実例! 韓国の大手総合電機メーカーの判断が早いワケ:リサーチペーパーでひも解くS&OP(5)(2/3 ページ)
震災や洪水でダメージが少なかった日本“以外”の企業は、日々のオペレーションを指揮する意思決定プロセスをこんな感じで運用している。いざというときにダメージの少ない企業体質を身に付けるための処方せんを知り、自社導入の参考にしよう。
もし社内で提案するなら?:自社の課題を整理してみる
どうやら、Sさんには既に解決の糸口が見えているようです。彼はこれまで学んだ内容を手掛かりにしながら、最初に現状の課題を整理していきました。ここからは、Sさんが、社長へのプレゼンテーションを行う前提で話を進めていきます。
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図2にあるように、現在、わが社では製販調整会議を通して直近3カ月の需要計画と生産計画を月次サイクルで立案しています。
経営側では、四半期レビュー会議を開催し、製販会議の結果を反映する形で事業計画を見直しています。しかし、営業と生産の製販調整において、また製販調整の結果を事業計画に反映する四半期レビューの両方において多くの課題を抱えています。
ここからは「プロセス」「組織」「ITシステム」の3つの観点からわが社の現状を分析し整理してS&OPの適用を検討していきます。
プロセスの課題:部門都合が最優先。確立された合意形成プロセスや評価指標がない
月次で営業が個別に作成する需要情報を生産部門が集計し、生産部門は供給能力の制約などを考慮して生産計画のドラフトを作成、製販調整会議を通して直近3カ月の生産計画や営業への供給確定数量を調整しまとめています。
製販調整会議では直近の需給バランスに注力され「声の大きい営業が評価される」「生産は稼働率を重視する傾向がある」など「全社視点がなく」、部門や担当者の都合が全面に出ている状況です。
そのため調整に多大な時間や労力がかかり、また調整された計画も会社全体には利益をもたらさない結果を生み出しています。現在、月次サイクルで製販調整を行っていますが、プロセス改善とITの活用により、計画作成時間を大幅に短縮することも可能かもしれません。
事業計画を見直す四半期レビュー会議は、製販調整会議の計画・実績が十分に連携できておらず、実質的には、月次の計画と切り離された形で運用されています。そのため四半期レビュー会議では現場の最新情報など経営層が必要とする情報がなく、計画未達成の原因分析・検証が困難で、意思決定や判断に大きな支障を抱えているのが現状です。
PDCAサイクルいう視点からプロセスを見ると、わが社では予定通り進んでいるのか判断するための指標が明確に定義されていません。立案された計画は立てっぱなしで、現場の進捗をモニタリング・評価しながら計画にフィードバックするプロセスが組み込まれていません。結果として、これが経営層や部門長の意思決定スピードに悪影響を与え、事業計画の未達成につながっている可能性があります。
組織の課題:各部門を横断的に統括する組織がなく、責任の所在も曖昧
製販調整会議に参加する部門は営業と生産のみで、直近3カ月の需給バランスに重きを置いた体制となっており、新製品の投入プランに関係する製品開発部門やマーケティング部門、事業目標などの金額に関係する財務部門は参加していません。
また、計画を取りまとめる際に、部門間を横断的に調整する組織がなく、営業と生産とが互いの都合の綱引きを行い、その結果、売れ残りの在庫が発生した場合でも原因分析や責任の所在が不明確となっているのが現状です。経営層は四半期レビュー会議に参加しますが、月次の製販調整会議には参加していません。
ITシステムの課題:最新の計画・実績情報を全社で共有する仕組みがない
現在、わが社では計画情報の多くをExcelで管理しています。製販調整に関してもデータを集計、作成するプロセスのほとんどは手作業に頼っており、担当者には多大な負荷と時間がかかっています。作業の自動化を支援するITにより、計画作成の時間を大幅に短縮し、ひいては計画サイクルを月次から週次につなげられるかもしれません。
また四半期レビュー会議でのレポート作成準備は、製販調整で利用する、異なる情報粒度の調整をExcelで行っているため、作業が非効率でムダな人員や時間を生んでいます。結果として、経営層が現場の最新の状況をすぐに把握できず、迅速で的確な経営判断ができずにいます。
仮に、営業や生産・製品開発部門などの実績・計画情報が全社で共有され、最新情報を基に経営層がパフォーマンスをレビューできる「統合化された情報基盤」が整備されていれば、意思決定のスピードや質は大きく変わるかもしれません。現状のExcelをベースとした仕組みでは、情報は個々の担当者や部門で保持され、最新の情報は経営層や他部門では把握できないのが実態です。
もし社内で提案するなら?(2):わが社のS&OP実現の方向性とは
それでは次にS&OPをどのように適用すれば課題を解決できるのかを検討してみます。図3はS&OP適用後のわが社のプロセスフローと、開催するレビュー会議の方向性を示したイメージ図です。
プロセス改善:「全社視点で製販や事業計画を同期化させ、PDCAサイクルを確立する」
分断されている製販調整会議と事業計画を見直す四半期レビュー会議を、1つの統合化されたプロセスとして再構築することを目指します。まず
月次の製販調整の領域においては、生産部門に需要情報を渡し議論する前に営業部門が中心となって製品開発や財務部門を巻き込んで、信頼性の高い需要計画を作成するためのインプット情報を取り込み検討するプロセスを導入します。
数量だけでなく売上金額を考慮しながら、中長期の新製品投入や製品切り替えの情報に加え、市場や競合他社動向を共有して的確に計画に反映させる部門間を横断した合意形成のプロセスにより需要計画の精度を高めます。需要計画、生産計画、そして供給確定数量を調整する会議のみで行うのではなく、部門間を横断して合意する統合調整のプロセスを公式に確立します。
現行のプロセスでは計画を評価・検証することはしていませんが、S&OP導入により業績を評価・管理する指標を設定し進捗をモニタリング、次の打ち手につなげていくことでPDCAサイクルを確立します。
例えば、需要計画を合意形成するレビュープロセスでは、計画対実績の差異(%)や前回計画対今回計画の計画差異(%)から計画精度の問題を発見し、原因を突き止めて対策を検討することにより需要計画の精度を高めていきます。また売上・粗利など財務的な指標も設定し評価することで、数量と金額との調整を行い、目標達成に向けた計画立案・見直しを可能にします。
計画の対象期間に関してですが、週次サイクルのレビューでは直近の3週間を、月次では6カ月間、四半期サイクルではレビューしている事業計画と同期を取るためにも12カ月から15カ月に伸ばします。
週次サイクルでは直近の3週間の計画の数字を見直し、これまでと同様に製販調整を目的とした品種レベルでの情報粒度で計画を行います。4週目以降の計画は、月次サイクルのレビュープロセスで毎回見直しを行い、情報の粒度はブランド別や製品グループ別といった集計されたレベルで管理を行います。四半期サイクルのレビューでは年次計画の見直しや設備投資といったより戦略的な意思決定を行います。
サブプロセスで調整・確定された計画はマネジメントレビューで各部門長と経営層が参加する中で検討、承認されます。レビューする内容は需要計画、生産・供給計画、新製品計画、財務計画が想定されますが、数量のレビューだけでなく売上金額のレビューも行います。月次・四半期のレビュー会議に関しては、先ほどの韓国企業の事例と同様にここでは売上金額だけでなく変動費、固定費まで考慮した収益の見通しをレビューしていきます。
四半期レビューサイクルで見直された4カ月目以降の中長期の計画は、事業計画に反映されていきます。計画に対する見通しが年次計画や事業計画の目標に達成するか否か、しないのであれば、例えば営業やマーケティングを中心としながら売り上げを確保する対策を考え、生産はそのための設備投資を計画するといった議題が想定されるでしょう。
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