「モデルS」の立ち上げに奮闘、エンジニアが支えるEVベンチャーの屋台骨:テスラ・モーターズ モデルS インタビュー(3/3 ページ)
電気自動車(EV)ベンチャーとして知られるTesla Motors(テスラ)。セダンタイプのEV「Model S(モデルS)」の量産開始により、EVベンチャーから自動車メーカーへの転身を果たそうとしている。モデルSの開発と量産立ち上げに奮闘した、同社CTOのジェービー・ストローベル氏と、生産部門担当副社長のギルバート・パサン氏に話を聞いた。
NUMMIをリノベーションした立役者
もうひとり、この会社を支えるエンジニアを紹介したい。生産部門担当の副社長を務めるGilbert Passin(ギルバート・パサン)氏だ。トヨタ自動車をはじめ数社で生産技術の経験を積み、唯一の“北米産レクサス”である「レクサスRX」の生産に尽力した経歴を持つ。築50年を越える旧NUMMI(GMとトヨタの製造合弁企業)の工場をリノベーション(大規模改修)し、低コスト体質のFremont(フリーモント)工場として立ち上げた立役者でもある。
「生産台数を考慮した上で、効率の良い投資を目標に生産ラインの構築を図りました。建屋はそのまま生かし、工場内部をリノベーションしました。プレス機はサプライヤの遊休施設のものを安く買い取り、さまざまな備品も中古品を活用しています。その一方で、中古では対応できないような最新設備や、フレキシブルな変更が要求される設備に投資を集中しました。例えば、通常の自動車工場で採用されるコンベアラインではなく、ライン上を自走する台車を採用したこともその一環です。工場内の機械装置に、ドイツのKUKA製産業用ロボットを導入したのも、同じ判断からです。(モデルSは)フロアが低く、ルーフが寝ているため、キャビン内にシートを入れる作業は難易度が高く、また内装の組み立てにも高い組み付け精度が要求されます。こうした繊細な作業に、最新ロボットの性能を活用しています。フリーモント工場では、1直8時間で1日当たり80台、年間では約2万台の車両を生産する予定です。限られた生産能力の中で、モデルXなど新たな車種が増える可能性も鑑みると、将来的にはフレキシブルな生産ができるラインが望ましいとも考えました」(パサン氏)
驚くことに、モデルSはフリーモント工場で一貫して生産される。メインエントランスのある建屋の1階では、内装の組み立てと最終組み立てが行われるが、その2階にはサプライヤから購入したリチウムイオン電池をモジュール化して電池パックを組み立てるエリアがある。その裏側の建屋では、6軸の大型油圧プレスでアルミ素材からボディパネルをプレスしたり、樹脂ペレットからバンパーを生産したりするラインが存在する。見学はかなわなかったが、塗装も同工場で行われている。
「フリーモント工場では、約450人が自動車の生産に当たり、約350人が電池パックやモーターといった部品製造を担当しています。ランプやシートなどの部品はサプライヤから購入しますが、ボディやパワートレインといった主要部品のうち95%は、工場内で生産されています。自動車組み立て部門では、高圧ダイキャスト整形されたアルミ製シャシーや、大型プレス機で高精度に加工されたボディパネルを、接着やビス止めによって組み立てます。こうしたアルミボディの製造ノウハウは、他の自動車メーカーにもあまり蓄積されていません。生産効率を突き詰めるだけではなく、作業者を育成して品質を高めるプログラムも実施しています」(パサン氏)
パワートレインがシンプルなEVだからこそ、社内で一貫した生産体制を採用できるのだろう。モデルS発表イベントの当日、工場から出荷されたのはわずか20台。話題の新型EVを早々と手にしたのは、グーグルの創業者であるラリー・ペイジ氏をはじめとするカリフォルニア州を代表する億万長者たちだった。2011年秋の予約開始から10カ月で1万台のバックオーダーを抱えるだけに、モデルSの到着を心待ちにする人々のためにもフリーモント工場の円滑な操業が求められる。
「残りの敷地に工場を拡大し、1万台のバックオーダーに迅速に対応したい」(パサン氏)
彼の視線の向こうには、地元のセレブリティだけでなく、遠くヨーロッパやアジアで待つ顧客の顔が見えているのだろう。
マスク氏はよく、「(モデルSの開発に当たって)最高のスタッフを集めた」と言うのだが、実際、画期的なアイデアを持つCTOのストローベル氏と、彼のアイデアを確実に製品に落とし込んで量産する生産技術を身に付けたパサン氏の組み合わせは「最高のスタッフ」に違いない。
モデルSの米国での価格は約5〜9万ドル。EVの魅力を引き出して、自動車産業の明るい未来を信じさせてくれるテスラらしい新型車だ。
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