トヨタのEV「eQ」をベース車「iQ」と比較、主要電動部品は既存品を流用:電気自動車
トヨタ自動車の電気自動車(EV)「eQ」は、4人乗りのコンパクトカー「iQ」をベースに開発された。eQとiQの比較から、ベースのガソリンエンジン車をEVとして仕上げるために必要なことが見えてくる。さらにeQは、「レクサスGS450h」、「プリウス」、「プリウスPHV」、先代の「RAV4 EV」といった既存車両の電動部品の流用によって、開発期間の短縮を実現している。
トヨタ自動車が、4人乗りのコンパクトカー「iQ」をベースに開発した電気自動車(EV)「eQ」。ホンダの「フィットEV」を抑えて世界最高“電費”を達成するなど、トヨタ自動車が単独で開発したEVとしての面目を保つ性能を有している(米国のEVベンチャーTesla Motorsと共同開発したEV「RAV4 EV」は既に米国で販売されている)。
日本市場向けのeQの外形寸法は全長3115×全幅1680×全高1535mm、ホイールベースは2000mm、最小回転半径は4.1m、車両重量は1080kgである。
モーターの最高出力は47kW、最大トルクは163Nmで、最高速度は毎時125km。総容量12kWhのリチウムイオン電池パックを搭載し、満充電状態からJC08モードで100km走行できる。国土交通省がEVの電費の基準として定める、1km走行するのに必要な電池の容量(Wh)を示す交流電力量消費率(JC08モード)は、フィットEVの106Wh/kmよりも良好な104Wh/kmを達成した(交流電力量消費率は、通常の燃費とは異なり低いほど良い値である)。
充電時間は100V電源で約8時間、200V電源で約3時間、CHAdeMO規格に準拠する急速充電で約15分(80%充電)となっている。
iQより115mm長い全長
このeQについて、ベース車であるiQと比較してみよう。
表1は、eQとiQ(排気量1.3リットルのエンジンを搭載する「130G」)について、外形寸法(全長×全幅×全高)、ホイールベース、最小回転半径、室内寸法(長さ×幅×高さ)、最低地上高、車両重量、パワートレイン(eQはモーター、iQはエンジン)の最高出力/最大トルク、価格を比較した結果である。
車両名称 | eQ | iQ |
---|---|---|
外形寸法 | 3115×1680×1535mm | 3000×1680×1500mm |
ホイールベース | 2000mm | 2000mm |
最小回転半径 | 4.1m | 3.9m |
室内寸法 | 1560×1515×1110mm | 1560×1515×1145mm |
最低地上高 | 130mm | 135mm |
車両重量 | 1080kg | 950kg |
最高出力/最大トルク | 47kW/163Nm | 69kW/118Nm |
価格 | 360万円 | 168万円 |
表1 EV「eQ」とベース車「iQ」の比較 |
まず外形寸法を見ると、eQは、iQよりも全長が115mm長い。全幅は1680mmで同じである。ホイールベースも2000mmで同じなので、増加した115mmの全長は、車両のフロントとリアのオーバーハング(前輪/後輪よりも車両が外側に突き出ている長さ)が合計で115mm長くなっていることを意味している。このため、iQの最大の特徴だった、軽自動車よりも小さい3.9mという最小回転半径は、4.1mに増えてしまっている。
eQの全長が大きくなったのは、エンジンやトランスミッション、ガソリンタンクに替えて、モーター、インバータ、車載充電器、急速充電コネクタ、大容量のリチウムイオン電池パックを搭載したためである。特に車両前部には、モーターやインバータなどの電動システムに加えて、普通充電コネクタと急速充電コネクタ、普通充電コネクタで充電する際に100V/200Vの交流を直流に変換する車載充電器など、リチウムイオン電池パックを除く主要部品が全て搭載されている。
eQのリチウムイオン電池パックは、車室の床下に組み込まれている。このリチウムイオン電池パックのスペースを稼ぐために、全高と室内高さ、最低地上高がiQと異なっている。全高が35mm増加する一方で、室内高さは35mm、最低地上高は5mm減少した。これらを合計した高さ75mmの空間にリチウムイオン電池パックを組み込んでいることになる。
eQの車両重量はiQより150kg重い。この重量増加の主な要因は、総容量12kWhのリチウムイオン電池パックである。eQのリチウムイオン電池セルは、プラグインハイブリッド車(PHEV)「プリウスPHV」と同じパナソニック製のものを採用している。この電池セルは出力電圧が3.7Vで、電流容量が21.5Ahである。eQのリチウムイオン電池パックは出力電圧が277.5V、容量が12kWhなので、直列75個×並列2個(合計150個)の構成で電池セルを接続していることが分かる。
eQのモーターは、iQの排気量1.3リットルのガソリンエンジンと比べると、最高出力が排気量1.0リットルクラスのエンジンと同等の47kWまで低下している。その一方で、走り出しや登坂時などの走行性能に影響する最大トルクは163Nmまで向上している。
eQとiQの価格差は192万円である。EVを購入する際には、「クリーンエネルギー自動車等導入費補助事業」による補助金を得られるが、その金額はEVとベース車の差額の半額が基準となっている(上限は100万円)。実際に補助金を算定する際のベース車の価格は若干異なる可能性はあるが、今回の価格差から考えれば96万円の補助金が得られることになる。
先代「RAV4 EV」のギヤボックスも流用
なおトヨタ自動車は、eQを開発する上で、モーターやインバータ、ギヤボックス、リチウムイオン電池セルといったEVの主要部品を新たに開発していない。これまでに開発したハイブリッド車(HEV)やPHEV、EVの部品を流用することで、開発期間の短縮を実現している。
モーターは「レクサスGS450h」、インバータは3代目「プリウス」のものを採用している。リチウムイオン電池セルは、先述した通りプリウスPHVと同じである。ギヤボックスについては、トヨタ自動車が1996年に開発したEVである初代のRAV4 EVから流用している(関連記事)。
EVの電費性能に大きく影響するブレーキ回生システムについては、ブレーキエネルギーを電力に変換する電動ブレーキから油圧ブレーキに切り替えるタイミングを、既存のトヨタ車よりも遅くすることで効率を高めた。eQでは、時速4kmまで電動ブレーキを使用しているという。
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