パナソニックが切り開く車載ニッケル水素電池の新市場:ハイブリッド車向けだけじゃない(3/3 ページ)
ハイブリッド車(HEV)などに搭載される車載ニッケル水素電池で世界をリードするパナソニック。同社は、車載ニッケル水素電池の新たな用途を開拓すべく、急激に市場が拡大しているアイドルストップシステムをターゲットにした製品を開発した。
高温対応で寿命も伸びる
12V エネルギー回生システムでは、70℃という高温下でも十分な効率で充放電を行えるように改良されたニッケル水素電池を用いている。従来のHEV向けに供給しているニッケル水素電池は60℃が上限だった。川瀬氏は、「高温になると、充電反応よりも、水の電気分解が起こりやすくなってしまう。しかし、電解液に新開発の添加材を加えることで、70℃でも十分な効率で充電反応が起こるようにした」と説明する。
さらにこの添加材によって従来よりも寿命を延ばせることも判明した。ニッケル水素電池の劣化は、負極の水素吸蔵合金の酸化によって起こる。高温対応のために加えた添加材は、水素吸蔵合金の酸化の原因になる酸素を生み出す電気分解を抑制する。このため、充放電を繰り返しても容量や出力が低下しにくくなるのだという。
高温に強く、寿命も延びたことで、HEV向けのニッケル水素電池を、12V エネルギー回生システム向けに開発したものに置き換えたいという引き合いも入っている。
価格は5万円以下に
川瀬氏は、「価格面でも、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタよりも優位性がある」と訴える。まず、鉛バッテリーの使用期間を大幅に延ばせるため、鉛バッテリーの交換費用などのランニングコストを低減できる。アイドルストップシステム用鉛バッテリーの価格は2〜3万円と言われており、従来はこれを2〜3年ごとに置き換える必要があった。
次に、HEV向けと12V エネルギー回生システム向けとも、単一形の電池セルしか使用していないことだ。車載用のリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタは、標準規格がなく、その形状は電池メーカーやユーザーによって異なる。パナソニックは、単一形の電池セルに絞り込むことで、量産効果によるコスト低減を最大化させたい考えだ。
さらに新開発のニッケル水素電池は、負極の水素吸蔵合金に使用していた金属材料を、より低価格のものに変更するなど、原材料コストも低減している。なお、電解液に加える添加材や、負極の水素吸蔵合金の材料変更によって、性能低下などの問題は起きていないという。
電池セル10個を直列接続した電池モジュール、センサー、コントローラ、筐(きょう)体から構成される12V エネルギー回生システムの価格は、「数万円レベル。1〜10万円のどのあたりかと聞かれれば前半」(川瀬氏)ということで5万円以下を想定。システム重量も4〜5kg程度にとどまる見通しだ。
既に国内メーカーを中心に商談を進めており、早ければ2014年初頭にも搭載車両が発売される見込みだ。
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