの参加者も再生を体験することができる。廃棄物マテリアルから、アクセサリを作るワークショップが行われ、自由に参加することができる。
僕はマグネットクレーンの体験や、工場内の素材ハンティングで歩き回っていてワークショップには参加できなかったが、ワークショップのテーブルにも多くの人が集まっていた。
次のイベントは、「産廃サミット」だ
工場ハックは、多くの家族連れを含めて、年齢も性別も異なるさまざまな人たちが参加していることからもうかがえるように、「誰もが楽しめる」イベントだ。
廃棄物処理場が、自分たちのビジネスの価値を見つめ直して、仕事としている内容を極めるだけでなく、それによって人々が憧れるカッコよさ・楽しさを生み出すことで、多くの人が楽しむために集まる場所になっている。
マテリアルを通じて、多くの人とコミュニケーションしながら活動し、新たな価値、新しい取り組みが生まれる、ナカダイはそんなコミュニティースペースだといえる。
工場見学の他に、ナカダイでは「産廃サミット」というイベントを計画している。2013年9月7〜16日には、プラス 赤坂ショールーム(東京都千代田区)で「第3回産廃サミット@+PLUS」が開催される。
工場ハックが「マテリアルが生まれるところを体験する」イベントなら、産廃サミットは「それが別のアート作品に生まれ変わったところを体験する」イベントである。会場全体には、ナカダイのマテリアルを使って作ったさまざまな作品が並ぶ予定だ。展示内容は「“廃棄物を言い訳にしないデザイン”をしたモノ」。赤坂という場所に、産業廃棄物の作品が大量に持ち込まれるということ自体も面白い。
もちろん作品が集まるだけではなく、それぞれ作ったモノを手にしたクリエーターたちが集まり、ナカダイもクリエーターとしてそこに参加して交流する。どういう盛り上がりを見せるか、今から楽しみである。
詳しい情報は、モノ:ファクトリーのWebサイトで確認できる。今回の工場ハックのように、都内からの交通まで含め、ワークショップも用意されているイベントは年に数回だが、通常の工場見学は随時受付している。
Profile
高須正和(たかす まさかず)
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β幹事。趣味モノづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
筆者からのお知らせ
2013年4月27〜28日、幕張メッセで「第4回 ニコニコ学会βシンポジウム」を開催します。今回は、全国のものづくり工房が連続して発表する「Fab100連発」、ハードウェアでベンチャーを起業し製品を世に問う会社が集まる「ハードウェアベンチャー」という企画を予定しています。
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