【番外編】見積もりミスによるリスクを契約条件で回避する方法(その1):山浦恒央の“くみこみ”な話(45)(2/2 ページ)
今回は少し視点を変えて、“契約条件”の面から、実践できる見積もりミス対策を検討する。ソフトウェア開発で主流の一括請負契約におけるリスク軽減対策とは?
4.見積もりミスで被害を受けるのは?
一括請負契約の場合、見積もり精度が低いと、開発側が大きな打撃を受けます。発注側は、コスト面の損害はありませんが、スケジュール、機能、品質面での打撃は計り知れません。発注側が、「ソフトウェアの開発が予定通りに終了するだろう」との前提で将来のビジネス計画を立てていた場合、その計画は大幅な見直しが必要になります。
このように、見積もりミスは、発注側と開発側の双方に大きな影響を与えます。最悪の場合、共倒れになります。そのため、見積もりミスがあっても、双方の被害を最小限にする工夫が必要です。
5.対策その1:要求仕様フェーズの業務支援契約
見積もりミスが起きる大きな原因は、「見積もり技術が稚拙である」と、「実装機能が確定していない」の2つです。
「見積もり技術が稚拙である」という問題は、見積もり技術や見積もりのプロセスに関するものであり、これまでお届けしてきた「見積もり・シリーズ」のメインテーマとして取り上げました。具体的には、FP試算法、SLIM、(過去の類似プロジェクトからの)類推法を採用することで、高精度での規模見積もりや、見積もりの習慣付けが可能となります。
もう一方の「実装機能が確定していない」の解決は簡単ではありません。ソフトウェア開発で、通常、最も時間がかかるのが「要求仕様フェーズ」です。要求仕様フェーズで実装機能が決まらないと、正確な規模予測ができません(それを無理やり予測するのがFP試算法なのですが)。この対策として、通常は要求仕様の定義からテストまでの「ソフトウェア開発一式」を一括請負で契約するのですが、要求仕様フェーズだけを業務支援契約とし、残りの作業を一括請負にする方法があります。
まず、通常の開発フェーズを図2に示します。この方式では、発注側は、システム化計画を立て、実現可能性を分析して、以降の開発フェーズをソフトウェア開発会社(開発側)に依頼します。開発側は、発注側と協議しながら要求仕様を凍結させるのですが、そう簡単には決まりません。
「その処理方式ではなく、この方式にせよ」との発注側の要望を受け、翌週、変更したものを持っていくと、「うーん。やっぱり、元のままがいいな」と言われ、モチベーションがガクッと下がった……。そんな経験をしたことありませんか? 優柔不断な発注側のせいで、仕様は一向に決まらず時間だけが過ぎていきます。当然、納入日をシフトしてくれるはずもありません。
プロジェクトが途中で打ち切りになる原因のおよそ50%が、この「なかなか仕様を凍結できない」で、残りが「見積もりミス」です。プロジェクトが失敗する主な原因は、この2つにあるといえます。
そもそも、このプロジェクト失敗の2大要因を、開発側が責任を持って解決するというところに無理があります。それなら、「この2つを発注側に担当してもらえばいいのでは?」というのが、図3の契約方式です。この方式の骨子は、以下の2つです。
- 「要求仕様フェーズ」までを業務支援契約とする
- 仕様が凍結されてから規模を見積もり、一括請負契約を結ぶ
要求仕様フェーズを業務支援契約とすると、仕様を凍結できないことや、それにより生じるスケジュール遅延のリスクは、発注側が負うことになります。当然、発注側は早く凍結させようとするでしょう。
契約の形態は大きく異なりますが、実際の作業内容(図2の「要求仕様」と図3の「要求仕様」)は、何も変わりません。これにより、開発側のリスクは大きく下がり、また、正確な規模見積もりが可能になるのです。
今回は、見積もりミス対策を正攻法ではなく、“契約条件”から検討してみました。
引き続き、契約の側面から、見積もりミス対策を考えていきます。次は、「実費償還契約」を取り上げる予定です。これは、ある程度のコスト超過分を発注側に負担してもらう代わりに、実費が想定コストを下回った場合は、安くなった分を発注側と開発側で折半するというものです。建設業界などで実績のある契約形態ですね。
見積もり技法や、見積もりプロセスの活用だけでなく、契約条件を含めた多角的な対策により、デスマーチ・プロジェクトが1つでも少なくなることを祈っています。(次回に続く)
東海大学 大学院 組込み技術研究科 助教授(工学博士)
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