BMWのハイブリッドにはスポーティさが必要、「プリウス」とは思想が異なる:BMW 開発部門担当取締役 Herbert Diess氏 インタビュー(1/2 ページ)
2013年1月、燃料電池車やスポーツカー、車体の軽量化技術の共同開発で合意したトヨタ自動車とBMW。国内では「トヨタ」を主語とした報道は多いものの、BMW側の狙いはあまり伝わっていない。そこで、BMWの取締役会メンバーで開発部門を率いるHerbert Diess氏に、トヨタとの提携の狙いについて聞いた。
2013年1月24日、トヨタ自動車(以下、トヨタ)とBMWが燃料電池車やスポーツカー、車体の軽量化技術の共同開発で合意し、正式契約したと発表した(関連記事)。
トヨタとBMW。社風を異にする2つの自動車メーカーの提携が発表されたとき、少なからず驚きを覚えた人もいるだろう。一方は、1年間に975万台を生産する世界一の自動車メーカーであり、もう一方は、年産約180万台の中規模メーカーである。トヨタはコンパクトカーのような量販車から、国内随一の高級車である「レクサス」まで、幅広いモデルラインアップを形成している。これに対してBMWは、BMWブランドを中核に、生産の約3分の1を占める小型車「ミニ」と、自動車の世界では最高峰となる「ロールス・ロイス」まで、グループ全体で幅広いクラスをカバーする。
今回の提携にあたって、国内の報道ではトヨタが得意とする燃料電池車とハイブリッド車の技術をBMWに供与し、苦手とするディーゼルエンジンの供給をBMWから受ける、とされている。しかしながら、これは「トヨタ」を主語とした場合の話だ。BMW自身はどう考えているのだろうか? 同社の取締役会のメンバーで開発部門を率いるHerbert Diess(ヘルベルト・ディース)氏に提携の狙いを聞いた。
ヘルベルト・ディース 1958年ドイツ・ミュンヘン生まれ。ミュンヘン大学で応用科学を学び、ミュンヘン工科大で機械工学博士号を取得。Robert Boschでジェネラルマネージャーを務めた後、1996年にBMWに入社。2000〜2003年に「ミニ」オックスフォード工場のディレクター、2003〜2007年には2輪部門であるMotorrad(モトラッド)のディレクターを歴任。2007年からは取締役に就任し、物流とサプライヤネットワーク担当となる。2012年3月から開発部門を担当。現在に至る。
EVやハイブリッド車は独自開発を継続
「トヨタとの幅広い提携内容には大変満足しています。燃料電池など将来技術については深いレベルで情報交換して、アイデアを共有しています。一方で、電気自動車(EV)やハイブリッド車に関しては、これまでBMW独自に開発を進めてきた蓄積があります」(ディース氏)。
BMWは、2013年内に、電気駆動の車両を中心とする「i」ブランドの新型車「i3」を発売する予定だ。そのパワートレインには、モーターと電池だけで走行するピュアEVの他、オプションでプラグインハイブリッドも選べる。さらに2015年には、映画「ミッション・インポッシブル」でトム・クルーズが乗って話題になったプラグインハイブリッド車「i8」の発売も予定されている。
「i3に搭載されるEVやハイブリッドの技術はBMW独自のものです。EV用のリチウムイオン電池にはSB LiMotiveの製品を採用することが決まっています。もちろん、電池技術は急速に進化しているので常にその動向を注視していますが、現段階では以前の発表と何ら変わりありません」(ディース氏)。
「ハイブリッド技術に関しても、BMW独自の開発を進めています。現段階で採用を進めている機構は、『プリウス』のハイブリッド技術とは考え方が異なります。BMWが求めるハイブリッド技術には、ダイレクトな操作感や、アクセル操作に対するレスポンスの高さなど、スポーティなフィーリングが欠かせません。そのためには、現在独自で開発しているハイブリッド技術が有利です。ただし、先進技術の部分でお互いの持っている知見を共有しつつ、将来的に共同で何かを進める可能性も否定しません。しかし、今現在はアイデアをシェアしている段階です」(同氏)。
そもそも、初代「プリウス」は、速度域が低く、ストップ&ゴーが多い日本国内向けに開発された経緯がある。そうした走行モードでは、確かにトヨタの2モーターに遊星ギアを組み合わせたハイブリッド技術は有利である。一方で、クラッチを持たずに常にエンジンの出力の一部を発電に回していることから、高速などで連続走行しているシーンで電池への充電がいっぱいになってしまうと、あまり効率がいいとは言えない。だからこそ欧州では、高速走行でもエンジン回転数を低く抑えて低燃費を実現できるディーゼルが浸透したのだ。
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