オムロン逆転の発想、「カイゼン」と「省エネ」は同じことだった:小寺信良が見たモノづくりの現場(3)(2/5 ページ)
生産のQCD(品質、コスト、納期)を見直すカイゼン活動は、現場力の見せ所だ。一方、省エネはこれまで現場から離れた工場の管理部門の役割だとされてきた。QCDと省エネを同じ目線で捉えると何ができるのだろうか。オムロンの事例を小寺信良が紹介する。
なんでやるんだ
まず省エネプロジェクトの形として、次の3つのポイントに絞った。
- なんでやるんだ
- 誰がやるんだ
- どこまでやるんだ
“なんでやるんだ”、という点に関しては、“生産”の原点にまで立ち返った。生産とは、地球上のエネルギーと資源を使って、生活に有益なものを作り出すことである。製造過程で状況をセンシングしながら、エネルギーをコントロールして、製造プロセスを調整する。
多くの工場では、不良品や廃棄物といった目に見える資源の無駄には非常に敏感で、たった1つの不良品のためにラインを止め、すぐに原因究明などの対応を図る。しかし目に見えないエネルギーに関しては、ほとんど関心が払われていないという。
エネルギー効率を最大化すること、すなわち電気を必要な所に必要な量だけ供給することは、福島第一原発事故に起因する電力のひっ迫による、電気料金の値上げに対抗できる手段ともなる。工場でどれだけの電気を使うかは製造プロセスの種類や規模によってさまざまだが、年間で億単位の電気代が掛かるところも珍しくない。そうなると現状維持だけでは、値上げにより年間で数千万円が吹っ飛ぶことになる。もはや製造現場でもエネルギー効率を考えることが避けられない。
オムロンのプロジェクトでは、まず省エネありきのモノづくりではなく、エネルギー効率の最大化を目標にすることで結果的に省エネになる、という方向を目指した。
誰がやるんだ
続く“誰がやるんだ”という問題、これは言い換えれば誰が責任を持つのか、ということである。オムロンではこれを、製造部長に置いた。つまりQCD(品質、コスト、納期)と同じように、エネルギー効率の最大化に責任を持つことになる。
これにはもちろん、品質を落とさないための技術保証が必要だ。さらに商品単位で、エネルギー原価や付加価値が見える仕組みを作ることが役立つ。
どこまでやるんだ
このような取り組みをいったん始めると終わりがない。そこで“どこまでやるんだ”に対しては、3つのステップを踏むことにした。
- STEP1 “見える化”で節電を徹底
- STEP2 省エネものづくりの技術検証
- STEP3 結果をレシピ化して他のラインや工場に横展開
このプロジェクトのポイントは、“エネルギーの見える化”である。オムロン草津工場は、工業生産用のコントローラーを主に製造しており、綾部工場では工業用センサーを製造している。自社製品を使って、まずは見える化に着手していった。
エネルギーの“見える化”とは
草津工場で使用するエネルギーは、電力が7割、窒素ガスが3割である。窒素をエネルギーと呼ぶかどうかは微妙なところだ。窒素ガスは炉内の酸素濃度を下げ「はんだ」の乗りをよくするために使用するもので、その窒素を製造するのにも電力が使われている。
まず“見える化”の手順として、大ざっぱに傾向を見る「着眼大局」からスタートした。これは工場内にあるブレーカーに電力計を取り付け、その変化をモニターする。草津工場では、ほぼラインごとにブレーカーが配置されていたため、結果的にラインごとに使用電力をモニターしていくことになった。
この段階でも、ファシリティ分野で相当重要な発見があった。まずラインの各所で使われるエアコンプレッサだ。使用量に応じてエアコンプレッサの台数制御をかけていたが、使用コンプレッサのエア出力を上げることで、稼働台数を削減することができた。
これまでは、コンプレッサの設定がデフォルトのままになっていた。普通は省エネを考えると、出力を下げる方向に調整するものだが、電力と効率を測っていくことで、むしろ上げてしまった方が最高のパフォーマンスが発揮できることを発見したのである。さらにバッファのタンクもあるので、これを有効に使えば急な利用増でも稼働台数を増やさなくていいことも分かった。(図2)。
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