変化する“DMS的”業界地図と3Dプリンタ動向:DMS2012を歩く(1)(1/3 ページ)
2012年6月に開催した第23回 設計・製造ソリューション展に見た業界トレンド考察と、3次元プリンタ関連ブースの動向について取り上げる。
毎年6月恒例の「設計・製造ソリューション展(DMS)」も終わり、読者の皆さんに少しばかり日常が戻ってきた頃でしょうか。ベンダーによってはユーザー向けイベントを7月に開催しますので、夏休み前までは製造ソリューションイベントのシーズンは続きます。
さて、DMSは今回の開催で23回目(会期は2012年6月20〜22日)でした。ということは、「私がこの業界に入る前から始まっていた」ということになります。あと2回もやれば、四半世紀です。当然この間に、企業や業界の中で“はやり廃り”があって、いろいろな出来事がありました。
成熟したCAD業界とDMS
1990年代後半〜2000年代前半にかけては、いわゆる「ハイエンド3次元CAD」や、「エンタープライズPDM/PLM」が、“一大勢力”のように、DMSの展示会場で非常に大きな面積を占めていました。そのブース内のレイアウトも、まるで“一大エンターテインメント”のようでした。
当時のことを思い出しながら、今回の出展レイアウトをあらためて眺めてみると、やはり、随分と地図が書き換わった感じがしました。毎年続けて来場している方々はお気付きでしょうが、ここ数年、“赤色”の「機械要素技術展(M-Tech)」の面積が大きくなり続けています。しかも今年は、全体の約4分の3がM-Tech(赤)。それに対し、“緑色”のDMSの面積はかなり縮小し、さらに“青色”の「バーチャルリアリティ展(IVR)」に至っては、会場の端の方で小さくなっていました。
もっとも、これは必ずしも「業界内の勢いだけの話」といえなくはないでしょう。確かに、DMSに出展する企業(ITベンダー)の顧客は次々に海外シフトしていますし、家電業界のように現在苦しい状況であるのは、ニュースなどで周知の事実です。だからといって、設計開発業務はまだそれなりのボリュームで国内にあって、そのソリューションの需要もそれなりに存在しているはずなのです。
DMSがやや縮小傾向なのは、CAD/CAM/CAEやPLMの業界が「ある意味で成熟してきたから」だとも考えられます。他の主要工業国と比較してしまえば、「3次元CADの定着率が低い」といわれる日本製造業ですが、それでも3次元は“それなりに”定着してきました。
CADの機能についていえば、「モデリングそのものについての新機能が加わる」という局面は過ぎ、昔以上に「使い勝手」と「3次元データの活用」が重視される段階になってきています。
CADの主要プロダクトに関しては、ある程度市場に定着してきているからか、ベンダーは多額の費用を投じてプロモーションしない傾向になっています。DMSに出展し続けるCADベンダーについては、「もっと落ち着いた形」での情報提供や“顧客とのつながり”を求める場となっているのかもしれません。
中小企業にとっての大型展示会
さまざまな部品を作る中小製造業については、これまでの受発注関係にとらわれず、自らが情報発信し、新規事業を始める動きが見られます。いま、「中小企業による情報発信の場」としてのM-Techが大きくなっているのは、それほど不思議な話ではないでしょう。
大型展示会の存在意義は、毎年のようにDMSに出展するITベンダー担当者同士でも語られてきたのですが……(私もかつて、そうでした)。私は、「展示会を見に訪れる製造業関係者にとっても、実は、大きな意味があるのではないか」ということに、あらためて気付きました。
インターネットや、Facebook、TwitterなどSNSが発達し、製品やサービスなどの表面的な情報は、いまだかつてないほど容易に獲得できるようになっています。一方、ベンダー担当者と顧客がフェイス・トゥー・フェイスで直接話をするニーズは、従来以上に増しているのではないでしょうか。
DMSが、製造業関係者が興味を持つ一大イベントである以上、全国からたくさんの人が集まります。その状況は20年前も10年前も、そして今日も変わらないでしょう。それと併せて最近は、SNSを介して、これまで情報が交換しづらかった異なる地域の製造業関係者が一同に介して集まるようなオフ会も開催されるようになりました。
私が参加させていただいたイベントでは100人を超える中小製造業関係者が集まっていました。そこで知己になって、場合によっては、それを将来の仕事へつなげる場としての役割も担いつつありそうなのです。DMS主催側の意図はともかく……、私はそのように思いました。
DMSの内部でも地図の変化が
前述しましたが、DMSはかつて、東京ビッグサイトの会場内で最も大きな面積を占めていました。その中でも、最大勢力を誇っていたのが、3次元CADやCAEのベンダーでした。
初日にDMSに行った後、方々から「今年のDMSの状況」についてたずねる声が、私の元へ届きました。それを一言でいうなら、「様相の違い」でした。CADやCAEベンダーが“比較的落ち着いていた”のに対して、3次元プリンタのセクションが“大賑わい”という印象でした。CADやCAEに関していうと、MSCソフトウェアのような大手ベンダーが久々に出展するという動きがあった一方、オートデスク(Autodesk)やPTCが出展しない、あるいはシーメンスPLMソフトウェアは出展の内容を同社製品の「Solid Edge」に絞るなど、実際のスケール的にコンパクトになったこともあると思います。
もちろん最終日は、CADやCAEのゾーンも歩くのが困難になるくらいに混んではいましたが、初日の印象が特に前述のような感じでしたので、そう思ったということもあるかもしれません。
今年の目玉!? 3次元プリンタ
3次元プリンタは、今年のDMSの“目玉”といえそうです。
光造形に端を発したRP(ラピッドプロトタイピング)や3次元プリンタは、20年以上前から存在していました。特にここ1、2年で急速に、これまであまり興味の目を向けていなかった人たちが、さまざまな理由で検討し始めています。
最近は、テレビや一般メディアでも“3次元プリンタなるもの”が紹介されるようになり、その存在感が一層高まってきました。3次元プリンタの低価格化も進み、比較的小規模な事業所においても導入しやすくなったり、「3次元データさえあれば活用できる」出力サービスも普及し始めています。
2011年には、日本国内では海外製の3次元プリンタが主流だった中、キーエンスがアジリスタの販売を開始しています。こちらは、水溶性のサポート剤が特徴の1つです。
ここ1年ちょいの海外の3次元プリンタ業界の動きとしては、Zコーポレーション(Z)がスリーディー・システムズ(3D Systems)に買収されたり、オブジェット(Objet)がストラタシス(Staratasys)と合併したりといった大きな動きがありました。さらに、オブジェットは2012年4月に日本法人のオブジェット・ジャパンも設立しています。
今回のDMSの展示では、オブジェット「Objet30 Pro」、ストラタシス「Mojo」、そしてスリーディー・システムズ「Projet1500」「Projet HD3500 plus」は、場内を行き交う多くの人たちの目をひいていました。
ということで、そろそろ各ブースのレポートに移っていきましょう。
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