どこがダメなのか、日本のエネルギー:小寺信良のEnergy Future(22)(2/5 ページ)
太陽光発電や風力発電を電力源として大きく成長させるにはどうすればよいのか。1つの解が「固定価格買い取り制度(FIT)」だ。FITが他の制度よりも効果的なことは、海外の導入例から実証済みだが、問題もある。その問題とは電気料金が2倍になることだろうか、それとも……。「小寺信良のEnergy Future」、今回はFITにまつわる誤解を解き、FIT以外にも日本のエネルギー政策に大きな穴があることを紹介する。
無駄に高い日本のFITの無理無体
エネルギー政策は、経済政策と表裏一体であり、数十年単位の大きなタームで状況を観察し、そのデータを基に軌道修正していかなければならない類いのものである。FITも本来の目的は、キックスタートが難しい再生可能エネルギー事業に弾みを付けるとともに、行き過ぎたらすぐに手綱を引き締め、最終的には自由競争市場に着地させるための制度である。
ドイツをはじめとするEU諸国でFITに一定の成果が認められた理由は何だろうか。梶山氏によれば、80年代後半からEUの基本方針として、発送電分離を進めてきたためだという。電力網の系統を強化することも有効だった。こうして再生可能エネルギーの競争力が高まっていくと、FITが不要になり、自由市場に移っていく。
FITがうまく働くには、発電側をうまく誘導できなければならない。発電規模に応じた細かい価格調整も必須だ。発電事業は大型化すればするほどkWh当たりのコストが下がるので、単一の買い取り価格だと大型案件しか生き残らなくなるからである。太陽光や風力など自然を相手にする発電では、常時運転などは望めない。それを考えれば、大規模施設への一点集中などあり得ない。
さらに発電効率や、大量生産による部材の価格下落が常に起こっており、発電コストはどんどん下がっていく。ドイツではおよそ4年ごとに買い取り価格を見直しているだけでなく、新規設備に対する買い取り価格は、毎年一定の率で下げていくように設計されている。
一方、日本のFITには、そのような仕組みがいまだない。次にいつ買い取り価格が見直されるのかも不明だ。さらに規模による買い取り価格の違いも、コスト構造に裏付けされた理屈が明確でない*3)。
*3) ドイツでは屋根置き型の太陽光発電システムからの買い取り価格が出力に応じて4種類、地上設置型では土地の用途に応じて3種類に分かれている。一方、日本は10kWを境に買い取り価格が2種類に分かれているだけである。
事業者の言い分をそのまま採用
そもそも今回の買い取り価格の決定プロセスに課題がある。政府の算定委員会が発電所の稼働率や部材コストなどを計算しておらず、事業者が提出した資料にも明細がない。要するにシステムの建設費が一括計上してあるにすぎないものを、「事業者から提出された資料には一定の信頼を置く」として、事業者の希望価格を丸飲みしたのだ*4)。
*4) 本来であれば部材コストと設置コスト、運用コストについて詳細な分析と将来予測が必要だが、事業者の資料では全てを合計してシステム単価32.5万円/kWとしている。さらに規模の経済について全く考慮していない。
そのため、ドイツの基準に比べると、ほぼ全ての分野で2倍以上の買い取り価格に設定された。いくら円高とは言っても、1ユーロ120円で計算して、これほどの差があるのは異常である。
しかも20年間この価格のまま維持されるから、再生可能エネルギーは高コストでも仕方がないものとして、高値のままで定着してしまう。これでは事業者は真剣にコスト削減努力をしないし、成り行きで部材などのコストが下がれば、それがそっくりそのまま事業者の利益になり、電力消費者には還元されない。要するに事業者の甘やかしだ。これでは再生可能エネルギーが自由競争に移行できるわけがない*5)。
*5) 全ての関連コストに関する統計データを広く集めることで、将来、部材コストや設置コストがどのぐらい低下するかを予測し、買い取り価格改定のたびに反映させる仕組みが必要だ。
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