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日本の明るい未来を開くカギを持つ学生たちレーサー社長が見た学生フォーミュラ(2/3 ページ)

自らもスポンサーとして学生フォーミュラチームを支援してきたレーサー社長が、学生フォーミュラ大会を訪れた。そこで見た学生たちの姿と、筆者が思い描く日本の未来とは。

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学生たちの車両を見る

 車両の走行を見た後はピットエリアを回り、各チームのマシンを間近で見た。レギュレーションが決められてはいるものの、設計の自由度が高いためか、それぞれ特徴があり、見ていて飽きることがなかった。

 マシンを構成する中で、彼らはさまざまなパーツを製作している(スポンサー企業に作ってもらっている部品も含む)。コストの関係上、最も部品点数の多いエンジンについてはスポンサーから提供されたものを複数年にわたって使い続けていることが多い。そのためか、エンジントラブルで走れなくなってしまうチームも散見された。中には、コンロッドがクランクケースを破って飛び出ていたチームもあり、使用環境の厳しさを表していた。

 スーパーチャージャーなどの過給器を付けているチームもあった。動力の取り出しにキックスターターギアを利用し、エンジンマウント用ボスをステーの固定のために使っていたことで、本来荷重があまり掛からない箇所に力と振動が加わってしまい破断してしまったケースも見られた。


レース中に破損したエンジン(芝浦工業大学)

 最新のオートバイ用エンジンは、軽量化のために部品の肉厚が薄くなっており、ボス類に想定以外の力が掛かると壊れる可能性が高くなってしまう。さらにマシン製作に集中するあまり、エンジンメンテナンスまで手が回らず継続使用しているエンジンが音を上げてしまうケースもありそうだ。大会直前から本番にかけて試走を重ね、走行距離がどんどん伸びてくるので、オイル交換などの基本的なメンテナンスをきちんと距離で管理するなどの工夫が必要だろう。

 エンジンコントロールユニット(ECU)についてはMOTEC製のフルコンを使用しているチームが多くちょっと意外だった。

フルコン:「フルコンピュータ」の略。純正のECUを用いずに、エンジンチューニングをコンピュータ制御する手段を指す。



 現在のエンジンは燃料噴射や点火時期など多くのパラメーターをECUでコントロールしており、基本設定がなされていないフルコンではエンジンを掛けるのにも苦労するといわれている。それでは、学生たちも相当大変だっただろう。事実、あるチームでは「メーカーのエンジンベンチ(試験機)を3日間借りても、まだ足りなかった」と言っていた。ただし、ある程度セッティングできればその後は細かな調整ができるため、エンジン特性を変えたり燃費を向上させたりするのに有効に働くはずだ。

 基本的な部分でのミスがあるにしても学生たちのチャレンジ精神には頭が下がる。過給器を取り付けることもそうだが、可変吸気ファンネルを装備したり、エキゾーストマニホールドを自作したり、相当なマニアでもやらない(やれない)ようなことに積極的に取り組む姿勢は素晴らしい。この大会自体も始まってから10年目を迎え、継続参戦している学校の個性がはっきりしてきており、それぞれ特徴あるデバイスが改良を積み重ねることにより効果を発揮していた。


大阪大学車両の可変吸気ファンネル:サーボモーターを利用しファンネルの長さを変化させる。肝心なファンネルが可変する部分は、カーボンでできた吸気チャンバーの中にあり見えない。

エキゾーストマニホールド:排気側の管状の部品。

ファンネル:エンジンの吸気部に使用する筒状の部品。



シャシー

 シャシーについては全車全く違い、それぞれのチームのこだわりが表れていた。エンジンを縦に置いたり横に置いたり、はたまたエンジンとドライバーが並列に並んでいたり。それぞれのマシンでは、ドライバーが乗った状態で荷重バランスが取れるように設計してあるとのこと。ホイールサイズもまちまちで、中にはホイールのスポークを軽量化のため、何本か削り落としてあるチームもあり、普通なら考えられないようなことに挑戦していることに感心した。


サイドエンジンレイアウトが際立つ静岡大学

 多くのチームに共通することが解析ソフトやシミュレーションソフトを使用していることだ。ITベンダーをスポンサーに付けたり、アカデミックライセンスを利用したりなど、学生という立場を生かしながら、普通の企業でもなかなか導入できないような高価なソフトを駆使し、設計に役立てている。そうすることで製作時間を短縮し、いわゆる納期である大会までによりよいマシンが製作できるように努力している。

 シャシー自体もアルミや鉄パイプを曲げて溶接した構造のものもあれば、カーボンモノコックのものもあり、バリエーションに富む。


豊橋技術科学大学によるカーボンモノコック車両

 足回りについてはサスペンションアームが細いものが多く、総じて“きゃしゃな印象”を受けた。もちろん重要なパーツであるからきちんと解析して作っているのだろうが、足回りの剛性が低いと外乱に弱くなりセッティングが出にくくなるので、もっと剛性を持たせてもよいのではないかと感じた。

 アップライトやハブ、リンク回りなどのパーツについては、各大学にある自分たちが利用しやすい工作機械をうまく使って作ってあった。例えばワイヤーカットなら、2次元の輪郭データさえあればプログラムを作るのは比較的簡単で、材質を問わずにかなり厚いものまで切れる。そういった特徴を生かして部品製作しているチームがあった。


足回りが美しく仕上がった京都大学の車両。部品も自分たちで加工する。

 アップライトとハブについては、大きな荷重を受けることや、可動部が集まる箇所であり形状が複雑になることから、スポンサー企業に作ってもらっているケースが多く、中には5軸のマシニングセンターで作ってあるものまであった。このように自分たちのキャパシティーとスポンサー企業の力を合わせて上手にマシンを作り上げており、マネジメント能力の高さもうかがえた。

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