三菱自動車も“止まる”プリクラッシュを採用、「EyeSight」よりも安価に:ボルボ、富士重工業、トヨタと比較(2/2 ページ)
三菱自動車は、「アウトランダー」の新モデルに、新開発の予防安全技術「e-Assist」を採用する。e-Assistは、自動ブレーキによって停車して衝突回避や衝突被害の軽減を可能にする「“止まる”プリクラッシュセーフティシステム」を搭載している。このe-Assistと、ボルボ、富士重工業、トヨタ自動車の止まるプリクラッシュを比較した。
価格は10万円以下に
e-Assistの場合、77GHz帯のミリ波レーダーは、ACCとFCMで、前方車両との車間距離や相対速度を検知するのに用いられる。一方、フロントガラスの上部(バックミラーの裏側)に設置した単眼カメラはLDWにのみ利用する。2個のセンサーデバイスは、役割分担がはっきりしており、ミリ波レーダーはACCとFCMにしか使用しないし、単眼カメラもLDWにしか使用しない。
ミリ波レーダーは、夜間、降雨、降雪、濃霧といった外的環境に影響されにくいものの、自動車よりも小さい、歩行者や自転車などを高精度に検知することはできない。このため、ACCとFCMは、車両に対してのみ作動するように設定されている。ミリ波レーダーと単眼カメラ、両方のセンサー情報を連動させれば、歩行者や自転車などを見分けることも可能だが、e-Assistはそういった機能は搭載していないようだ。
これまで、ミリ波レーダーを使う予防安全システムは数十万円と高価になると言われてきた。しかし、Robert Boschや富士通テンなどが開発した、従来よりも安価に製造できるSiGe(シリコンゲルマニウム)ベースのミリ波レーダーモジュールを使えば、大幅に価格を抑えられる可能性がある(関連記事2)。三菱自動車は、e-Assistの価格について、「富士重工業のEyeSightよりも低価格にしたい」とコメントしている。なお、EyeSightのオプション価格は10万円である。
他社の止まるプリクラッシュと比較
このe-Assistと同様に止まるプリクラッシュを搭載している、ボルボのCity SafetyとHuman Safety、富士重工業のEyeSight、トヨタ自動車の衝突回避支援PCSの特徴を以下に見てみよう。表1に、自動車メーカー、システムの名称、止まるプリクラッシュに使うセンサー、衝突回避可能な速度差、歩行者検知機能の有無、オプション価格についてまとめた。
メーカー | 三菱自動車 | Volvo | Volvo | 富士重工業 | トヨタ自動車 |
---|---|---|---|---|---|
システム名称 | e-Assist | City Safety | Human Safety | EyeSight | 衝突回避支援PCS |
止まるプリクラッシュに使うセンサー | ミリ波レーダー | レーザーレーダー | ミリ波レーダーとカメラ | ステレオカメラ | ミリ波レーダーとステレオカメラ |
衝突回避可能な速度差 | 毎時30km | 毎時15km | 毎時35km | 毎時30km | 毎時38.6km |
歩行者検知機能の有無 | 無 | 無 | 有 | 有 | 有 |
オプション価格 | 10万円以下 | 標準装備品 | 15万〜20万円 | 10万円 | 未定 |
表1 止まるプリクラッシュを搭載する予防安全システムの比較 |
まず、City Safetyで使用しているセンサーは、レーザーレーダーである。レーザーレーダーは、ミリ波レーダーより低価格ではあるものの、前方車両との車間距離や速度差を検知する性能は低い。速度差が時速15km以下であれば衝突回避が可能で、時速15〜30kmの場合には衝突被害を軽減できる。レーザーレーダーが安価なこともあり、ボルボは、City Safetyを標準装備する車種を拡大させている。
同社は、City Safetyの他にも、ミリ波レーダーとカメラの組み合わせにより、時速35km以下での衝突回避や歩行者の検知が可能なHuman Safetyも用意している。ミリ波レーダーを搭載する上に、カメラと連動させることもあって、City Safetyよりも高価だが、止まるプリクラッシュとしての安全性能は向上している。ボルボは、Human SafetyやACC、LDWなどさまざまな安全システムを1パッケージにまとめた「Safety Package」をオプションとして提供している。日本市場向け車両のオプション価格は、15万〜20万円である(2012年9月現在は、キャンペーン価格で12万5000円になっている)。
EyeSightは、レーダー系のセンサーデバイスを使用せず、ステレオカメラだけで止まるプリクラッシュを実現した。画像認識が可能なカメラなので、前方車両以外にも、歩行者や自転車などを検知することもできる。対象物との速度差が時速30km以下であれば、衝突回避が可能だ。その上、ACCやLDWなどの機能も、ステレオカメラだけで実現している。センサーデバイスとしてステレオカメラしか使用しないこともあって、オプション価格は先述した通り10万円と安価である。ただし、夜間時や天候の影響を受けやすいのが短所になる。例えば夜間は、歩行者を検知しての自動ブレーキは行えず、警報で知らせることしかできない。
新型レクサスLSの衝突回避支援PCSは、ミリ波レーダーとステレオカメラで歩行者や前方車両を検知し、時速24マイル(約38.6km)以下であれば自動ブレーキによって停車して事故を未然に防ぐことができる。従来のレクサスLSのPCSは、衝突の直前にブレーキによって速度を低減して衝突被害を減らせるものの、自動ブレーキによる停車はできなかった。夜間でも、近赤外線投光器によって歩行者や前方車両を検知できるので、昼間と同じ自動ブレーキによる停車が可能だ。価格は明らかになっていないが、従来モデルの北米仕様車の場合で、PCSとACC、LDWなどを1つにまとめたオプション装備は5860米ドル(約45万6000円)だった。
なお、ボルボ、富士重工業、トヨタ自動車、三菱自動車の他にも、マツダが「スマート・シティ・ブレーキ・サポート(SCBS)」、Volkswagenが「シティエマージェンシーブレーキ」、Daimlerが「PRE-SAFEブレーキ」という名称で止まるプリクラッシュを製品展開している。
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