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テレビ業界が取り組む“スマート化”から、価値づくりのヒントをつかむ本田雅一のエンベデッドコラム(20)(1/2 ページ)

近年、“スマート化”が進むテレビだが、メーカー側とテレビ局側とでは思惑が異なる。テレビ局はいま、番組を放送するだけでなく、番組と視聴者をつなぐ仕掛け、新しいサービスを模索しているのだ。今回は視点を変えて、異業種の取り組みからモノづくりのヒントを探りたい。

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本田雅一のエンベデッドコラム

 今回は“モノづくり”というキーワードから最も遠い業種の話をしたい。とは言っても、モノづくりと全く関係がないわけではない。価値を作り出すという面で共通したテーマといえるからだ。

 いかにして、製品にバリューを与えていくかを考える際、毎回、そうやすやすと、斬新かつ市場ルールを変えてしまうほどのイノベーションを思い付けるわけではない。そんなときは、幾つもの制約がある中で、どう変化していくのか、という視点で異業種を眺めてみてはどうだろうか。何かいいヒントが見つかるかもしれない。ここで紹介するのは、民放テレビ局の取り組みだ。

 民放テレビ局というのは、一般の視聴者目線で見てみると、バラエティ番組などのイメージから、少しばかり“チャラい”職場のイメージを持つかもしれない。大きな広告案件が動く分野でもあるため、派手な側面がないとは言わないが、筆者がよく知る部門(主に、技術部門やネットワークサービス連動などの新規事業開発関連)の印象は、至って“マジメ”だ。

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 免許事業である放送事業者は、監督省庁との関係もあるため、事業の枠組みを大きく逸脱したビジネス手法はとりにくい。さまざまな見方があるだろうが、ネット戦略でテレビ局がやや後手に回っているように見えるのは、どこまでが放送事業者として許される範囲なのかを模索しながら、新しい分野に挑戦しているからだといえる。

 もちろん、テレビ広告という、ある意味での不動産(「どの曜日の、どの時間帯」と指定しようと思えば買えるが、番組枠は限られているため、そう称されることが少なくない)を扱っているため、安定して大きな金額の動く既存事業の枠組みを変えられない、という事情もあるだろう。既存事業の規模や収益性に合わせて、コンテンツ制作のコストやビジネスモデルが構築されており、そこに小回りを利かすことはできるが、個々の規模が小さいネット系の仕掛けを組み込む場所はない。

 それでも昨今、テレビ局は変わろうとしている。

 例えば、先日(2013年3月13日)、テレビ朝日がスマートフォンやタブレット端末を活用して、テレビ番組と連動させるネットワークサービス「テレ朝リンク」を発表した。詳細は不明だが、スマートフォン/タブレット端末をセカンドスクリーンとして、テレビを楽しみながら、手元の端末で番組視聴の満足度を高める仕掛けが組み込まれているそうだ。2013年3月26日夜に放送される『テレビ朝日開局55周年記念 2014FIFA ワールドカップ ブラジル アジア地区最終予選 ヨルダン×日本』を最初のコンテンツにするという。

相いれないテレビメーカーの“スマート”とテレビ局の“スマート”

 テレビを開発・製造するメーカー各社は、それぞれの解釈で「スマートテレビ」の機能を製品の中に取り込んでいるが、モノづくりエンジニアが多い本連載の読者の視点からは、少々不思議に思えたり、違和感を覚えたりしないだろうか。

 なぜなら、世の中に、スマートテレビという技術や規格はおろか、ゆるやかな枠組みでさえ存在していないからだ。スマートテレビとは何なのか? どんな商品、どんなサービスを提供するものなのか? 「テレビを新しくしよう」という思いの下、それぞれの立場で、インターネットへの広帯域接続、あるいはクラウドサービスとの連携などの技術トレンドをテレビに取り込んでいるが、目指す方向は立場によって異なっている。

 テレビメーカーにとってのスマートテレビとは何か。各社共通しているのは、テレビ放送以外のコンテンツに対して、シンプルにアクセス・操作できる仕組みを提供するテレビという点だろう。つまり、この場合、テレビを通して各種サービスにアクセスするため、コンテンツ料金の決済やコンテンツ流通プラットフォーマーとしての利益が見込めるということだ。これを別の見方で捉えてみると、「テレビメーカーが、こぞってテレビ放送以外のコンテンツを見せようとしている」ともとれる。ユーザーに、テレビ放送というテレビメーカーにとって収益源になり得ないコンテンツを見てもらうのではなく、“ネットを通じて、コンテンツ配信事業者との間を取り持ち、B2B2Cでの収益モデルを作る”と言い換えるとイメージしやすいだろうか。つまり、テレビ局の立場からするとテレビメーカー各社が考えるスマートテレビは(少なくとも、予測通りに普及したとするなら)“ライバル”ということになる。

 それならば、「テレビ局自身が自由に番組と連動する、テレビ上あるいはスマートフォン上で動作するアプリを開発して、“新しいテレビの楽しみ方”を視聴者に提案すればいいのでは?」という意見もあるかもしれない。しかし、もともとテレビは、一方通行にコンテンツを流し込むことを前提に発展してきたため、コンテンツ価値の評価が視聴率(だけではないが)に偏っており、ネットコンテンツに投資しにくいという側面もある。

 例えば、各テレビ局が作っている番組の公式Webページを、どのぐらいの人が頻繁にチェックしているだろうか? 何かの時にふと見ることもあるかもしれないが、日常的にチェックするコンテンツとはいえない。また、おそらく視聴率を上げる効果も、ほとんど果たしていないだろう。なぜなら、推定される視聴世帯数に対して、アクセスユーザーの数が圧倒的に少ないからだ。

 これはネットを通じた付加コンテンツも同じで、番組と連動するさまざまなサービスを付加しても、単純に機能を追加するだけでは、視聴率の増加にはつながらない。映像コンテンツそのものに投資して番組内容を充実させる方が、テレビ局としては収益拡大につながる。

 もちろん、これは“仮説”であって、実際はそう単純なことではないが、番組製作費が1000万円あったとして、その中の200万円を連動するネットコンテンツの製作費に……と言われて、番組作りをしている人たちが納得するかどうか、という話だ。

 そんな中、在京キー局が“スマート”というキーワードを使い始めているのは、なぜなのだろうか?

視聴者とテレビ局の間を取り持つ接点としての“番組のスマート化”

 2012年、フジテレビは「テレコアプリ」という、番組連動でインタラクティビティをもたらすアプリを公開。また、日本テレビは「wiz tv」というSNS連動で、テレビ各局の番組に関する盛り上がり度をグラフ化するアプリを開発した。この2つは、テレビ局側が積極的に“スマート”というテーマにアプローチした例である(日本テレビはこれに先んじて、データ放送を用いた「JoinTV」を開始。その後、Webアプリでスマートフォン対応させたが、ここではあえて触れない)。

テレコアプリwiz tv (左)フジテレビの「テレコアプリ」/(右)日本テレビの「wiz tv」

 この2つは、いずれもテレビ局発の“セカンドスクリーン”アプリという意味で、よく似た位置付けだと感じている人が多いかもしれない。しかし、実は、根本的な部分での考え方が異なっている。それは“視聴者(顧客)との接し方”の違いだ。

 テレコアプリの利用者は、自局(フジテレビ)の視聴者の一部を想定している。テレビの視聴者に対して、プラスαで楽しみ・付加価値を提供するために、セカンドスクリーンを活用しようと考えている。つまり、テレビ番組を見ている人の中で、一部興味を持った人がアプリ“も”使うという形態であり、新たな視聴者を獲得するシナリオはそこにはないのだ。一番の目的は、テレビ番組の視聴者サービス、あるいは視聴者とのコミュニケーションの幅を広げることにある。テレコアプリは、「そこにきちんと投資しよう」という、かなりマジメで真正面からのアプローチといえる。

テレコアプリ1テレコアプリ2テレコアプリ3 フジテレビ「テレコアプリ」の画面イメージ

 これに対し、wiz tvは、同じセカンドスクリーンでも出発点が異なる。目的は“アプリを使って、面白い番組を知る”ことだ。アプリを起動すると、各局の(ネットの中での)盛り上がり度が表示され、どのチャンネルが盛り上がっているかをグラフで見ながら、Twitterに流れる関連ツイートを参照できる。言ってみれば、今やっている面白い番組への出会いを創出するアプリだ。さらに、過去の時間にさかのぼって、盛り上がりのポイントを探し、そこで何が盛り上がっていたのかをチェックすることも可能。録画番組を見るきっかけとして使える他、録画番組の音声をスマートフォン/タブレット端末のマイクで拾うと、どの番組なのかを判別し、関連するSNSのタイムラインを表示するといった機能も盛り込まれている。wiz tvは、自局(日本テレビ)の番組を特別扱いしてはおらず、他局の番組の方が話題になっていれば、他局の宣伝ツールにもなる。日本テレビとしては、「それでテレビが面白いと思ってくれるなら、その方がいい」という考えである。

wiz tv1wiz tv2wiz tv3 日本テレビ「wiz tv」の画面イメージ

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