3Dプリンタだけのモノづくりは、電子レンジだけで料理するようなもの:ファブ(Fab)とは何なのか(3/3 ページ)
Makerムーブメントの原点として高く評価され、再刊が望まれていた「ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け」が、「Fab―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ」として再刊された。本書を監修したFabLab鎌倉の田中浩也氏にインタビュー。「3次元プリンタは電子レンジと似ている」ってどういうこと?
鉄工所、アキバ系、ドイト系、ユザワヤ系――技術ジャンルの境界を越える
田中 もともと「Make:」のようなDIYについては、電子工作を中心にした「アキバ系」、木工を中心にした「ドイト系」、手芸を中心にした「ユザワヤ系」がいて、さらにプロとしての機械加工や溶接などの「鉄工所系」と、幾つかのコミュニティーがあったわけです。それぞれの間にはちょっと断絶があったかもしれない。けれど、今一番面白いのは、「作る」という共通点を軸にして、もう一度それらが混ざり合わさってくることだと思うんです。そして交流から混淆(こんこう)へと展開している。大工さんが電子工作を学び、手芸の人も電子工作を学び、電子工作の人が木を削ってみるような化学反応が起こっているんです。
田中 FabLab鎌倉にある工作機械でいうと、ミシン、3次元プリンタ、ペーパーカッターは、安全基準だけでいえば“文房具感覚”で使える(使いこなせるかどうかは別ですけど)。排気が出るレーザーカッターも、使う分には、まあ、文房具感覚と言ってもいいかもしれない。ミリングマシン、切削機械はちょっとテクが必要、手軽に手を出せるとはいいづらいですよね。モデリングする時点から「どう削るか」を考えなければいけないし、データ通りに削るのでも、場所によって何度か歯を変えなければいけないなど、プロのノウハウがある。機械加工、旋盤、ボール盤や溶接を伴う機械はさすがにプロの世界ですね。
田中 そのあたりは実際、難易度の差はあるし、全部がプロを駆逐するわけではもちろんないのです。ただ、プロとアマが“なだらかに”つながって交流している状態は実現したいと思うんです。町工場で金型を作っているような人がFabLabに現れて、「これは3次元プリンタじゃ作れないだろう?」みたいな文化を供給してくれるのはとてもいいことだと思うんです。一方、コンピュータでシミュレーションしたものが樹脂で出力された複雑な形態を見て驚いたり……。「Fab」では「加算的技法」「減算的技法」として、3次元プリンタと切削加工、それぞれの技術に対して長所と短所が触れられています。また、どちらが正解というものではないですよね。ある分野のプロは他の分野のアマなわけで。町工場で金型を作ってきて、モノと対話してきたMakerと、インターネットやコンピュータの延長線上でモノを作り出したMakerたちが、出合い始めてきたわけです。
モノづくりがITと出会ったことで製造業の文脈から「第3次産業革命」といわれていますが、むしろITがモノづくりと出会ったことで「第2次情報革命(物質性を伴った情報の時代)」かもしれないんですよ。どっちが正解、というわけではないので、そこはものすごく面白い。こういう衝突をイノベーションに変えていくことが大切だと思うんです。
最近「モノづくりの国、日本!」みたいな取り上げられ方がメディアで多く見られて、作ることについてやっぱりまだ「聖域」みたいな捉えられ方をされがちです。しかし新しい工作機械によって、デジタルの軽やかな世界がアトムの世界に進出してきたという部分もあるし、それは大切にしたいな、と。
ひょっとしたら新しい工作機械には、主婦の方や子どもの方がうまく適応できるのかもしれません。実際FabLab鎌倉には主婦の方が多く来ていて、レーザーカッターで表札を作って帰ったりしています。僕が教えているSFCではアニメのキャラクターの顔をしたお弁当、いわゆる「キャラ弁」の研究をしている学生がいます。毎朝キャラ弁を作る主婦はたくさんいるんですよ。毎日、Facebookにキャラ弁の写真をアップすると「いいね!」がもらえるので、もはや子どものためを超えて“お母さん自身の”自己実現としてキャラ弁を作っている。もしこの人たち自身で、3次元プリンタでキャラ弁の道具……、例えば自由な形のフォークとかが作れるようになったら、すごく喜ぶのではないかと思います。
これまでの社会になかった新しいものが登場すると、その可能性を探索するためには、「時間とモチベーションがある人たち」そして「先入観のない人たち」が活躍していくわけです。それは社会の中心にいるビジネスマンではなくて、学生や主婦とか子どもかもしれないと思うんです。
先日もツイートしましたが、3次元プリンタは電子レンジと似ています。たくさんの調理器具のうちの1つであり、それ1つで全ての料理ができるわけではもちろんありません。ただ、ある種の大きな変化ではありました。大体30年ぐらい前に、電子レンジが家庭に入り始めたとき、「お弁当を買ってきて家で暖める」というライフスタイルが生まれました。3次元プリンタによって、それぐらいの変化は起きるんじゃないかなと。
田中 要は、3次元プリンタの普及で、「家の中の幾つかのものは、ネットからデータをダウンロードして作る」ことが当たり前になるのかもしれない。3次元プリンタは、旋盤や切削を伴うこれまでの工作機械に比べて、排気も削りカスも出ないので、圧倒的に手軽です。お弁当を暖めるのと、材料をバラバラに買ってきて本格的に調理するぐらいの違いがありますが、広く普及することで社会の何かを変えるかもしれません。だから「FabLife」では、こうした技術は「触媒」だと書いています。
2013年は、世界のFabLabが日本に集まる
高須 このインタビューを読んで「FabLab鎌倉を訪れてみよう」、あるいは「Fab」を読んで「何か作り始めてみよう」という方々に向けて、何かお知らせはありますか?
田中 FabLab鎌倉ではスクールを始める予定です。町の音楽教室みたいに、モノづくりの方法を教えます。プログラミングの教育とかに比べて、具体的に目の前にモノがあるほうが、子どもも興味を持ちやすいと思っています。鎌倉近辺にいる人は、ぜひ参加してもらいたいですね。詳細はFabLab鎌倉のWebサイトに載る予定です。
また2013年の8月に「Fab9(世界FabLab代表者会議)」が日本で開催されます。世界中からFabLabのメンバーが集まって、成果の発表をしたり、運営の相談をしたり、一緒にものを作ったりする集会です。会場は鎌倉・横須賀近辺を考えています。
高須 それは面白そうですね! FabLabメンバー以外も参加できるんですか?
田中 1週間全てではないのですが、8月26日に一般の誰でも応募参加できるシンポジウムとオープンラボを用意しています。また8月27日の夕方からは、FabLab対抗モノづくり選手権「World fab cup」というのを予定しています。これはワールドカップみたいなものなので、当然、参加している選手だけではなく、観客も見られるようにしたいんです。2012年にニュージーランドで開催された「World fab cup」は、「Flying Gadget」がテーマで、世界中から飛ぶ工作物が集まったんですよ! ……とはいえ、まだほとんど白紙の段階なんですが(笑)、ぜひ、Fab9を楽しみにしていてください。
高須 とても楽しみですね。本日はありがとうございました。
Profile
高須正和(たかす まさかず)
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β幹事。趣味モノづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
筆者からのお知らせ
2013年4月27〜28日、幕張メッセで第4回のニコニコ学会βシンポジウムを開催します。今回は、全国のモノづくり工房が連続して発表する「Fab100連発(仮)」という企画を予定しています。既に、一般参加の発表枠「研究してみたマッドネス」の自薦/他薦を受け付けています。請うご期待!
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オンラインイベント「ITmedia Virtual EXPO」で、「日本流MAKERS」をテーマにケイズデザインラボ 原氏とビーサイズ 八木氏が対談! 日本のデジタルモノづくりのリーダー的存在の本音語り、必見です。
会期:2013年2月19日(火)〜3月8日(金)
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