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大田区のみんな、ボブスレーの時間だ! Cool Runnings!「JIMTOF 2012」に行ってきた(1/3 ページ)

JIMTOF 2012会場では、大田区内の中小企業たちの技術を集結させて作った「下町ボブスレー」のプロジェクトメンバーや、かつてのオリンピックで金・銀・銅メダルを取った選手たちが使用した砲丸を製作した辻谷製作所 辻谷社長のトークセッションが実施された。JIMTOF 2012の出展企業の一部も紹介する。

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 2012年11月1〜6日の期間、東京ビッグサイトで「第26回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2012)」が開催された。今回の総来場者数は12万8674人(うち海外は、8344人)とJIMTOF公式ページで発表された。

 同展示会は2年に1回開催され、タイトルどおり、工作機械をメインとする、さまざまな関連装置やソフトウェアを東京ビッグサイト全体の貸し切りで展示する。周辺の沿線や最寄り駅から同展示会がらみの広告が目立ち、まさに「製造業きっての一大イベント」といった盛り上がりだ。

 本稿は、展示会の目玉イベントの1つだった企画展示のトークショウについて前半で、出展ブースの一部の様子を後半でお伝えする。

“スポーツがらみ”の企画展示

 今回の同展示会では、企画展示(トークショウ)のうち2つに注目した。まず、東京都大田区の中小企業・地方自治体・学校の連合チーム「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクト推進委員会(以下、「下町ボブスレープロジェクト」)メンバーによるもの。もう1つは、長年にわたりオリンピック日本代表が使用する砲丸を製作してきた辻谷工業の辻谷政久社長だ。

 このイベントは会期中の毎日、決められた時間に開催(1日1〜2回)した。多数のメンバーがいる下町ボブスレープロジェクトについては、登壇メンバーを回ごとで変えながら講演した。

下町ボブスレー

 「氷上のF1」ともいわれるボブスレー競技では、0.1秒単位でソリの滑走タイムを競う。その機体には、CFRP(繊維強化プラスチック)成形や精密切削などレースカーと共通した技術も見られ、厳しい開発競争が繰り広げられている。

ボブスレーとは

「前方にハンドル、後方にブレーキを備えた鋼鉄のソリのことで、交通機関や木材の運搬用として用いられていたソリを競技用に改良したものです」

JOC(日本オリンピック委員会)のページより引用



 下町ボブスレープロジェクトは、日本の技術の粋を集結させ最高のボブスレーを日本代表に提供しようと、日々機体の開発と試作に勤しんできた。目標は、2014年にソチ(ロシア)で開催する冬季オリンピックだ。今回の展示は、公の場での「試作1号機」初披露となった。CFRPで出来た流線形のカウル形状の空力性能を、流体解析ソフトウェアを用いて検証した。いよいよ機体が完成し、これからテスト走行を重ねていく。ここからがプロジェクトの本番だ。


下町ボブスレーの試作1号機

 同プロジェクト委員長であるマテリアル 代表取締役 細貝淳一氏は、「女子ボブスレーの選手の方が『(下町ボブスレーについて取り上げた)記事を見た』といって、この会場にかけつけてくれて、いろいろなアイデアやアドバイスをいただきました」と述べた。ソリ自体の機能向上と併せ、ソリに乗る選手たちとのコミュニケーションも図っていくということだ。

 フェラーリ、BMWといった大手海外自動車メーカーやアメリカ航空宇宙局(NASA)など、強力な開発パートナーを持つ海外競合チームが勢ぞろいする中、映画『クール・ランニング』さながらに活躍してほしいもの。

 ボブスレー日本代表は、MONOistの記事でも紹介したように、機体に費用を掛けられず、2008年の北京オリンピックではドイツ代表が使用していた中古品を買い取って改良していた。後に、2009年の政府の事業仕分け(スポーツ選手の育成費用などの削減)があり、さらに厳しい状態へと追いこまれた。そこで、機体の提供を名乗り出たのが、下町ボブスレープロジェクトだった。


「下町ボブスレー」ネットワークプロジェクト推進委員会メンバー:(左から)マテリアル 細貝淳一氏(同プロジェクト委員長)、クライム・ワークス 代表取締役社長 山口誠二氏(ハンドルの加工を担当)、加藤研磨製作所 代表取締役社長 加藤義弘氏(シャシー部品の研磨加工を担当)

 国内の半導体や液晶パネルなどの生産は多くが海外へ流れて行ってしまった。同氏は、自社や大田区内の企業がターゲットとする次世代のマーケットを模索しているうちに、「大田区内の企業で、航空機関連の部品製作に携われないか」と考えた。その折に、大田区産業振興協会の小杉聡史氏から下町ボブスレープロジェクト参画の誘いを受けた。ボブスレー機体はCFRPと金属部品を融合させる技術が使われ、まさに航空機も同様だ。細貝氏は、小杉氏の誘いに二つ返事で「イエス」と回答したという。クライム・ワークス 代表取締役社長 山口誠二氏と加藤研磨製作所 代表取締役社長 加藤義弘氏については、細貝氏から「手伝ってほしい」と声が掛かったことがきっかけとなり、「大田区の企業を元気にしたい」という思いから参画しようと決めたという。

 このプロジェクトに関わった多くの企業は普段、顧客から依頼されて、最終製品の中に隠れて目立たない部品を製作している。それが同プロジェクトでは、自分たちが一から製品を企画して作り上げる。しかもそれは、隠れてはいない。やがてそれが、オリンピックという非常に多くの人たちが注目する晴れ舞台で活躍するかもしれない――そういったことは、自社の社員にとって純粋に「喜び」だろうし、それが業務のモチベーションを高めることにもつながる。またそうした活動が、日本の若者たちのモノづくりへの興味喚起にもなるだろう。メンバーたちはそう考える。

 こうしたプロジェクトは、地域の企業間の連携を活性化することへもつながる。「いま一番大事なのは、よい機械をよく見極めて導入しながら、新しい技術をどんどん向上させていくことと、企業間の縦連携・横連携をしっかり行うビジネスモデルを作り上げること」と細貝氏は話した。例えば顧客から来た仕事で自社では対応できない場合、横連携している企業に協力を仰ぐ、仕事を流すなどして対応する。そうして、顧客から来た仕事は、全て受けていきたいということだ。それをかなえるには、仕事を依頼する大手企業もまた、元気にならなければいけない。

辻谷工業の砲丸作り


辻谷工業 代表取締役 辻谷政久氏

 かつてアトランタ(1996年)、シドニー(2000年)、アテネ(2004年)の男子砲丸投げ競技で金・銀・銅メダルを取った選手たちが使用したのが、スポーツ器具の加工を手掛ける辻谷工業が製作した砲丸だった。国際陸上競技連盟(IAAF)の国際規格では、一定の重量の鋼球を製作することが求められる。辻谷工業製の砲丸はその規格を満たすだけではなく、重心も球のぴったり中心になっている。それは、「よく飛ぶ」砲丸にするための大事な要件だ。

 しかも同社は、それを汎用(手動)旋盤と手加工のみで作り出す。CNC旋盤だけでは、ここまでの精度を出すには限界があるということだ。

「いまは、“指1本でポンッと品物ができる”ような機械が多いです。『お前たち、コンピュータに使われるよ。本当のモノづくりというのは、自分の手と身体で作るものだ』――そう(若手に)教育しています。『(汎用旋盤で仕事をずっとしてきて)俺は、いままで一体何をやっていたんだ。もう今年いっぱいで仕事辞めよう』と思っていたという人が、私の話を聞いて『まだまだ汎用旋盤で世界一の物を作る人がいる。来年からまた頑張ります』と言ってくれました。そういう人に何人もお会いできました。それが今回のJIMTOF開催の成果だと私は思っています」(辻谷氏)。

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