検索
連載

第16回 CAD/CAM業界標準フォーマット前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)

実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第16回は、プリント基板を設計するのに必須となったCADツールと、その標準データフォーマット策定の取り組みについて解説する。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

3. EDIFフォーマット

 このような、構想は1983年から考えられ、アメリカのCADベンダやユーザー、大学を巻き込んで、1985年にEDIF(Electronic Design Interchange Format) 100と呼ばれる仕様が完成しました。EDIF 100はCADといっても回路設計用CAD(デザインキャプチャ)の共通フォーマットで、いわゆるネットリストの標準化が主でした。

 この後、1988年にEDIF 200(Version 2.0.0)が発表され、ANSI/EIA-548-1988として標準仕様として認定されました。これは回路図や回路図に使われる部品ライブラリまでを対象として、ネットリストと回路図レベルでのCAD間のデータ移行が出来るようになっています。

 その後1993年にEDIF 300(Version 3.0.0)が公表され、ANSI/EIA-618となりました。この標準フォーマットとしてのEDIFを基板レイアウトCADにも拡張したEDIF 400が1996年にリリースされました。

 回路図キャプチャのデータに比べ、基板設計CADの持つデータは桁違いに多く、EDIF 400(Version 4.0.0)のデータ量は非常に大きなものとなりました。

 また、1990年頃から基板技術は表面実装部品やビルドアップ基板など急速な技術革新が行われました。回路図では、表面実装など実装技術の変化は関係なく同じ回路図が使用できます(図6)。

photo
図6 実装技術は異なっても回路図は同じ

 このため、回路図記述の標準化として規格作りをしてきたプロセスでは、基板設計CADの変化に対応できず、新しい実装技術の情報がEDIF 400では対応できませんでした。

 EDIF 400はANSI規格にもならず、基板設計CAD用の標準フォーマットとしてはあまり使われませんでした。

4. 標準フォーマットの問題

 業界標準フォーマットは一見、CADのデータ互換性を取る上で非常に良い方法に思えます。しかしEDIF 400を通して、業界標準フォーマットの問題点もはっきりしてきました。

 CADユーザーにとっては標準フォーマットを介して、CAD間のデータ移行ができるというのはCAD運用上大きなメリットがあります。

 しかし、CADベンダにとっては異なる機種のCAD間のデータ移行は大きなビジネスチャンスであると同時にビジネスピンチでもあります。

 基板設計はすべてが新規の設計ではなく、設計変更、一部の改良が大部分を占めています。また、新規の設計でも、電源や、業界標準インタフェースの設計などは、過去の設計を流用して設計を行うのが普通です(図7)。

photo
図7 多くの設計は過去の設計データを利用する

 過去の設計データは大きな設計資産なのです。

 CADユーザーにとって、新しく高機能で価格も安い新しいCADが市場に出ても、過去の設計資産を引き継げなければ、高くて古いCADでも使い続けなければなりません。

 もし、過去の設計資産が簡単に、完全に新しいCADに移行できるであれば、CADの機種変更のハードルは大きく下がります。標準フォーマットを使って、必要なCADデータがすべて移行されてしまうと、既存のCADベンダは自社のCADシェアが他のCADに奪われる恐れがあります。このため、最低限のデータだけを標準フォーマットに出力して、できるだけ機種変更につながるような詳細データを保護しようとします。逆に他社のCADから出力されたデータはできるだけ取り込んで他社のCADユーザーに自社のCADを売り込もうとします(図8)。標準フォーマット作成にはCADベンダの参加は不可欠なため、標準フォーマット作成にはCADベンダからも多くが参加します。CADベンダはお互いに同じ思惑で動いているため、EDIFをはじめとし、多くのCAD標準フォーマットは階層化されたフォーマットに落ち着きます。

photo
図8 少なく出力し多く入力する

 最低限必須のデータは最上位のレベルで、すべてのCADがサポートしなければなりませんが、これはガーバデータのような絵としての作画データレベルになってしまいます。

 その下にオプション扱いで、徐々に詳細なデータがいくつかの階層に分かれて定義されます。

 多くのCADベンダはデータ出力は最低限のレベルしか出力せず、入力ソフトは詳細まで入力する機能をサポートします。

 こうすることによって、自社のCADからは充分なデータは他社のCADには移行できず、他社のCADデータは充分なレベルまで自社CADに読み込もうとします。

 結果としては、せっかく定義した詳しい標準フォーマットも、実運用では最小限のデータ移行しかできない現象が発生します。

 標準フォーマットのもう一つの問題は標準化の速度が遅いという問題があります。

 EDIF 400でも問題になりましたが、日進月歩の実装技術の変化に対して、CADシステムは新しい設計をフォローするためにバージョンを挙げ、データを変化させます。

 しかし、CADベンダがすべて同じ時期にバージョンアップをして新しい実装技術をフォローするわけではありません。

 バージョンアップが間に合わない場合には古いソフトの運用を考えて設計をします。

 多くのCADベンダとユーザーが共同して制定する標準フォーマットでは少なくても大部分のCADベンダが新しい技術にあわせた機能をサポートしCAD内部のデータ構造が決まらない限り標準フォーマット化することは困難です。

 このため、常に標準フォーマットは新しい機能のサポートが大幅に遅くなってしまいます(図9)。

photo
図9 最先端技術の標準化は行われない

5. デファクトスタンダード

 標準フォーマットにはEDIFのように業界の人間が集まって委員会を作り策定したものもありますが、それ以外の標準規格もあります。

 これは、デファクトスタンダード(de facto standard)と呼ばれる標準規格です。例えばガーバー(Gerber)フォーマットと呼ばれる作画データフォーマット(図10)はデファクトスタンダードとなっています。

photo
図10 Gerber作画データ

筆者紹介

photo
photo

前田 真一(マエダ シンイチ)

KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。

近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る