第12回 LSI消費電力情報の利用:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(3/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第12回は、第10回と第11回で取り上げたLSIの消費電力に関する情報を、電子回路の設計でどのように利用するかについて説明する。
6. SSOノイズ、ジッタ
信号が高速になり、ICの消費電力が大きくなるに従い、PIやPDNと呼ばれる電源解析の必要性が大きくなってきます。
PIは(Power Integrity)の略で、伝送線路で信号波形がどのように変化するかを解析するSI(Signal Integrity)に対応する言葉です。PIでは信号の同時スイッチングノイズ(SSOノイズ=SSN)などによる電源変動が信号に及ぼす変化を解析します。
電源変動を解析するためには電源の供給回路の検討が必要です。この電源供給回路をPDN(Power Distribution Network)と呼びます(図7)。
信号の同時スイッチングで発生するノイズは信号の立ち上がり、立ち下がりでの信号電圧変化速度(スルーレート=Slew Rate)に関係します。信号が高速になると、信号のスルーレートが速くなり、電源供給回路(PDN)を通して供給されるIC電源電流よりもSSOによるIC電源の電流変化の方が早いため、SSOノイズが発生します(図8)。
このため、IC電源付近にバイパスコンデンサを追加し、瞬時の電源電流変化に対応させます。しかし、信号のスルーレートがさらに速く、100MHz以上の速度になると、ICパッケージ内の基板(インタポーザ)配線の影響で、基板上のパスコンは対応できません。このため、ICパッケージ上にバイパスコンデンサを配置します。
しかし、信号のスルーレートがさらに速くなり、信号速度が数百MHz以上になると、ボンディングワイヤなどインタポーザからICチップへの接続の影響でパッケージ上のバイパスコンデンサでも効果がなくなります。このため、ICチップ上にトランジスタなどと同じようにコンデンサを形成します。これをオン・チップ・コンデンサ(オン・ダイ・コンデンサ)とよびます。PDNではこれらの要素をすべて回路として定義します(図9)。
このような信号の同時スイッチングノイズの解析にはICの消費電流の変化としては数十MHzから数GHzの情報が必要です。
7. ICの消費電流モデル
これまで、ICの消費電流変化情報は、パッケージやシステムの熱設計、電源設計、PI解析に求められていると紹介しました。しかし、求める内容を調べると、おのおのが求めるものがまったく違うことがわかりました。熱設計では非常に長い周期でのICの消費電力が必要で、KHz、MHz、GHzなどの高速データは必要ありません。電源設計では、せいぜい100KHzまでの情報が必要で、MHz、GHzなどの情報は必要ありません。
しかし、PI解析では、100KHz以上、数GHz以上の帯域までが必要となります(図10)。ICの消費電力といっても、ASICなどでは多くの電圧の電源を使っています(図11)。熱設計では、すべての電源の合計の電流量が必要です。電源設計では電源電圧ごとの電流が必要となります。ノイズ解析では、解析対象となる信号の電源に対する電流変動が必要となります。
単純にICの消費電力データが必要だといっても、ICの動作モード、瞬間最大消費電力なのか、平均的最大消費電力なのか、どの電圧なのか、求める情報の周波数帯域、など、目的が何で、どのようなデータが必要なのかを明確にしておく必要があります。求めるものが違えば、ICの消費電力や電流モデルを生成する手法も異なってきます。目的に応じて最適な手法を考える必要があります。
PIやICの消費電流についての議論は、始まってからまだ間がないので、流行語にはなっていますが、正しい理解がないままに使われる場合が多くあります。
今後、このような混乱が収まり、ICの消費電力についての精度の高い情報や解析ツールが広まってきることを期待しています。
筆者紹介
前田 真一(マエダ シンイチ)
KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。
近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)
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