なぜ映像が浮かび上がるの? 近未来のカーナビが登場した:パイオニア HUDカーナビ インタビュー(前編)(1/3 ページ)
近未来のカーナビが登場した。それはパイオニアが開発した「サイバーナビ」。ルート情報が走行風景と重なって見えるモノだが、本当に安全なのだろうか。実証実験を行った北里大学の教授とパイオニアの開発担当者に話を聞いた。
今は2012年? そう思わせるような“近未来のカーナビ”が登場した――。
パイオニアが2012年7月下旬に発売する「カロッツェリア サイバーナビ」(HUDユニット付き、30万〜32万円)。これは戦闘機のコックピットなどで使われているヘッドアップディスプレイ(HUD)の技術を使い、ナビ画面をフロントガラスの前方に見えるように投影させたものだ。
実際にHUDを装着して運転してみると、見慣れた走行風景が一変する。ドライバー席からはルート情報や車間距離などが、実際の走行風景に重なって見えるのだ。また視線移動が少なくすむので、実用性も兼ね備えているといっていいだろう。
近未来の運転スタイルを提供するパイオニアは、このサイバーナビをどのように開発したのか。最先端技術を搭載させているが、安全性は本当に大丈夫なのか。HUDの開発に携わった古賀哲郎氏と、医学的見地から実証実験を行った北里大学教授の魚里博氏らに話を聞いた。聞き手は、Business Media 誠編集部の土肥義則。
なぜ映像が浮かび上がるの?
古賀哲郎氏(以下、古賀):土肥さん聞いてくれますか? クルマにHUDを装着してガソリンスタンドに入ったら、スタッフの人にこのように言われました。「なんっすか、これ? なんか緑色のものがピカッって光りましたよ」と。
「これはHUDというモノで……」と説明したところ「すげー! カッコイイっすね」「いつ発売するんですか? オレもほしいですよ」と言ってくれました。
土肥義則(以下、土肥):何も知らない人にとっては、驚くでしょうね。HUDはドライバー席からはよく見えるのですが、助手席からは全く見えません。少し角度を変えるだけでも見えなくなるので、スタッフの人も「チラッと何かが見えた!」といった感じだったのではないでしょうか。
それにしても、なぜナビ情報がフロントガラスの前方に見えるのですか? 文系人間の私には、さっぱり分かりません。
どうして浮かび上がって見えるの?
古賀:まずナビ情報をレーザーを使って、前方に映し出します。クルマのサンバイザー部に取り付けたプラスチックの板はコンバイナーと呼ばれるもの。このコンバイナーに反射された映像が、外の風景と重なり合って見えているんですよ。
土肥:でも、映像はフロントガラスの先に浮かび上がって見えています。どうしてですか?
古賀:コンバイナーに映像が映って、その情報をそのまま見ようとすれば危ないですよね。運転するときには遠くを見ているのに、ナビ情報が50cmのところに映し出されていれば、そのたびに目のピントを合わせなければいけません。そうなれば目には相当の負担がかかりまし、時間がかかります。
そこでコンバイナーを凹面構造にして、虚像が遠くに見えるようにしました。ドライバー席からは3m先の37インチ相当の虚像を見ていることになりますね。
なぜ映像がフロントガラスの先に浮かびあがるかといえば、夜の電車の窓を想像してください。自分が窓の表面に映るのではなく、その先にいるように見えますよね。
土肥:確かに。
古賀:電車の窓にピントを合わせても自分の姿は、ハッキリとは見えません。自分の姿が見えているのは、その先にいる自分なのです。映像がフロントガラスの先に浮かびあがるのは、この現象と同じなんですよ。
土肥:安全に走行できるために「3m、37インチ相当」と設定されたようですが、この数字に根拠はあるのでしょうか? このHUDはこれまでにないモノなので、「安全性は大丈夫なの?」と感じている人も多いかと思います。
古賀:社内で何度も何度も実験を行いました。ただそれだけでは不十分なので、医学的見地からも検証をお願いしました。
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