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僕らはどうしてコマ大戦をやるのか行司から見た全日本製造業コマ大戦(3/3 ページ)

中小製造業を中心に盛り上がるイベント「全日本製造業コマ大戦」。その行司(審判)が、イベントに込められた思いや課題を語った。

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落合:SEIMITSU COMAがなければコマ大戦は生まれなかったと思います。また、コマ大戦を開催し、由紀精密が優勝しなければ、SEIMITSU COMAも、ここまで注目を集めなかったのかもしれません。このような形で、相乗効果が起こるのは素晴らしいことですよね。さて、お二人は、実際にコマ大戦をやってみて、どうでしたか? 僕は、「予想以上の盛り上がり」に、かなりの衝撃を受けましたし、製造業にかつてなかったパワーを感じました。

椙田:「実況を担当させていただいて良かった」と素直に感じました。「面白おかしく話す」こと自体は、もともと苦手ではなかったのですが、どちらかといえば「楽屋受け」する感じの話が得意で、展示会場での実況で自分のコメントが浮かないか、ちょっと心配していました。でも、想像していたほどの緊張はなく、(横浜場所では)後半はマイペースで、いい感じに進行できたと思います。初回で、しかもリハーサルもなく、“ぶっつけ本番”だったわりに、よくできたかも。

笠原:「バーチャルな世界での一体感」から、「リアルな世界の一体感」へ脱皮できた実感を得た気がします。それで「何かを成し遂げた」というよりは、「ここから、何かが始まる」空気をひしひしと感じましたね。

落合:それぞれの役割でどのようなところが難しいか、また、どのようなところに気を使っているのでしょうか? 行司をしていて難しいと思うのは、「同体」、すなわち「同時に倒れてしまった場合」の判定ですね。その場の熱気、雰囲気に負けずに判定を下すのは結構しんどいんですよね……。

椙田:席から土俵までの距離がある場合は、静止や接触が分かりにくいですね。本来の実況って、モニターが近くにあったりして、瞬時に目線を切り替えられます。コマ大戦だとそれができないため、「チームの特徴をあれこれ探している間に、勝負が付いてしまう」ケースが多い。あとは、コマ自身に大きな特徴がない場合や、対戦相手同士のコマの見掛けがそっくりな場合は、悩みますね。

笠原:精度よくできたコマって、動きが結構地味なので、好勝負になったときほど言葉が出ないんです。そんなときは、よく出場者をいじっていますが、どこまでなら「言い過ぎでないか」「不快でないか」は、毎回迷っています。あ、判定で困った表情をしている落合さんも、たまにいじったりしますね。

落合:ちょっと! 他の人はよく分からないけど、僕は結構迷惑ですよ〜。好勝負のときは、結構真剣に土俵上を見ないといけないんですよ! そこでいじられて、もし判定を誤ったらどうしてくれるんですか。……まあ、それは置いといて……、今後に向けた課題は何でしょうね。

笠原:いまの話に出たように、精度よくできたコマほど、どうしても地味な動きになってしまうことですね。参加者の皆さんも、いろいろな趣向を凝らしてくれてはいるのですが……。喧嘩(けんか)ゴマのような“動きの派手さ”も欲しいですね。個人的には、クラス分けをするなど、レギュレーションの再検討が将来的には必要だと思います。

落合:確かにクラスを設けることで、今まで出たくても出られなかった人、興味があまり湧かなかった人も新たに誘い込める可能性がありますね。コマ大戦というイベントに幅を持たせるためにも。

椙田:コマ大戦を利用して、由紀精密や西村金属、クリタテクノのような、目立つ町工場を1社でも多く作り出せるといいですね。地方でのコマ大戦の認知度を上げる工夫もしたいですね。特に西日本にテコ入れするためには、関西に運営拠点をおく必要があるかもしれません。あとはやはり、われわれのような協力者の時間的、経済的な負担をより少なくするための対策も、かな……。

落合:本業あってのコマ大戦ですからね。では、コマ大戦は将来的にどうなっていくと思いますか? あるいはどうなってほしいと思いますか?

椙田:例えば高校や異業種の地域チームなど、製造業以外へも広がって、大会がどんどん大きくなれば、それが「日の丸モノづくり」の普及と発展にもつながっていくと思いますし、そうなってほしいですね。

笠原:町工場が活気づいてきているのは、既に今も見て取れます。そこからさらに一歩踏み込んで、大会を通して、子どもたちにモノづくりの面白さを伝えられたらいいですね。

落合:自分もお二人とまったくの同意見です。コマ大戦をきっかけに、製造業に興味を持ってくれる子どもが増えてくれればいいですね。それから、地域の連携拡大にもつながっていけば。そして、それがゆくゆくは日本全体の活性化へとつながっていけばなぁと思います。

笠原:「本業もしっかりしていないのに、こんなことを」という声も聞こえてきますよ……。実際、これは仕事ではありません。かなりのワーカーホリック(仕事中毒)でも、読書やランニングなど多少の趣味は持つはずです。「本業を生かした趣味なんだなぁ」ということで、温かく見守っていただけたらなと思いました。

椙田:本業ではありませんが、製造業はもちろん、IT系の企業のイベントの司会進行、実況中継などの依頼があれば、喜んでお受けします。「今ならまだ安くしておきます」と、アイティメディアさんにもお伝えください。

落合:えっ!?

どうしてコマ大戦をするのか

 由紀精密はSEIMITSU COMAの売り上げを大きく伸ばし、新製品の「KENKA COMA」も販売開始。西村金属はコマ大戦で製作したチタン製逆さコマを小さくサイズダウンして販売中です。かわいくデコレーションした逆さコマも販売するとのことです。また、クリタテクノでは、コマの外形(直径)を測定するための大会公式ゲージを製作・販売しています。緑川さんも言っていましたが、これはまさしく「自分たちが作り出した市場」といえます。また参加チーム同士による地域を超えた横連携に向かう動きが実際に出始めています。


西村金属によるかわいいデコレーションを施したチタン製「逆さコマ」の新シリーズ:こちらは、2012年9月30日開催の「八王子場所」で先行販売する
動画が取得できませんでした
KENKA COMA(由紀精密)


クリタテクノのコマ大戦公式ゲージ

 冒頭でも書きましたが、このコマ大戦が始まったのは、2012年の2月です。実はまだ1年も経っていません(記事公開時点)。そして運営側も、イベント企画のプロではなく、参加者と同様に、製造業の面々です。

 そんな“イベントの素人”が仕事の合間を縫って企画していることもあり、伝達の不備や準備不足など、いろいろな課題や問題も出てきました。現在、それらを1つ1つ処理しながら運営している状態です。その労力は、結構なものです。その労力のかいもあってか、Ustream放送の精度は、会場の環境依存は大きいものの……、徐々に「見せ方」がよくなってきています。

 それから、「本業とは関係のないことに大きな労力を割いている」、また「運営のために、お金が動いている」など、もしかしたら不快に思っている方がいるのかもしれません。だからといって、いったん発生したこの大きなウネリを止めるわけにもいかないのです。

 一般的にメディアが取り上げる製造業のイメージは暗いばっかりです。確かに実際、僕たちの仕事は先が見えません。正直、不安ですし、キツいです。だからといって、下を向いて黙っていられません。

 現状を打破するために「何かを始めよう」という企業も、たくさんいます。そしてそれぞれの企業が各自でできること、考え付いたことを実行しようとしています。待っているだけでは、仕事はきません。今はそういう時代です。

「何かしなければ!」

 そんな思いの数々が一カ所に集まったことが、コマ大戦の大盛況へとつながったのでしょう。


「渋谷場所」より

 今のご時世、中小零細企業が1社で生き抜くにはつらいものです。他社と連携することで、自社に足りない部分を補いつつ、さまざまな状況に対応していかなければなりません。連携と言っても、昔からある“ナアナアなつながり”ではありません。あくまで、必要に応じた“最適な連携”です。コマ大戦から生まれた横の連携は、まさに“最適な連携”を生み出してくれるのではないでしょうか。何せ、多忙な本業の合間でコマを真剣に製作し、スケジュールを一生懸命調整してやってくる、そんな“熱い”人たちが参加するのですから。

 行司として運営に参加している自分がこう書いてしまっていいのかどうか分かりませんが……、同様なことを目指すには、コマ大戦ではなくても、他の手段や方法があれば、それでいいのでしょう。コマ大戦のやり方が、製造業に携わる誰にとっても正解とは思いません。誰もがそれに賛同するべき、参加するべきだとも思いません。

 ですが、もしまだ実際にご覧になったことがないということなら、ぜひ一度見にきていただきたいのです。「会場の熱気」や「参加者の真剣なまなざし」から、きっと何か感じていただけるのではないでしょうか。

 それでは皆さん、会場でお待ちしています。「コマ大戦会場で僕と握手!」……といっても、全部の会場にいるわけではないので、会えなかったら、すみません。

Profile

落合 孝明(おちあい たかあき)

1973年生まれ。2010年に株式会社モールドテック代表取締役に就任(2代目)。現在、本業の樹脂およびダイカスト金型設計を軸に、中小企業の連携による業務の拡大を模索中。「全日本製造業コマ大戦」の行司も務める。また、東日本大震災を受け、製造業的復興支援プロジェクトを発足。「製造業だからできる支援」を微力ながら行っている。




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