電気自動車「ボルト」、電池管理の秘密:製品解剖(2/5 ページ)
電気自動車の性能や信頼性を左右する要因の1つが、「電池」と「電池管理システム」だ。今回のシボレー・ボルトの解剖では、電池自体よりも、電池管理システムに焦点を当て、安全で信頼性の高い電気自動車を実現するためにどのような取り組みが必要なのかを調べた。
意外に難しい電池の制御
シボレー・ボルトの走行性能や安全性、信頼性を実現するシステムは複雑だ。そうなった直接の原因は、リチウムイオン二次電池セルの特性にある。放電時には、グラファイト負極内にたまったリチウム原子が陽イオン化し、その後、電解質の中を移動していく。セパレータを通過して正極にリチウムイオンが到着し、その結果として電流が生まれる。充電時はこの流れが逆になり、リチウムイオンが正極からセパレータを通過して負極に達する。
一連の化学反応の進み具合と電池の信頼性は、セルの温度と電圧に依存する。温度が低い場合には、化学反応がゆっくりと進み、セル電圧は低くなる。温度が上昇するにつれて反応速度が上がり、ついにはセルの破壊が始まる。100℃以上になると、電解液からガスが発生し、セル内部の圧力はガス排出弁が必要になるほどに高くなる。さらに高温になると、酸化物から酸素が放出され、温度上昇が一層加速し、熱暴走状態に入る。
つまり、電池セルの動作条件を最適に保つことが、シボレー・ボルトの電池管理システムの最も基本的な要求事項となる。シボレー・ボルトに携わる技術陣が実現しなければならなかった課題は、車に搭載された電池セルの状態を監視し、制御するための信頼性の高いデータ収集と分析である。だが、リチウムイオン二次電池セル自体の別の性質が、この課題を困難なものとしている。
リチウムイオン二次電池セルの特徴的な性質の1つは、一定の温度と出力電流レベルに対する出力電圧が、電池容量の中間領域にわたってほぼフラットになることだ(図2)。この性質は、電力源としてのリチウムイオンの利点を高めるものだ。だが、電池の残存容量、つまりSOC(State Of Charge)の情報を取得しようとすると面倒なことになる。セル電圧を測定するだけでは容量が分からないからだ。シボレー・ボルトの運転者は走行可能距離を知りたい。そのためには正確なSOCを推定できる仕組みがなければならない。実際、初期の電気自動車市場では走行距離がはっきり分からないために、販売台数が伸び悩む可能性があった。SOCを正確に推定し、それを運転者に通知する機能は欠かせない。
図2 リチウムイオン二次電池の放電温度特性 パナソニックの「CGR18650CG」の特性を測定したもの。一般的なリチウムイオン二次電池セルでは、ある温度と電流出力レベルに対する出力電圧が、放電容量の中間領域にわたってほぼフラットになる。フラットになるという特徴は電力源としては有利な性質だが、残存容量を正確に推定しにくくなる。縦軸は電池セルの端子間電圧(V)、横軸は放電容量(mAh)。放電が始まると、電圧はゆっくりと下がり、水平に近いなだらかな傾きで低下し続けて、最後に急激に降下する。出典:パナソニック
SOCは電池の寿命にも影響する
電池の寿命を延ばすためにも、SOCを一定の範囲に保つことが重要だ。SOCが低過ぎたり高過ぎたりする状態が続くと、SOCを中間レベルに保った場合に比べて電池の劣化が速く進む。適切なSOCの範囲は、一般的には実験を重ねることで分かる。電池セルを、過放電させると構成部品が劣化し始め、回復できなくなる。推奨の上限電圧を超えて充電すると、電池セルが過熱したり、不可逆的に構造が変化してしまう。
GMの技術者は、シボレー・ボルトに最適なSOCの範囲を58〜65%と定めた。運転モードに合わせて、平常運転モードではSOCの下限を30%に、「山岳走行」モードでは坂道走行に必要な容量が残るよう下限を45%に設定している。電池のSOCが設定下限に近づくと、ガソリンエンジンが稼働し、モーターに電力を供給するための発電機が動き始める。
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