第12回 LSI消費電力情報の利用:前田真一の最新実装技術あれこれ塾(1/3 ページ)
実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第12回は、第10回と第11回で取り上げたLSIの消費電力に関する情報を、電子回路の設計でどのように利用するかについて説明する。
本連載は「エレクトロニクス実装技術」2012年3月号の記事を転載しています。
1. LSIの消費電力把握
現在、その必要性が高まり、手法の提案などもされていますが、システムICでは消費電力の正確な把握はまだ困難な状態にあります。
システムIC(システムLSI)はシステムに合わせて設計、製造するために、CPUやメモリなどの汎用ICよりも短い開発期間が要求されます。特に消費電力測定のためのテストベンチ的なソフトを開発したり、測定用治具を作成したりする時間とコストの余裕がない場合も多くあります。また、システムICでは、多くのIPブロックを組み合わせて設計しますが、普通、IPは設計データや論理解析用モデルデータ、最大消費電力データなどはそろっているものの、詳細な内部情報は各社のIP(知的所有権)となり、情報開示はされません。
一般にシステムICの動作は、すべてのIPブロックが100%の稼働率で同時に動作することはありません。各IPの最大消費電力を単純に加算した場合、ASICの消費電力は膨大なものとなり、このままシステムの設計を行えば、過剰設計になってしまいます。誰もがその必要性は分かっているのですが、実現には多くのコスト(解析時間)がかかり、その情報をうまく使いこなすだけのインフラがない状況です。
2. LSIの温度把握
CPUやASICなど消費電力が大きく、発熱が大きなLSIでは、ICの回路内部に温度センサを組み込み、温度を監視しています。
ダイオード(トランジスタ)に流れる電流は大きな温度依存性をもっています(図1)。このため、ICにダイオード(トランジスタ)を組み込んでおき、外部から、このダイオードに流れる電流値を測ることによりICチップ本体の温度が測れます(図2)。
この温度により、冷却用ファンの動作をコントロールしたり、CPUチップの電源電圧やクロック速度をコントロールしたりして、CPUの稼働を制御することにより、CPUチップの発熱量そのものをコントロールします。
放熱用ファンはもちろん、ヒートシンクの大きさにも大きな制約がある携帯機器では、CPUの稼働率のコントロールがよく使われます。
3. 熱解析の位置付け
熱解析の目的は、与えられた条件の中で最小のコストでICを最大のパフォーマンスで動作させることにあります。良い熱設計が行われず、熱のため常にICが稼働率の低い状態での動作しかできない機器では、高性能なICを使う意味がありません。このような機器では、最高性能は多少、劣っても発熱量が少ないICを使った方が高性能なICを使うよりセットのパフォーマンスが高くなります(図3)。
当然、熱設計が適切で、高性能なICが充分な速度で稼働できる機器であれば、ICの能力に見合ったパフォーマンスが得られます。熱設計は機器のパフォーマンスを決定するのです。特に携帯電子機器ではバッテリーの持続時間、機器の大きさ、コストが大きく熱設計に関わってきます。
このような機器では、ICの各動作モードによる消費電力の変化と稼働率を加味しながら、ダイナミックな熱解析を行う必要があります。ICは常に同じ熱量を発生しているわけではなく、動作モードや扱うデータにより、常に消費電力は変化しています。熱設計は常に最大稼働での発熱量に対応するのではなく、どの程度のパフォーマンスまでの対応をするのかを見極めて最適設計をする必要があります。このような精度の高い設計を行うには、熱シミュレーションのためにICの精度の高い消費電流モデルが必要となります。
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