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あなたの会社が設計・開発に失敗する理由――ツール? 組織? それともデータ共有?設計部門ごとの違いを無理に統一しない(3/6 ページ)

製品を企画し、販売に至るには開発・設計フェーズと製造フェーズが欠かせない。日本には製造技術に優れた企業が多いが、開発・設計はどうだろうか。一部を見ると優れているが、全体の最適化に失敗した製品を見たことがないだろうか。米Texas Instrumentsと米Mentor Graphicsで開発・設計の問題に長年取り組んだ人物はこの問題をどう捉えているのか。「7つの解決手法」とあわせて紹介する。

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なぜこのような問題が起こるのか

 「まさに組織の問題だ」という。個々の部門は専門化しており、そこに属する技術者はそれぞれ異なった分野で経験を積み、部門ごとに異なる問題に対して、異なる問題解決手法を採っている。

 「例を挙げよう。(プレゼンテーション資料を示しながら)これは英Qualcommが2012年6月に技術者を募集する際に示していた職種の一覧だ。なんと800以上の職種がある。専門化がいかに進んでいるかお分かりだろうか」(同氏)。

 Mentor Graphicsは顧客企業に対して設計・開発支援製品を提供する場合、さまざまな部門の技術者を集めたチームを作り上げるよう勧めているという。ソフトウェア、ハードウェア、アナログ、デジタル……。最適化されたシステムを生み出すために、チームとして働くように勧めているが、チームが実際にチームとして機能しない。これが悩みだとした。

 なぜチームとして機能しないのだろうか。各部門が自部門に関係する部分だけを最適化しようとするからだ。「例えば、システム設計者は常にフラストレーションがたまる。せっかく作り上げた革新的なシステムアーキテクチャがソフトウェアになかなか実装されないからだ。集積回路の設計者にとっても同じこと。『象牙の塔の中』にいるシステム設計者が作るシステムアーキテクチャは実装に向いていない。ハードウェア設計者とソフトウェア開発者の対立については既に触れたことだが、ゴールも違えば、手法も違う」(同氏)。

 企業組織自体が問題を悪化させることも多いという(図5)。例えば製造部門が生産性と低コストを評価指標としたとしよう。製造部門の設計者はこの目標に従わなければならない。このような場合、製造部門を含む各部門は、全部門にまたがった最適化を進めようとするだろうか。


図5 評価指標が部門ごとに異なる 製造部門(図左)の評価指標は、多層基板で層間を接続する穴(ビア)の冗長化を高めることや、リソグラフィ(露光)時にパターン同士がつながってしまい歩留まりを悪化させる「ホットスポット」の低減が評価指標になる。設計部門(図右)は処理性能向上や消費電力低減、面積低減を求める。

組織の壁を破るには

 Rhines氏の経験から分かることは、組織の壁を破る取り組みが遅れていること。これがシステム設計の最適化を妨げているということだ。つまり、開発・設計フェーズを支援するソリューションがあるとすれば、組織の壁を何らかの方法で破るものでなければならない。

 そのような手法は7つあるという。

手法1:顧客・サプライヤー関係を変える

 同氏が最初に紹介した手法は、顧客とサプライヤーの関係を変えることだ。「25年か30年、過去にさかのぼってみよう。当時、私は米Texas Instrumentsで働いており、ある問題にしばしば直面していた。設計技術者と製造技術者がデザインルール(最小線幅)についてどうしても合意できないのだ」(同氏)。製造技術者は高い歩留まりとスループットの向上を目指すため、先端のデザインルールを追い求めようとはしない。逆に設計技術者は、より微細なデザインルールを採用することで性能を高め、消費電力を抑えようとする。両部門の矛盾を解消するためには、組織の階層を1つ上がったところにいるマネジャーが論争を止めなければならならなかったという。

 「もちろんマネジャーは、設計と製造の課題について技術者よりも理解が浅い。従って両部門の主張する中間ぐらいの値を恣意的に決めるしかない。これでは誰も満足しないが、先に進むしかない。このような決断では最適解は得られないが、当時はこうするしかなかった」(同氏)。

 今日では製造部門が独立した企業となっている場合も多い。製造部門にとって、設計技術者は顧客だ。製造部門も設計技術者も最小のコストで最大の性能を発揮する製品を作り上げようとがんばっている。「日本ではこの問題はあまり重要ではないかもしれないが、米国企業や欧州の企業にとってはまさにホットな話題だ。今日、境界領域が事業に占める比重は高まっている。顧客とサプライヤーの協力こそが最適解に至る道だろう」(同氏)。

手法2:ベンチャー企業を立ち上げる

 2つ目の手法は、ベンチャー企業(スタートアップ企業)を立ち上げるというものだ。ベンチャー企業は組織の規模が小さいため、大企業によくみられる組織間の壁や極端な専門化の問題が生じにくい。「技術者個人は分野もばらばらなさまざまな課題に対して立ち向かわなければならない。先ほどの設計と製造のようなトレードオフを1人の人間がそれぞれの立場で見ることができるため、素早い決断が可能になる。互いに協力しようとする意思やイノベーションを受け入れる姿勢が組織の枠を超えて広がりやすく、変化に対しても乗り気になる」(同氏)。

 多くのベンチャー企業では、人員が限られているため、製品に革新をもたらそうとする設計技術者と、顧客の間に伝言ゲームが生じにくいというメリットもあるという(図6)。プロダクトマーケティングやマネジメント、セールスなどの部門を作り、より性能が高く、高速に動作し、安価な次期製品について意見を戦わせる――現在広く見られるこのような手法だけではないということだ。「より革新的な手法を採用したい個別の設計者とシステム設計者が直接顔をつきあわせて同じ『言語』で議論できることが核心だ」(同氏)。


図6 設計におけるベンチャー企業のメリット ベンチャー企業(Start-Ups、図下)では製品企画・開発から顧客までに組織の壁を乗り越えていく必要がない。大企業の組織の壁(図上)がそもそも存在しないため、部門間のあつれきが生まれにくい。

手法3:部門の統合

 組織自体を変える手法がもう1つある。ある部門を別の部門に組み入れてしまうことだ。「10年か15年前の携帯電話機のことを思い出してほしい。どのようにして現在のような製品に至ったのかを。かつてはRF部と中間周波数部があり、中間周波数部を構成するアナログ回路、デジタル回路が大きなチップ面積を占めていた。今日では1つの大きなチップのごく一部を使っているだけであり、中間周波数部は存在しない」(同氏)。

 中間周波数部はどのようにしてなくなっていったのだろうか。RFからデジタル信号に直接変換するようになったからだという。中間周波数部を構成していたアナログ回路はもはや存在しない。そのためアナログとデジタルを統合する設計は必要なくなった。つまりデジタルプロセスで一部のアナログが実行していた処理を肩代わりできるということだ。1つの開発チームがアナログとデジタルの統合を実行できる。

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