特に工業系の先生に見てほしい「心技隊流・教育論」:心技隊流「未来を創るヒント」
今回は、心技隊の事務局長が教育について考えた。役に立たない資格ではなくて、コマを作れば、高校生のうちから実務能力の下地を育てられる!
経営の先行きを考えると、必ず行き着く問題がある。それは「人材」の確保だ。大企業だろうと、中小零細企業だろうと、規模に関係ない共通の経営課題だと思う。入社して3カ月で辞める“もったいないヤツら”に対して、「今の若いものは!」何て言うつもりはない。学校や家庭での下地となる教育のやり方が間違っている、というか……、方向がズレて来ているし、若者ばかりのせいではないだろう。
ここで1つの例を挙げてみよう。それは、ある高校のWebページに書かれていたことだ。
この高校では在籍中に43種類の資格が取得可能だという。その取得状況を見てみると、全校生徒約600人に対し、資格取得件数は900件近い。これは、どういうことか。単純に考えれば、1年生から資格取得を始めたなら、「1人当たり1.5個の資格」を取得することになる。実際は、卒業までに1人で3個ぐらいは取るのが普通なのかもしれない。
でも、それを「すごいねぇ」の一言で終わらせちゃいけない。
この高校の生徒たちは、「この資格を取れば、社会に出て役に立つ」と思って、必死になって勉強していることだろう。しかし、そこに並んでいる資格をよく見てみると……、そのうちの3分の2は、実社会で必要がない、あるいは活用しようがない資格だ。努力して資格を取得すること自体に異論を唱えるつもりはない。しかし、この資格を取得するために、補習講座をやったり、土曜日に学校に来て勉強したりしているらしい。
何で、こんなことになっているのだろうか?
43種類の資格の認定団体は、国ならまだしも……、「ナントカ協会」とか、「ナントカ連盟」とか、あまり聞かない団体名ばかりだ。聞くところによれば、どうもこの認定団体……、さまざまな方面からの天下り先らしい。
その構図は、きっと、こうだ。
- 実際の仕事内容を知らない採用担当
- 生徒を1人でも多く就職させたい先生
- 天下り先を確保したい人たち
- 「資格があれば大丈夫」と思い込む親
この4つの思惑が入り乱れていて、生徒たちや実際に現場で教える先生たちにそのしわ寄せが行っているのではないか?
現場の先生たちは、「こんな資格は役に立たない」と分かっていても、上からも親からもちくちく言われてしまうから、しぶしぶ生徒に「資格を取りなさい」と呼びかける。そして生徒たちは、限られた貴重な時間を無駄な資格取得に使わざるを得なくなった。そんなところが実情だろう。
先生によっては、結果がよく見えない人格形成の指導をするよりも、結果がはっきり見える資格取得の方が、自分たちのモチベーションが維持しやすいのかもしれない。こんな構図の中で、必至に頑張って勉強して取得した資格が、社会に出て全く役に立たないモノだったと知ったら……、生徒たちはどう思うだろうか?
「やっぱり、学校の勉強って役に立たないんだなっ!」となってしまうだろう。「武器だ」と思っていたモノが、「武器じゃない」と知った瞬間にパニクッてしまう子もいるだろう。
これは私の勝手な推測だが、こんなことも、「あっという間に会社を辞める新卒」を生み出すことに貢献しているのだろうと思う。
「我田引水」って言わないで!? 心技隊流・教育論!
持っているだけで使えない資格を取る暇があるなら、「しかく」(資格)じゃなくて、「まるい」コマを作ろう。特に工業系の学校なら、コマは、絶対、良い教育になる。
普段、高精度加工を売りにしている会社ですら、初めて自分でコマを設計すると、1分回るものを作るのがやっとだ。地域の加工メーカー対工業高校生のバトルなんて最高の教材じゃないのかな?
「基本コンセプト」「材質選定」「形状設計」「加工」までの一連を全て自分たちで考える。そして、「売るためには、どんなコマを作ればよいか」を考えれば、マーケティングの勉強になる。そのためには、原価計算もしなければいけないから、設計開発的な思考法も必要だ。
実際、コマを売る段階になれば、営業の経験もできる。そして、お金の管理をするには、経理の知識を使う。
極め付きは、「リーダー的存在が不可欠」ということを理解し、組織における役割分担の必要性やその方法を学ぶことだ。
さらに分からない所があれば、加工メーカーの社長に聞きに行くように、先生が生徒に仕向ければ、インターンよりもはるかにレベルが高い勉強ができるだろう。
こんな経験をした生徒たちなら、実社会に出ても、さまざまな角度から仕事を見られるようになり、「短絡的に判断して、すぐ辞める」ということにはなりづらくなると思う。
もし全国の工業系の学校の先生がこのコラムを見ていたら、一度考えてみてください。
単純なコマを使うからこそ、取り組みやすい教育になる。役割分担の中で、自分に合った役割を見つけた生徒には、そこからそれに必要な資格を勧めればよい。
本来、資格というものは、学校側が勧めて取得するものではなく、個人が自発的に行動を起こして取得するものではないだろうか。
「学校で勧められたから取った」資格なんて、役に立つはずない。だって、自分が必要だと思って取るわけではなく、「授業の延長線上」でしかないのだから。単に“詰め込み型”の受験勉強で合格するだけで、それは実際に「生きた技能」にはならない。
教育はとても難しいことだとは思う。しかし、その難しいことを乗り越えて、将来有望な人財を育成していかなければ、製造業に限らず日本全体が沈没してしまう。だから、企業側も人財を育てるためには、「学校で何を教えてほしいか」という話を伝えに行くべきではないだろうか。
大企業にばかり目が向いているのは、親だけでなく先生だってそう。われわれは、もっと学校に売り込みに行かなきゃ!
Profile
伊藤 昌良(いとう まさよし)
1970年生まれ。2004年に株式会社エムエスパートナーズを創業。加工部品専門の技術商社として、アルミ押し出し形材をはじめ切削加工部品やダイカスト製品などを取り扱う。「役割を果たす技術商社」を理念に掲げ、組み立てや簡易加工を社内に取り込みながら、協力会社と共に一歩前へ踏み出す営業活動を行っている。異業種グループ「心技隊」事務局長。「全日本製造業コマ大戦」の運営でも事務局を努め、製造業界に必要とされる活動を本業の傍ら日々取り組んでいる。
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