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トラブルがなければ必ず上位に行ける! ――京都工芸繊維大学第10回 学生フォーミュラ大会優勝校(1/2 ページ)

京都工芸繊維大学チームのこれまでの大会の最高順位、12位。それが、今大会はいきなり総合優勝! でも過去の車両も、実は完成度が高かった。結果へとつながらなかった原因は、当日の車両トラブル。今大会は、トラブルの原因を徹底的につぶして臨んだという。

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 2012年9月3〜7日に、記念すべき第10回の「全日本学生フォーミュラ大会」は、例年通り静岡県小笠山総合運動公園(通称エコパ)で盛大に開催された。大会期間中に参加した延べ人数が1万222人(第9回大会は9593人)という一大イベントは、年々その知名度が上がっていることはもちろん、参加チームのノウハウも蓄積されてきており、大会で結果を残すことは並大抵のことではない。

 今回の大会では上位3チームを全て関西勢が占め、その中で初優勝を勝ち取ったのは京都工芸繊維大学の学生フォーミュラチーム「Grandelfino(グランデルフィーノ)」だ。


Grandelfinoのメンバー

 「え? “工芸繊維”大学!?」と思ったのは筆者だけではないだろう。

 実際に全日本学生フォーミュラ大会の参加リストを見てみると、工業系の大学や機械工学部はもちろん、自動車整備専門学校といった「何となくフォーミュラとイメージが結び付く」分野の学校からのエントリーがほとんどである。

 今回の取材に当たり、真っ先に聞きたかったことは、この“工芸繊維の”大学という名称からイメージしにくい学生フォーミュラへの参戦動機である。

 しかしチームリーダーの岡本さんの口から出た答えで、全てが瞬時につながった。

 「工芸繊維大学というのは名前だけで、中身は工業大学です」

 なるほど。大学名だけで勝手なイメージを持ってしまった筆者も悪いが、要するに工業大学だと置き換えてみれば何も不自然なことはない。読者の方にも同様の疑問を抱いている人が多いと思い、あえてこの単純な疑問を真っ先に解消させたところで、今回の優勝チームであるグランデルフィーノをあらためてご紹介しよう。

 チームのメンバーは総勢40人。大きく分けるとドライバー班、シャシー・フレーム班、パワートレイン班、チーム運営部隊などに分かれ、さらにその中で細かな役割分担が割り振られた組織になっている。


2013年度組織図

 もちろんこの組織を統率し、学生フォーミュラ活動をけん引していくのがチームリーダーである。こういった組織において、最も難しいのは人員配置であると筆者は考えている。特にドライバーやエンジン担当などはフォーミュラにとって花形的な存在というイメージもあり、参加メンバーが担当したいパートを自由に立候補で決めると、組織としての活動がうまく機能しない可能性が大きい。

 その問題点を解決するために、グランデルフィーノは最も大変なチームリーダーの独断で、組織としてまとめやすい体制を割り振っている。

 チーム名である「グランデルフィーノ(Grandelfino)」とは、イタリア語の「イルカ(Delfino)」と、 「大きな、壮大な」という「グランデ(Grande)」を掛け合わせて作った造語である。そしてチームカラーであるブルーをまとった2012年モデル「GDF-07」に対して、エンジントラブルによって思うような結果を残せなかった前モデルの仕様をベースに小規模改良を行って今回の大会に臨んだ。


GDF−07フルカウル状態

トラブルさえなければ必ず結果は付いてくる

 グランデルフィーノの過去の戦績を見ると、最高順位で12位(2011年の第9回大会)である。この結果だけを見ると、今回の優勝は大躍進のようにも感じられるが、実はそうではなかった。

 過去最高順位となった2011年モデル「GDF-06」の完成度は高く、十分に上位を狙えるレベルだった。結果だけを見れば過去最高位だが、エンジントラブルによって本来の実力を発揮できなかったために非常に悔しい思いをしたのだ。

 「性能は十分。トラブルさえなければ必ず結果は付いてくる!」という確信の下、仕様に関しては小規模変更に留め、トラブルの芽を徹底的につぶし込むことにチームのベクトルを集中させた。

 大幅な設計変更がなければ、それだけ早い段階で車両製作が終了し、サーキットでのテスト走行に多くの時間を費やす。とにかく実走行を徹底することで、車両セッティングやトラブルの顕在化に集中することをチームの方針とし、例年よりもかなり前倒しとなる「12月の時点で車両製作完成」という目標をチーム一丸となって守り切った。

 早期に車両が完成し、走行テストは幾度も繰り返された。とはいっても、走行テストには多くの資金と時間が必要となる。例えば近隣に無料でコースを開放してくれるサーキットがあれば最高であろうが、そのような環境があるはずもない。

 テスト走行に多くの期間を費やせるとはいっても、大会当日までに実施できるテスト回数はおのずと決まってくる。つまり「限られた機会をどれだけ生かせるか」が重要であり、実際の走行テストはチーム全員が一体となり、緊張感あふれる中で行われた。

 テスト中にエンジントラブルがあれば、徹夜をしてでも翌日の走行に間に合うようにエンジンを仕上げたこともあったという。まさにレースを控えたレーシングチームさながらである。

 車両製作直後のテスト走行では満足のいくタイムを出せなかったが、回数を重ねるごとに車両の性能を最大限生かせるセッティングを熟成し、さらにトラブルの芽も徹底的につぶしこんだ。これらの努力の積み重ねによって、今大会では万全の態勢で臨めたのである。

 「トラブルがなければ必ず上位に入れる」という考え方は、筆者にとっても実際に幾度も経験があることだ。例えば鈴鹿8時間耐久ロードレースにおいては、絶対的な速さでトップを独走していても、たった1回のトラブルで一瞬にして下位へと転落してしまう。もちろん8時間もの長時間を全開走行するため、どのチームも大小の差はあるが何らかのトラブルが生じる。しかし最終的な結果を見てみると、絶対的な速さではなく、トラブルが少なかったチームが上位に入っているのだ。

 全日本学生フォーミュラ大会は5日間という超長期間の耐久レースであり、これだけの長期間でトラブルがないというのは不可能に近いだろう。しかし逆に考えると、トラブルが起きずに全ての種目をやり切れば、必ず良い結果が残せる。今大会のグランデルフィーノの戦略として、トラブルを未然に回避することを最重要課題として推し進めたチームリーダーの采配が、優勝という結果を手繰り寄せたといえよう。

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