中小企業でも導入できるALMツールが機能安全対応の鍵:ISO26262 Polarion インタビュー
自動車業界を中心に、ISO 26262などの機能安全規格に準拠できるようなソフトウェア品質の確保を目的に導入が進んでいるのがALM(Application Lifecycle Management)ツールである。Polarion Softwareは、低コストで導入できるWebブラウザベースのALMツールで海外市場を席巻している新興ベンダーだ。2012年6月から国内市場に参入する同社社長兼CEOのMichael Carey氏に、ツールの特徴などについて聞いた。
自動車や航空機、医療機器など、不具合が起きると人命に大きな影響を与える電子機器を開発する際には、ハードウェアだけでなくソフトウェアにも高い品質が要求される。かつてプロセッサの処理性能が低かったころであれば、不具合の主因はハードウェアの故障だった。しかし、プロセッサの処理性能が高くなり、ネットワーク接続によって複雑な機能を実現するようなシステムが当たり前になった現在では、設計時には意図していなかったバグや、想定外の利用法による異常動作といった、ソフトウェアの問題が不具合の原因の大きな割合を占めるようになっている。
近年注目されている、一般産業用機器向けのIEC 61508や自動車向けのISO 26262などの機能安全規格は、機器の動作に不具合が発生しても安全を確保できるようなハードウェアとソフトウェアを設計/開発するための国際規格である。
中でも、ソフトウェア開発についてこれらの機能安全規格に準拠するには、要件定義から、コーディング、テストに至るまで、何を行ったのかを証明できるようなプロセスの構築やツールの導入が必須となっている。また、こういったプロセスやツールによって、異なる担当部署間で起こる認識の相違に起因する手戻りなどが起らないようになるなどの効果もある。
自動車業界を中心に、ソフトウェア品質の確保を目的に導入が進んでいるのがALM(Application Lifecycle Management)ツールである。国内の大手企業が導入しているALMツールといえば、IBMの「Doors」や「Rational Team Concert」、PTCの「PTC Integrity」の名前が挙がる。一方、機能安全対応で先行する欧州などの海外市場では、2004年創業の新興ベンダーPolarion Softwareが開発したWebブラウザベースの「Polarion ALM」に注目が集まっている。
その同社が2012年6月、東陽テクニカを販売代理店として国内市場に参入した。Polarion Softwareの社長兼CEO(最高経営責任者)であるMichael Carey氏に、Polarion ALMの特徴や対象とする顧客層などについて聞いた。
MONOist Polarion ALMの特徴を教えてください。
Carey氏 最大の特徴は、Webブラウザベースのツールであることです。ALMツールの全ての機能をWebブラウザ上で利用できるのはPolarion ALMだけです。Webブラウザベースなので、Windows PCはもちろん、Macintosh、Linux、スマートフォン、タブレット端末でも使えます。対応ブラウザも、「Internet Explorer」、「Firefox」、「Chrome」、「Safari」、「Android」など多岐にわたります。
また、要件管理から、ソースコードの管理、テストケースの管理など、ALMツールに求められる機能を1パッケージで全て網羅しているのもPolarion ALMの特徴になるでしょう。異なるツールを組み合わせたものをALMソリューションとして提供しているベンダーもありますが、ツール間の連携がうまく取れていなくて使いにくいといった問題もあるようです。Polarion ALMにそのような心配はありません。
ツールの使いやすさにも配慮しました。Webブラウザベースではありますが、クライアントにインストールするタイプのツールと同じ操作性を実現しています。また、管理データのビュワーが、文書として見せる「ドキュメントビュー」と、表で見せる「テーブルビュー」の両方に対応していることも、他社ツールにはない機能です。例えば、要件管理データであれば、要件設計の担当者は文書で確認したいと要望することが多いです。一方、その要件を基にコーディングする技術者は表で見たいと考えています。Polarion ALMを使えば、双方の要望に応えられるのです。
MONOist 中小企業が多いティア2〜ティア3のサプライヤがALMツールの導入をためらう理由として、導入コストの高さが挙げられます。Polarion ALMの導入コストについて教えてください。
Carey氏 既存のALMツールは大企業向けを前提としているため、高価である上に、大規模なシステムも必要になります。中小企業が導入できるものではなかったのです。Polarion ALMは、当社が保有するPolarionサーバを使うWebブラウザベースのツールなので、大規模なシステムは必要ありません。また、1人の管理者で100人のユーザーを管理することができます。さらにツールのライセンス価格も、他社ツールより安価です。Polarion ALMであれば、中小企業であっても負担なくALMツールを導入できます。
「Polarion ALM」のアーキテクチャ。Polarionサーバ上で動作するPolarion ALMの各種機能は、オープンインタフェースを介して、Webブラウザをはじめさまざまなツールと連携できる。(クリックで拡大) 出典:Polarion Software
http/https、Java Open APIs、SOAP、XMLなど、オープンインタフェースを採用しているので、ソフトウェア開発ツールなどとの連携によるツールチェーンの構築も容易です。IBMの要件管理ツール「Doors」と連携する機能もあるので、既にDoorsを導入している大手企業がPolarion ALMを追加で導入しても、ソフトウェア開発プロセスに問題は起こりません。
東陽テクニカ Polarion ALMの国内向け販売価格は、1ライセンス当たり40万円を予定しています。サーバライセンス契約となる他社と比べれば、7分の1〜8分の1に抑えられます。また、Polarion ALMの要件管理機能だけを抜き出した「Polarion Requirements」であれば、1ライセンス当たり25万円です。無料で利用できる試用版もあります(PolarionのWebサイトからダウンロードできる)。
MONOist 実際には、ALMツールどころか、機能安全規格などで求められるソフトウェア開発プロセスの導入も満足にできていない中小企業が多くあります。これらの企業に対して何らかのサポートを行っていますか。
Carey氏 ユーザーには、CMMIやAutomotive-SPICEなどのソフトウェア開発プロセス標準や、ISO 26262などの規格に対応するためのテンプレートを提供しています。このテンプレートを活用すれば、ソフトウェア開発プロセスや機能安全規格への対応をより容易に実現できるようになります。こういったサービスも、中小企業には大きなメリットになるでしょう。
MONOist 国内市場での展開はこれからになりますが、海外市場ではどのような採用実績がありますか。
Carey氏 500社のグローバル企業を含めて、1000社以上の企業に採用されています。ユーザー数は100万人以上です。キヤノンやリコーなどの日本企業も、海外拠点ではPolarion ALMを採用しています。
われわれの顧客企業として特筆すべきなのは、フォルクスワーゲン、ダイムラー、フィアット、エアバスなど、他社のALMツールを採用していた大手企業でしょう。これらの企業は、サプライチェーン全体でのソフトウェア品質の向上とともにコスト削減を実現したいこともあって、自らPolarion ALMを採用することで、サプライヤの採用を促そうとしているのです。
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