インテリジェント・システムにおける組み込み機器の在り方とビジネス機会:ET2012 招待講演レポート
インテルは「Embedded Technology 2012/組込み総合技術展」の招待講演において、「インテリジェント・システムへの転換」をテーマに、これからの組み込み機器が担う役割と新たなビジネスチャンスについて、その考えを示した。
インテルは、2012年11月14日に開幕した「Embedded Technology 2012/組込み総合技術展(以下、ET2012)」の招待講演において、インテリジェント・システム時代における、これからの組み込みデバイスの在り方について、最新事例や新たな取り組みなどの紹介を交えながら、その考えを示した。同講演において「インテリジェント・システムへの転換」というテーマで登壇したのは、インテル コーポレーション インテリジェント・システム事業部 セグメント&ブロード・マーケット事業本部長のジム・ロビンソン氏である。
ネットワーク機能を備えた“コネクテッド・デバイス”の増加により、PCやサーバ機器、スマートフォンやタブレット端末だけではなく、これまで単体でしか機能していなかった組み込みデバイスまでもがインテリジェント化し、当たり前のようにインターネットやクラウドに接続されるようになってきている。“モノのインターネット(Internet of Things)”と呼ばれるこうした状況において、「これまで人が作り出してきたデータ量以上に、機器自身が生み出すデータ、機器同士が相互に連携(M2M:Machine-to-Machine)して作り出されるデータが爆発的に増えている。これらをどのように活用するか、そして、そのためにどのようにデータを解析するかが課題であり、同時に、これが大きなビジネスチャンスだといえる」(同氏)という。
インテルは、こうした無数のデータを収集・解析し、そこから新しい価値や市場、ビジネスチャンスを創造するための仕組みを「インテリジェント・システム」と呼んでいる。
米調査会社のIDCは、2015年におよそ150億台もの機器がネットワークに接続されるようになり、2020年になると35兆Gバイトもの膨大なデータがネットワーク上でやりとりされるようになると予測している。その中で、インテリジェント・システムに含まれる32ビット以上のプロセッシング性能を持つデバイス(PC、スマートフォン/タブレット端末を含む)の数は40億台に上るとし、組み込みデバイスにおいては10億台が見込まれるという。「10億台の組み込みデバイス、そして、その上で動作するソフトウェア、サービス、そして、データ解析、それぞれで大きなビジネスチャンスがある」(同氏)。
そこで、インテルは、インテリジェント・システムを構築するためのフレームワーク「Intel Intelligent Systems Framework 1.0」を、9月に開催したIntel Developer Forum 2012(IDF2012)で発表した。
このフレームワークは「相互接続性をサポートした一連のソリューションにより、インテリジェント・システムを実現するために必要なデバイスの接続、管理、セキュリティを、一貫性と拡張性のある形で提供するための枠組みである」(同氏)という。インテルは、このフレームワークを活用しながら、エコパートナーとの協業を進めることで、さまざまなセグメントにインテリジェント・システムを広めていきたい考えだ。
講演では、リテール分野向けの実装例として、実際に米国で導入されている「インタラクティブ試供マシン」を披露した。第3世代Core vProプロセッサを搭載したボックス型の筐体側面部分(前と左・右の3箇所)に大型のディスプレイを備え、各ディスプレイの上部にはイメージセンサー(マイクロソフトの「Kinect for Windows」センサー)を内蔵している。利用者(1画面1人の最大3人)は、Kinect for Windowsセンサーを利用したジェスチャーによるゲームを楽しむことができ、ハイスコアを出すとお菓子(チョコレート)の試供品がマシンから出てくる。
マシンには、利用者の属性などを自動解析するソフトウェアが組み込まれており、年齢や性別、平均滞在時間、1時間当たりにゲームをプレイした人の人数を蓄積。管理画面から収集したデータを閲覧できる。「マーケティング上、非常に有用なデータが自動的に蓄積される。これにより、マーケティングキャンペーンなどの効果測定が容易に行える」(同社デモ説明員)。さらに、vProテクノロジーにより、遠隔地からの診断・修復を実現している。通常、機器の定期メンテナンスなどのためにサービス担当者が設置場所に派遣されるが、同マシンの場合はそれが不要となり、「コストと時間の大幅な削減が期待できる」(同社デモ説明員)という。
さらに、インテルは、自動車分野向けの取り組みとして、講演同日(11月14日)、ゼンリンとの協業を明らかにした。両社は、HTML5を使用することで、PCやスマートフォン、タブレット端末、車載情報機器などのマルチプラットフォームに対応し、インターネット上で刻々と変化するデータをマップ情報に統合して表示できる次世代の
地図アプリケーションの開発を進めることで合意した。
ET2012では、HTML5を用いたWeb技術を得意とするニューフォリアの協力の下、車載用のコンセプトデモシステムを試作した。HTML5のWebSocketによりマルチプラットフォーム間での通信を実現し、双方向でのデータのやりとりなど可能にしているという。マップ上に展開する付加情報は、さまざまなWebサービス(ホットペッパーやガソリン価格比較サイトgogo.gsなど)が提供するAPIを活用することで実現する。例えば、スマートフォンでレストランの検索をかけて、候補となった店舗の場所などを車載情報機器側で表示したり、店舗で使えるクーポンをスマートフォン側に転送したり、あるいは、近くのガソリンスタンドのガソリン価格を取得して表示したりということが可能になる。このように、HTML5の特性を生かし、マルチプラットフォームでの先進的な地図サービスの開発を目指すとしている。
また、FA分野における事例として、製造装置の故障・問題発生予測を実現するデモも披露された。通常、工場内などで使用されている製造装置などのメンテナンス時期は、過去の履歴を基に次の予定が決められているため、もしも、予期せぬ時期(メンテナンス予定時期より前)に故障や問題が発生した場合、長時間ラインを停止せざるを得なくなる可能性がある。
今回披露されたデモシステムは、装置そのものの状態をリアルタイムで収集し、故障や問題をあらかじめ予測することができるというもの。講演会場では、ロボットアームの位置ずれを予測検知し、警報を鳴らすデモを実演した。
講演のまとめとして、同氏は、「インテリジェント・システムがもたらす変化により、非常に大きなビジネスチャンスが生まれてくる。そして、それはただ単にお金もうけするということだけではなく、地球上の人々の暮らしや生活を変え、豊かにすることができる可能性も秘めている。こうした流れを的確に捉え、支援していくのがインテルのミッションである」と述べた。
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